Opinion : ちょっと変わった JA2004 見物記 (2004/10/11)
 

10/9 に、折からの台風にもかかわらず、パシフィコ横浜で開催されていた JA2004 (Japan Aerospace 2004) に行ってきた。この手のイベントは数年ぶりなので、期待して出かけてみたのだが、名の通った大メーカーよりも、小さなブースの方が面白かった。そこで、ちょっと変わった視点からの JA2004 をお送りしたい。


真っ先に立ち寄ったのが Thales。といっても、ブースが入口の近くだったというだけの理由だが、ここでは電子光学 (EO) 偵察ポッド RECO NG と、FLIR 付きのレーザー目標指示ポッド DAMOCLES の 1/3 スケール模型を展示していた。
RECO NG は前方部分が回転して左右に首を振れるようになっているので、広い範囲の走査が可能になる。そして、リアルタイム データリンクを実現するため、前後に小さなパラボラ アンテナを収めていた。ただし、前部のアンテナはセンサー部と一緒に回転するので、それに合わせて自由に首を振るというおまけ付き。

その他の出展品は、ヘリに搭載する監視用 FLIR ターレットと、US-2 に搭載されている Oceanmaster レーダー。

奥が RECO NG 偵察ポッド、手前が DAMOCLES 目標指示ポッド RECO NG 偵察ポッドのセンサー部。このように前半部が回転する

おまけ : RECO NG 偵察ポッドのアンテナが動いている動画 (WMV 形式、1MB ほど)

ミネベアは、14in ラグ付きのボムラックを出展していた。この会社がこんな製品を扱っていたとは知らなかった。で、このブースではボムラックのことを訊こうと思ったら、逆に自分が持っていた DiMAGE A2 のことで質問攻めに遭ってしまった (苦笑)
ボムラックは、一見単純そうに見えて、実はいろいろと設定用のレバーなどが付いている。こういうのはなかなか間近でみられないので貴重。

TER とロケット弾ポッド ボムラックの拡大写真 1 ボムラックの拡大写真 2 ボムラックの拡大写真 3

ヤマハ発動機は、無人ヘリ RMAX を出展中。機体とセンサー、燃料を合わせて 80kg 台という軽さで、地上管制ステーションも超コンパクト。センサーは赤外線センサーと昼光用 TV カメラのどちらかを装備できるとの由。ただ、いい赤外線センサーは軍関係で押さえられていて、なかなか手に入らないらしい。火山の観測に利用した事例もあるそうだけれど、国境警備など、いろいろ使えそう。
そこで「イラクの米軍では、早期警戒用に赤外線センサーを付けた気球を上げてるそうですよ」と話したら「へえー」。

RMAX RMAX の赤外線センサー

カヤバ。F-15 と T-4 用のブレーキを出展していたほか、通常は油圧で動作させるブレーキを電動化したものを出展。ブレーキそのものは油圧より重いものの、配管などが不要になるので、トータルでは軽くなるとの由。
航空機用ブレーキは、ドーナツ状のパッドとディスクを交互に並べて、片側からピストンで押さえる仕組みだが、ピストンが少ないと圧力が平均にかからないし、ピストンを増やすと重くなる。最適解として、カヤバではピストンを 5 個使っていたが、おフランスの MESSIER - BUGATTI 社では 6 個ピストンだった。ふーむ。

F-15 用のブレーキ。ピストンは 5 個 左側のハブにある突起と、ディスクのくぼみが噛み合って回転する仕組み T-4 用はディスクが 1 枚少ない おフランス製はピストン 6 個

新明和は、US-2 でも使っている、摩擦攪拌接合 (FSW) を隅の方で展示していた。表の方では US-2 のビデオに人が群がっているのに、こちらには人がいないのが気の毒。FSW を使うと、リベット接合より強度が出る上に、溶接に伴う熱の影響を回避でき、作業の自動化もしやすいとの由。
そういえば、神戸製鋼はチタン加工製品をいろいろと展示していた。あと、NTN は各種ベアリングを出展。こういう地味なところがちゃんとしていないと、いい飛行機はできない。

摩擦攪拌接合でつないだ部材 そのクローズアップ

機体メーカーでは、Boeing も Airbus もいまひとつ力が入っていない印象で、むしろ、機体のカットモデルまで持ち込んで NH90 をフィーチャーしていた Eurocopter が目立った。ただし、さすがにここも Tiger まで持ち込むつもりはなかったらしい。
Lockheed Martin は「F-2 Super 改」なる、F-16 ブロック 60 みたいな F-2 の模型を展示していたが、まさか本気で採用されると考えてるの ? ここは、ヘルファイア各型のカットモデルや、PANTERA ターゲティング ポッド、TADS/PNVS のディスプレイとコントローラ、そして PAC-3 ERINT と、かなり力の入った展示。でも、THAAD は影も形もなかった。日本で THAAD を買うつもりはないと思われているのか。

そういえば、PAC-3 を、従来の PAC-1 や PAC-2 と同じ MIM-104 系列だと勘違いして、湾岸戦争のときの実績をもとにして PAC-3 をこき下ろしている "国際ジャーナリスト" がいるのが恥ずかしい。

PANTERA ポッドのセンサー部 PAC-3 ERINT のカットモデル

横河電機では液晶ディスプレイをいろいろ出展していた。直射日光に負けない輝度が必要になるので、バックライトが強力で、応答速度が速く、かつ、輝度調整範囲が広いのが特徴との由。輝度は最大で 400 カンデラ程度らしい。
一方、島津製作所は JHMCS 対応ヘルメットや、自社で開発中の HMD 付きヘルメットを出展。後者の中には、左右に赤外線センサーを付けた暗視モデルもあった。左右に付けるのは目で見た状況に合わせるためだが、目の位置に FLIR を付けるわけにはいかず、左右にずらしているため、HMD に投影する際には画像の補正が必要になるそうだ。

面白いのは、横河では「でかいディスプレイを少数付けると、故障したときの冗長性が確保できないから、同じディスプレイを複数付けないといけない。だから、今のサイズが上限でしょう」と話していたのに対して、島津では「液晶を大きくするか、液晶は小さいままでプロジェクションにして、光学系で大きく拡大するかという問題。プロジェクションの方がサイズ拡大に柔軟に対応できる」として、"ビッグ ピクチャー" 寄りではないかと受け取れる発言をしていたこと。製品ラインの違いが発言の違いに影響するのか。
そういえば、F-35 のモックアップに付いているコックピットは "ビッグ ピクチャー" 風の仕立てになっているが、F/A-22 では当初のコンセプトとは似ても似つかないものになった前例がある。F-35 だってどうなるか分からない。

JHMCS 対応ヘルメット 島津独自の FLIR 付き HMD 対応ヘルメット

そのほか、商社のブースも回ってみた。航空機の売り込みには商社が不可欠だから、商社がどんな機体をフィーチャーしているのかを見れば、業界の動きが見えるのではないかと考えたため。ところが、日本では大型のコンペティションが軍民ともに乏しいせいか、どうも気合が入っていない印象。丸紅ではガルフや EH101 の模型を並べていたが、どちらも採用済みの機体。あと、ここでは MLRS と HIMARS の模型が、隅の方で申し訳程度に置いてあった。HIMARS は、意外と日本向きだと思うのだけれど。

防衛庁は、空自 50 周年ということもあり、しっかり場所を確保していた。AAM-4 の模型も置いてあったが、諸元を見ると AMRAAM より太く、スパローとほぼ同サイズ。もっとも、サイドワインダーとランチャーを共用する AMRAAM とはお家の事情が違うから、これだけで AAM-4 が劣っていると判断するのは早計。

お役所系で、もうひとつ。電子航法研究所では、準天頂衛星を使った GPS 補正システムと、空港内で車輌や航空機の位置をレポートするシステムのお話を伺った。前者は、赤道と 45 度の角度をなす軌道を回る準天頂衛星を使うもので、衛星に対する仰角を高く取れるので、建物などで遮られにくいとの由。後者は、車輌や航空機に GPS と双方向データリンクを付けておいて、位置情報を地図上にリアルタイム表示するもの。視界が悪いときの衝突事故防止に役立ちそうだ。航空事故史をひもといてみると、地上における衝突事故というのは意外と多い。

IAI は、旅客機用の SAM 妨害装置とアロー弾道弾迎撃ミサイルの模型、さらに F-16 用 300gal 増槽を改造したらしい SAR ポッドを出展していた。SAM 妨害装置なら、このメーカーは経験豊富そうだ。話が通じそうな人がいれば、このあいだのアローの試射について突っ込もうかと思ったのだが、近くに人がいなかった。(そもそも、日本のイベントに IAI が乗り込んできたこと自体、驚き)

メーカー系ではないが、米海軍が推進中の、イージス システムと SM-3 を組み合わせた BMD の展示では、最近のテストを紹介するビデオを、ちゃんと日本語に吹き替えて流していたのは立派。その他の展示物は目新しくなかったが。(そういえば、Boeing のブースには、MMA と並んで ABL の模型を置いてあったが、誰も注目していなかった。まだ知名度が低いのかしらん)


多分、ミーハー的な興味で行くと、今回の JA2004 は、あまり面白くない内容だったと思う。でも、丹念に見て歩けば、いろいろと鉱脈が落ちている。素材や部品など、細々したパーツこそ馬鹿にしてはいけないので、そういう意味では得るものが多いイベントだった。

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