Opinion : 武器輸出三原則の見直しに関する疑問 (後編) (2004/8/2)
 

先週は、冷戦終結などの事情による市場規模の縮小から、兵器輸出市場が極端な "買い手市場" となっており、輸出側は大変な思いをしている、という話を書いた。今週は視点を変えて、「武器輸出三原則の見直しは平和国家として云々」といった主張や、現実問題として日本に輸出できるような製品があるのか、といった点を考えてみたい。


まず、お約束のように出現する「武器輸出三原則の見直しは、平和国家にあるまじき行為で云々」という話。

確かに、兵器輸出というのは (建前はどうあれ) 戦争行為に手を貸すという部分があるし、先週書いたような「使ってくれそうな国に輸出する」というのは相手国を実験台にしている不埒な行為ともいえる。
では、本当に "平和的" な国家が兵器輸出と無縁かというと、どうもそういうわけでもない。たとえば、「永世中立国」という看板のせいで平和団体などから妙に高く評価されていることも多い、スウェーデンやスイス。実は、この両国は兵器輸出の面では大物だ。

スウェーデンの Bofors Defence Systems 社や Saab 社、スイスの MOWAG 社・RUAG 社・Oerlikon Contraves 社・SIG 社といった面々は、世界の兵器市場で相応の地位を得ている。しかも、笑い話みたいだが、これらのメーカーの製品は日本にもかなり入ってきている。たとえば、Bofors 社のカール・グスタフ無反動砲や、Oerlikon 社の 35mm 対空機関砲、SIG 社の拳銃などがそれだ。
だが、「平和国家が平和国家に兵器を輸出するなんて怪しからん」といって両国の大使館にデモ行進した話は、トンと聞いたことがない。いい加減なものだ。

だいたい、"武器輸出大国" というと槍玉に上がるのはアメリカ・ロシアぐらいのもので、あとはせいぜいイギリス・フランスあたりが付け加えられる程度というのが一般的認識だが、実はこの業界、意外な国が意外な分野で強い。小火器や砲熕兵器に強いベルギー、イタリアあたりが典型例だが、南アフリカやイスラエルも無視できない。そして、ベルギー製の機関銃やドイツ製の戦車砲、イタリア製の艦砲が自衛隊でも使われている。ドイツも戦車や艦艇輸出ではかなり頑張っている部類で、実際、韓国にはドイツ生まれの潜水艦が入っている。
こんな調子だから、一般的な「平和的国家」のイメージと「兵器輸出国家」としての実体は、あまりシンクロしていない。

あと、性能はそこそこだがとにかく安いし、相手をいちいち選り好みしないで売ってくれるという点では、北朝鮮や中国。場合によっては、こういう輸出元の存在は非常にありがたいものだ (こらこら)。朝日新聞が大好きな中国が、実は兵器輸出に血道を上げているのは業界の常識だ。

こうなると、兵器輸出で文句をつけるかどうかの分かれ目は、兵器輸出を行っているかどうかということよりも、輸出に際してどの程度の節操があるか、という点だと思う。紛争当事国や武器禁輸措置の対象国にもお構いなしに兵器を輸出する、対立して撃ち合いをやっている双方の国に同じ戦闘機や潜水艦を売りつける、といった無節操な兵器輸出をやっている国こそ、責められるべきではなかろうか。


それはそれとして。

先週、「価格は高いし combat proven でもない、しかも競争は激しいし、オフセットだなんだで足元を見られる。そんな状況下で、日本製の兵器を輸出しようとして買い手がつくのか」と疑問を呈した。現実問題として、航空機、砲熕兵器、小火器、AFV といった分かりやすい分野で日本製品が世界制覇を実現するのは、おそらく無理な話だと思う。

意外と可能性がありそうに見えるミサイルも、実績や、既存の製品との相互運用性という点で足を引っ張られるのが辛い。
もっとも足を引っ張るのが搭載機へのシステム・インテグレーションで、単にランチャー・レールの寸法が合えばいいとかいう話ではないのが問題になる。もともと日本国内向けに開発されたものを他国の戦闘機などに適合させるのは、不可能とはいわないまでも、相応に手間と費用がかかる。それなら実績がある他所の製品を買ってしまえ、ということになりかねない。

艦艇は品質や価格面だけ考えると可能性があるが、現実問題としてはドンガラよりも内蔵するシステムの値段の方が高いわけで、そちらまでワンセットで日本製品を載せて売り込めなければ、大した利益にならないのではないか。この手のシステムを得意とする海外の企業 (Lockheed Martin, Northrop Grumman, BAE Systems, Thales) あたりとアライアンスを組むというのもひとつの手だが。

だが、分野によっては意外と競争力を発揮できる可能性がある。
たとえば、通信機やコンピュータ端末といった、NCW (Network Centric Warfare) に関わる IT 関連装備。こういうのは技術的に民生品と共通する部分が多いし、COTS (Commercial-off-the-Shelf) 品の活用がテーマになっている分野でもあるから、意外と出番があるように思える。現に、Panasonic 製のラップトップ PC は米軍でも大量に使われている。しかも NCW は今後の発展性が期待される分野でもある。

あるいは、発達したゲーム産業を活用して、シミュレーション訓練の分野に進出するという手もある。実戦的なシミュレーションまでは無理でも、新兵訓練の際の教育資料としてぐらいなら、それなりに役立つだろう。(でもこれ、すでに Xbox 用のゲームが出ているのだが)

そういう意味ではロボットもどうだろう ? と思ったが、これは、凝りまくって複雑精緻なものを作ってしまいがちな国民性を考えると、あまり戦場向きではなさそうだ。
むしろ、ピックアップ・トラックや四輪駆動車などを、特殊作戦部隊用の車輌に仕立てるベースにする、という方が現実的。すでに、ヨルダンではトヨタ製のシャシーを使って、上物だけ改修した車輌を作っている。日本車なら世界のどこでも部品を入手できるし、壊れないということでは折り紙つき。これは可能性がある。

なんだったら、「日本発のオープンソース製品がない」と嘆いている経済産業省あたりに音頭をとってもらって、「オープンソースの指揮管制装置」とか「オープンソースのネットワーク戦闘システム」「オープンソースの無人監視システム」「オープンソースの暗号化機材」なんてものを売り出してみたらどうだろう。ソースが公開されていれば改良が速く、安全性の面でも優れているそうだし、費用面でも安くつく (のだそうだ)。あながち、悪いアイデアではないだろう。

あと、意外なところでは戦闘糧食。これは間違いなくウケる。なにしろ、日本製のインスタント食品は異常といってもいいぐらい発達しているし、宗教的禁忌がないのが幸いして、いろいろな国の食い物がある。これを活用しないという法はない。現に、カンボジアの UNTAC では陸自の戦闘糧食が「糧食コンテスト」で一等賞になったというぐらいだから、もう実績つきだ。

それに、糧食だったら人間がいる限り需要はなくならないし、しかも道義的風当たりも少ない。直接的な戦闘糧食としての用途以外にも、平和維持活動や人道支援活動など、いろいろと出番がある。


なんだか情けない結論になってしまったが、平素から兵器輸出に関するニュースを大量に見ている立場からすると、一般的に考えられているほど兵器輸出は簡単な商売でもなければ、安直な商売でもないと思うので、あえて釘を刺すようなことを書いてみた。もちろん、メーカーや防衛庁の関係者ならこういった話は先刻承知だろうが、むしろ、よく分かっていない人が横合いから余計な口を出すことの方が心配になる。
あまり、安直に「兵器輸出の解禁」なんていわないで欲しいものだ。道義的な話を云々するより先に、考えなければならない話はいっぱいある。

追記 (2004/8/3)

7/12 付の Opinion にリンクしてくださった「治部少輔の筆誅亭日乗」さんに、「武器輸出で現実味があるのは海自の中古護衛艦」とあるのを見て唸った。ついつい新品にばかり目がいっていて、これは気付かなかった。
確かに、中古護衛艦を東南アジア諸国に売りに出す案はいける。ブツは豊富だし、搭載している兵装の多くは欧米製品だから、パーツの補給や相互運用性の面でも大きな問題にはならない。レーダーなんかでは国産品も載ってるから、アフターサービスでもささやかに商売できる。さらに、教育訓練などの名目で人を派遣したり共同訓練をやったりすれば、信頼醸成措置 & 中国への重しにもなる。

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