Opinion : 骨と窓の大逆転物語に思うこと (2004/9/27)
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今売りの「航空ファン」に、巻頭グラビア (っていうのか) で、"BONE" こと B-1B ランサーが取り上げられていた。個人的には大好きな飛行機だが、思い起こせば、これほど浮き沈みが激しく、毀誉褒貶の激しい軍用機も珍しい。
単に趣味的見地から見れば、「可変翼」に「滑らかでグラマラスな外見」と、なかなか好き者の心情をくすぐる機体ではあるのだが、そのことと、実際に兵器として役に立つというのは別の問題。長いこと、不遇をかこってきた傾向があるのは否めない。
ちょうど、今月は B-1B の量産初号機がロールアウトしてから 20 年目に当たることでもあり、まずは B-1B の話から。
カーター時代に決まった B-1A 計画の中止を反故にして、B-1B を 100 機製造する方針が決まったのは、よく知られているようにレーガン政権時代の話。ところが、出来上がってみたら、AN/ALQ-161 電子戦装置の不調などが取り沙汰されてボコボコに叩かれた挙句、エンジンのトラブルか何かで飛行停止になっていて、湾岸戦争にも出陣しそこなった。もっとも、当時の B-1B は核兵器を搭載する "戦略爆撃機" の域を出ていなかったから、湾岸戦争に持っていっても、自由落下爆弾をばら撒く以上の役に立ったかというと、ちょっと疑問ではある。
その後、戦略核削減の関係で通常爆撃機への転身を図り、膨大な税金をつぎ込んで、精密誘導兵器の運用能力を付加したりアビオニクスの改善を図ったりする作業に、20 世紀最後の 10 年余りをつぎ込んできたといってもいい。だから、21 世紀が始まった時点で、B-1B の評価がどれほどのものだったかというと、正直なところ、疑問がある。
そんな B-1B が、"Operation Enduring Freedom" や "Operation Iraqi Freedom" では、これまでの不評を吹き飛ばすかのように大活躍した。なにしろ、3 つに分かれた爆弾倉に、500lb 爆弾なら 84 発、2,000lb 爆弾なら 24-30 発を搭載できる。しかも、出自が戦略爆撃機だから航続性能に優れている。おかげで、イラク上空に常に B-1B を在空させておいて、臨機目標が出現すると「それっ」とばかりに駆けつけてターゲットの座標を打ち込み、JDAM を放り込む、なんていう使い方が可能になった。結果的にはスカに終わったものの、AWACS からの指令を受けた 12 分後に、フセインがいた (はずの) 場所に JDAM を放り込んだのも B-1B だ。
まさに、最初は不遇でさんざん苦労したものの、後になって花を咲かせた大逆転物語、といってもよいと思う。
実のところ、最初は不遇で出来も悪く、ボコボコに叩かれたものが、それでもしぶとく改良を続けた結果として、後になって成功者に変身したという事例は、B-1B 以外にもいろいろある。手近なところでは、Microsoft Windows。
この記事を御覧になっている皆さんが初めて触れた Windows のバージョンは、いくつだっただろうか。そもそも日本で Windows の普及に火がついたのは Windows 3.1 (1993 年発売)、それが爆発したのが Windows 95 (1995 年発売) の話。Windows 2.x の頃から使っていたのは、古くからの Excel ユーザーだけだろう。
だいたい、1985 年に初登場した Windows 1.0 はタイリング ウィンドウを使っていて、ウィンドウを開けば開くほど個々のウィンドウが小さくなるという奇天烈な代物だったし、Windows 2.0〜Windows 2.1 では MS-DOS のメモリ管理に起因する制約から、使えるメモリが足りなくてヒイヒイいっていた。Windows 3.x でかなり改善されたとはいえ、「システム リソース不足」が原因で、アプリケーションをいくつも一緒に動かして負荷をかけまくっただけで、画面表示がおかしくなったものだ。
あと、Windows 3.0 では悪名高い UAE (修復不可能なアプリケーション エラー) が発生して、アプリケーションが飛ぶ事態がちょいちょいあった。何かのサッカーの試合で UAE (アラブ首長国連邦) が出てきて、中継のアナウンサーが「UAE が出る ! UAE が出る !」と連呼するのを聞いて嫌ぁな思いをした MS 社員がいた、なんていう笑い話もある。
(ちなみに、Windows 3.1 では UAE に代わって、GPF : 一般保護違反という言葉が使われた。どっちにしても死語だ)
このアプリケーション エラーの件にしろ、メモリ不足でヒイヒイいっていた件にしろ、外見が格好悪いといって Macintosh ユーザーに馬鹿にされていた件にしろ、Microsoft は諦めずに、後方互換性を維持しながら (これ重要) しつこく改良を続けてきたおかげで、今の Windows XP がある。独占的地位がどうとかいっても、それはあくまで結果論。最初から市場を独占していたというのは事実に反しており、そこに至るまでにはゲロを吐きそうな苦労をいろいろしてきたというのが正しい。なにしろ十数年前、NEC の某取締役が「日本には Windows は必要ありません。PC-9801 には MS-DOS のいいアプリケーションがたくさんあります」と発言していたぐらいだから。
そういえば、Macintosh にも悪名高い「爆弾マーク」というのがあったけれど、MacOS X はえらく安定しているので、この手のものを見たことがない。実は今でも爆弾マークって出るんだろうか ? しつこく改良してきたという点では Apple も頑張っているが、この会社、後方互換性へのこだわりが、やや薄いのが惜しまれる。
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ここでは、最初のバージョンから知っていることと、内輪で眺めていたという理由から Windows を引き合いに出してみたが、他所の会社でも、成功している商品やサービスの中には、似たような経過をたどってきたものが意外とあるのではないか ?
最初に B-1B を引き合いに出したが、米軍の新兵器なんて、みんな最初はトラブル続発で、マスコミや議会で叩かれるのがお約束、通過儀礼のようなものだ。"必殺野郎" こと AMRAAM はソフトウェアが完成するまで散々だったし、F/A-22 は最近まで、飛行中にソフトウェアがいかれて数時間ごとにリブートしていた有様だった。でも、どちらも苦難を乗り越えて名声を獲得した、あるいはしつつある。
で、何をいいたいのかというと、ひとたび「これで行く !」と決めたら、(戦術レベルでの方針転換はあってもいいが) 本筋を見失わずにしつこく改良を続けて、完成度を上げていくしぶとい努力というものを、もっと大事にしたら ? ということ。
もちろん、ひとつのことに拘泥しすぎて会社を傾けた事例もあるから、いったん見切りをつけたらパッと切り捨てる判断も重要だが、長期的な戦略やロードマップもなく、ちょっとやってみて調子が悪いと簡単に放り出す、というやり方を繰り返していたのでは、いつになっても駄目だろう、ということはいいたい。具体的に、どこの会社のどの製品かは言及しないが。
という訳で来週は、特に何も大きな事件がなければ、「これで行く !」と決めた分野に的を絞って突っ走り、意外な逆転をやった会社の話を取り上げてみたいと思う。
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