Opinion : 数字の魔術 (2004/8/9)
 

物事を評価するときに、見た目の印象だけで評価するのと、具体的な数字が添えられているのとでは、どちらが信頼できると感じるだろう ?

たとえば、直近の話題でいうと、北京で開催されたサッカーのアジアカップ。「中国人サポーターの一部がブーイングを発して云々」と報じられた場合、「一部」が具体的にどの程度の数、あるいは比率を表すのかは、まるで明瞭ではない。
だから、たとえば 70,000 名いたうちの 500 名なのか、それとも 50,000 名なのか、どちらにしても「一部」と形容することは可能であり、この表現だけでは正確な状況把握ができない。いいかえれば、「一部」と表現することで情報の印象を操作することも可能になる。

これが、具体的に「70,000 名の観衆のうち 60,000 名がブーイング」と報じられれば、もっと事態は明瞭になる。もっとも、実際にブーイングを発している人の数を正確に勘定するのは不可能だから、これはあくまでたとえ話ということで御了承願いたい。

では、見た目の印象だけで評価するのは論外としても、具体的な数字が添えられていれば、それだけで絶対的に信頼できるものだろうか ? 実は、そうでもない。数字といえども、いろいろと印象操作できる。


たとえば、戦闘で軍隊が損害を受けた場合について考えてみよう。

何かの戦闘で、戦死者が 1 名出たとする。これが、100 万人単位の人員を抱えている中国人民解放軍なら、1 名の戦死者が出たところで、痛くも痒くもない (戦死者の身内や友人にとっては別の話だが)。しかし、英陸軍 SAS の 4 人組パトロール隊で 1 名の死者が出れば、パトロール隊にとってのダメージは大きい。このように、「1 名」という絶対的な数値でも、その影響の度合は場合によって異なってくる。

逆に、相対的な比率で示した場合にも、基になる数字の多寡が影響してくるから、一律に判断するのは難しい。
たとえば、「戦闘で 25% の死者が出た」とする。陸戦の世界では 25% の死傷者が出れば大損害だが、SAS の 4 人組パトロール隊が 25% の死者を出すと戦死者は 1 名。それに対して、人民解放軍が 100 万人いて 25% の死者を出したら 25 万名だ。25% といっても、1 名と 25 万名では全体的な影響がまるで違う。(戦死者の身内や友人にとっては別の話だが)

実際には、国によって生命の "重み" が違うから、さらに評価が難しい。米軍の兵士が 1 名戦死すればマスコミが大騒ぎするが、アフリカあたりの民族紛争で死者が何千人出てもマスコミが騒がないのは、この "重み" の違いということだろうか ? だとしたら、とんでもない話だが。

こんな調子だから、「1 名」という数字、あるいは「25%」という比率を見ただけで物事を判断することはできない。絶対的な指標と相対的な指標を使い間違えると、とんだ判断ミスになりかねないという一例。


絶対指標と相対指標ということで、もうひとつ。

100 億円の市場規模があるところに、80% のシェアを持つ「A 社」と、10% のシェアを持つ「B 社」があったとする。そこで、翌年になって「A 社の売上は 5% の伸び、それに対して B 社の売上は 30% の伸び」と報じられた場合を考えてみる。

伸び率の数字だけ見れば、B 社の方にものすごく勢いがあるように見える。確かに、伸び率の数字だけ見れば 6 倍もの開きがある。しかしだ。
伸び率というのはあくまで相対的な指標だから、売上の上昇額が同じなら、基になる数字が小さい方が伸び率の数字は大きくなる。つまり、シェアが小さい側にとってみれば、絶対的な金額で測られるよりも、「伸び率」という相対的な指標で測られる方が、勢いがあるように見えることになる。

そこで先の例を見ると、絶対的な売上状況の数字は以下のようになる。伸び率の数字と並べて見てみよう。


前年度の売上今年度の売上売上の伸び率売上の増加量
A 社80 億円84 億円5%4 億円
B 社10 億円13 億円30%3 億円

なんのことはない、売上の伸び率だけ見ると A 社より勢いがあるはずの B 社は、売上額の伸びで見ると A 社に負けており、むしろ両者の売上の差は前年度よりも 1 億円開いてしまったことになる。その原因は、ベースになる数字が 8 倍違うのに、伸び率の数字は 6 倍しか違わない点にある。
これでは、実際に勢いがあるのがどちらなのか、分からなくなってしまう。しかし、B 社を贔屓したいメディアが「伸び率」の数字を強調して報じるような事態が生じる可能性は十分にあり、それは結果として一種の印象操作になる。なまじ数値がついているだけにタチが悪い。

もちろん、これはあくまでひとつのたとえ話だから、常に B 社のような立場にある企業が不利になるわけではない。それに、企業の業績を評価する際には、売上だけでなく利益率なども考慮しなければならない点にも留意する必要がある。とはいえ、「伸び率」という相対的な指標と「売上額」という絶対的な指標を並べて検討してみないと、とんだ判断ミス、あるいは印象操作をする可能性があるという一例にはなる。


このように、相対的な指標と絶対的な指標を巧妙に使い分ければ、数字を使った印象操作も不可能ではない。だから、具体的な数字が添えられているというだけで信用してしまうのは考え物で、その数字の根拠や、相対的指標か、あるいは絶対的指標かを見極めながら情報を評価しないと、大間違いを仕出かす原因になる。こういうことを考えながらニュースを見てみるのも、ある種、賢明なやり方ではないだろうか。

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