Opinion : プロであるということ (2004/8/16)
 

「@IT」に、加山恵美氏の手になる同名のコラムが掲載されたことがあるが、これは IT プロフェッショナルとしての心がけについて説いた記事だった。その中で、プロフェッショナルの定義として

「プロフェッショナルであるということは、
 お金をもらって仕事をすること」

というくだりが出てくる。

我々はしばしば、「プロ」とは「何かに秀でた人」と勘違いをすることがあるが、実際には「何かを商売にする人」あるいは「何かを商売として成り立たせることができる人」というのが正しい。ただ、何事であれ、商売にするにはそれなりに秀でたものが必要なことが多いから、結果として「何かに秀でた人」ということになる場合もある。しかし、それはあくまで結果論で、本来の定義ではない。


どうしてこんなことを書いたのかというと、昨今のプロ野球をめぐる議論が、あまりにも感情的・情緒的な方向に走り過ぎていて、肝心の「経営」という視点が欠落しているように思えるからだ。オーナー側にもいろいろとまずい点はあるが、批判側がやっていることといえばオーナー諸氏の言葉尻を捕まえてビービー騒ぐだけで、経営そのものについて批判する、あるいは提案する声がどれだけあるか。
プロ野球の球団は、ボランティアでやっているわけではない。なにしろ「プロ野球」というぐらいで、先の定義を敷衍するならば、「お金をいただいて野球の試合をやって見せるのがプロ野球」ということになる。これは、球団と選手の両方に適用されることだ。

ということは、球団でも選手でも、いただくお金に見合った内容を持つ試合をやって見せなければならないし、いくらいい試合をしてもお金が入ってこなければ、プロとしてはやっていけない。だから、いいプレーをして見せるのは当たり前の話で、さらに、球場に足を運んでくれるファン、あるいは TV 中継を通して試合を見てくれるファンを大切にして、リピーターを増やすように努力するのが本当のプロだ。

球団を「広告宣伝のひとつの手段」と位置付けるなら、赤字が出ても親会社が補填する方法があるが、昨今の経済状況からいって、そんな余裕のある会社は多くないだろう。その一方で、多額のカネを持っているだろうと世間的に思われている「あの会社」や「この会社」は、まるでプロ野球に興味を示さない。野球が好きというよりも、騒ぎを利用しようという打算が目につく会社ならあるが。

こういった状況の下では、球団は自らの努力で収支を維持しなければならないことになる。そもそも「プロ野球」なのだから、球団もプロでなければならず、自立した経営ができるのが本当だ。裏を返せば、現行の仕組みで収支が維持できないのであれば、

  1. 収支構造を変えようと努力する
  2. 収入を増やそうと努力する
  3. 支出を減らそうと努力する
といった対策が求められる。
1 リーグ化して巨人戦の放映権料を全チームに入れられるようにするのは「1.」だし、地域密着で地元の支持を強めて固定客を確保する精密誘導爆弾型の経営、あるいはネーミングライツを売りに出すのは「2.」、経営効率化や選手の年俸抑制は「3.」ということになる。もっとも、「1.」についていえば、巨人戦の視聴率そのものが低落傾向にある昨今、みんなが巨人戦に依存するようでいいのか、という議論はあるが、これは、そうした状況に対抗できずに寄りかかってきた球界全体の問題でもある。

巷間いわれるような「文化」だとか「地域の誇り」だとか「子供の夢」だとかいう美辞麗句を並べ立ててみても、プロ野球、つまりお金をいただいて試合をして見せる商売であるという大前提に立脚して考えれば、経営が成り立たなければ退場するしかない。そして、個々の球団の経営努力を超えた次元で収支を成り立たせない要素があるのなら、それを変えるしかない。
これは市場原理・経済原理というもので、そこに議連が二つもできてウダウダいうのは、単なる議員の売名行為、ウケ狙いに過ぎない。原発で事故が起きた途端に欣喜雀躍して (?) 幹部が現地に飛び、TV カメラの前で騒いで見せた社民党と同じだ。

個人的には、他の球団を「切られ役」程度にしかみなしていないと思われる、讀賣のスター選手依存型・時代劇的経営手法にはまったく不同意。しかし、少なくともそれはそれで、ひとつの "経営努力" ではある。

そういう観点から「1 リーグ化反対」「2 リーグ制・12 球団のままがいい」という主張を見てみると、現状を維持することで、先に箇条書きしたような経営改善手法が実現可能なのか、という話に収斂する。もちろん、対案としての 1 リーグ化についても同様の検討は必要だけれども、少なくとも 1 リーグ化には「巨人戦の放映権料が云々」という具体的な話がくっついてくるのに対して、「現状維持」派には、それを論破できるだけの論拠が見えてこない。
現状維持を主張するのであれば、せめて、具体的な数字の裏付けを伴った改善策とロードマップを示した上で、その提案に対して明快なコミットメントを示さなければ、誰も耳を傾けはしないのではないか ?

そもそも「ファンの声を聞け」とか「ファン不在の議論」だとか批判する声があるが、その「ファン」がみんなで中継を見たり球場に足を運んだりしていれば、もう少し状況はマシだったはず。だが、パ・リーグの試合で「客が入らない」「視聴率が上がらない」という現実がある以上、現状を維持するということはすなわち、パ・リーグの不振を続けろということに他ならない。それは、パ・リーグ各球団の経営を成り立たせるなというのと同義だ。
ナベツネ氏は「カネさえあればいいってもんじゃない」と発言したが、「プロ」の定義からすれば、「カネがなくてもいいってもんじゃない」というのも真理だ。


ついでに付け加えれば、「1 リーグ 10 球団になると、下位チーム同士のつまらない消化試合が増えるから駄目だ」という主張があるが、下位だろうがなんだろうが球場に足を運んで応援するのが本物のファンというもの。フェラーリが大不振だった時期でもイモラのスタンドは真っ赤っ赤だったし、阪神タイガースがビリを独走していても甲子園にはお客が入る。J2 落ちしてもファンが見放さなかった浦和レッズもしかり。

さらにいえば、「2 リーグ制じゃないと、日本シリーズやオールスターがつまらない」という意見があるが、さまざまなプロスポーツを見ても、むしろ 2 リーグ制なんていうゼイタクな体制でやっている方が少数派。手近なところでは、J リーグが 1 リーグしかないからオールスターやチャンピオンシップがつまらないなんて、誰がいっているだろう ? F1 を 2 リーグ制にしてオールスターレースをやれと、FIA のマックス・モズレーに意見した人がいただろうか ? ゴルフやテニス、その他のプロスポーツはどうだろう ?

根本原理としては、「お金をいただいて試合をして見せる」のがプロスポーツなのだから、問題はチームの数やリーグの枠組みではなくて、そこに参集するチームや選手が恒常的に集客できるだけの魅力を備えた存在になれるかどうか、優れたエンターテインメント (誰かさんがいうように乱闘してみせるという意味ではない。為念) を提供できるかどうかなのだ。
これこそがプロスポーツの本質であり、目下の議論で欠落しているポイントではないか。いま一度「プロ」という言葉の意味をかみしめてみてはどうだろう ?

もっとも、そういう意味では昨今のオーナー諸氏の発言、「集客できるだけの魅力」どころか、むしろ魅力を削ぐ方に作用しているとしか思えない。彼らが「プロの経営者」かどうかという点では、これまた問題おおありなのだが…

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