Opinion : 空自のマルチロール戦闘機に関する与太話 (2004/10/25)
 

讀賣新聞が「次期中期防で、多目的の新型戦闘機の選定に着手する方針を固めた」と報じたことで、さっそく全国各地の軍ヲタがハッスルしているようだ。
となると、出てくる議論は簡単で、その新型戦闘機が何になるか、という話になる。個人的には「○○と○○はどっちが強い」的な話は好まないし、また現実的でもないと思っているが、一応、流行に便乗して書いてみたい。

まず、候補になりそうな機体をリストアップして、個別にコメントする形で話を進めてみたい。


F/A-22A ラプター

性能面では文句なしの機体で、「中国がフランカーを持っているのだから、それに対抗するにはラプターが要る」と主張する論者は少なくない。ただ、この機体にはボトルネックが 2 点ある。

ひとつは、いうまでもなく高価格。控えめに見ても、ジャンボ・ジェットと同じぐらいの単価になるのではないか。正直、ラプターにとって最大の敵はフランカーでもなければラファールでもなく、価格と議会だ。安物買いの銭失いというのも真実だが、価格が高過ぎて数を揃えられないのも、それはそれで問題がある。

そして、もうひとつの問題が、最先端技術を詰め込んだラプターの輸出を、ペンタゴンがおいそれと許可するかどうかという点。ライセンス生産がどうとかいう以前に、輸出許可が出るかどうかが問題で、導入できるかどうかというと極めて疑問。


F-35 JSF

いまさらイーグルやホーネットを導入するのは嫌だ、ということになれば、現実的な選択肢はこれしかない。ステルス、マルチロール、米軍との相互運用性、といった観点からすれば最適解だし、もともと輸出を視野に入れて国際共同開発している分だけ、輸出許可でもめる危険性も少ない。日本のように地理的な縦深性が足りない国では、飛行場要らずの STOVL 型・F-35B にするのも一案。

ただ、本格的な配備開始時期が 2010 年代以降なので、次期中期防期間中の入手は不可能。その後でも、すぐに入手できるのかという問題がある。今から SDD フェーズに加わるのは不可能なので、生産段階でのワークシェア確保に割り込むのは難しい。ステルス技術などの絡みを考えると、簡単にライセンス生産の許可が出るとも思えないので、日本向けの機体に限定して、相応の部分を国内生産できるようにオフセット条件を整えるのが無難と思える。
ただ、ヘタをすると売り手市場になりそうで、オフセットをこちらからいい出せなかったらどうしよう ?


F-15E ストライクイーグル

次期中期防期間中に調達するなら、最善とはいえないまでも、無難な選択。すでに F-15 が 200 機以上もあるのだから、それと同系列の機体にするのは、兵站支援などの観点から見ても、理に適っている。ただし、受注が確定しているのは韓国向けの F-15K×40 機までなので、買うなら早いとこ発注しないと生産ラインがクローズしてしまい、E-3 の悲劇を繰り返す。(シンガポールから F-15T を受注できれば、少し猶予期間が増えるけど)

公共事業としての観点から見れば、国内の F-15J/DJ 生産ラインを再開したいところだけれども、F-15E は F-15A/B/C/D/E/J/DJ 系列とは内部構造がだいぶ異なるようなので、これは難しそう。イスラエル方式で、アビオニクス類は可能な範囲で国内調達、機体そのものは完成機輸入というのが無難か。

ただ、兵装ステーションのレイアウトを考えると、ASM-1/2 の搭載数が少ないのではないか、という気がするのがイーグル系列の難点。FAST パックのステーションに ASM-1/2 が載るとは思えず、しかも主翼にはパイロンが 1 基ずつしかないので、ASM は 2 発が限度、ということになりかねない。

ちなみにイーグル系列についていえば、古い初期型 F-15J を簡易マルチロール化するというアイデアもある。ただ、システム・インテグレーションをなんとかしても、兵装ステーションの問題はいかんともしがたい。それどころか、FAST パックがない分、さらに分が悪い。


F/A-18E/F スーパーホーネット

設計が新しい分だけ、空戦性能はイーグル以上にいいと聞く。また、ASM-1/2 搭載についても、少なくとも場所は確保しやすいように見える。ASM-1/2 は日本独自のミサイルだから FCS とのインテグレーションはやり直しだが、これはどの機体でも同じこと。FSX 計画のように ASM-1/2 をたくさん積みたいのであれば、これが最適。

ただ、エアフレームもエンジンも FCS も新規蒔き直しになるので、よほどまとまった数を導入するのでなければ、費用対効果の面で見ても、兵站支援の面で見ても、具合がよくない。だから、後で JSF を入れるのであれば、中途半端になってしまいそうなのでパス。JSF を導入するのが難しければ、次善の選択になり得る。

ただ、米海軍で大量導入しているから、便乗して「JSF 導入までのつなぎ」として完成機をリースした上で、米海軍の兵站支援インフラに乗っかるというのはアリかも ?


JAS39 グリペン

なぜか、当サイトにお越しになる方の間では、このキーワードの比率が高いという不思議な機体。個人的にも好きな機体だが、それが日本の国情に合うかというと、それはまた別の問題。

そもそも、スウェーデン仕様の機体を使ったことがない日本にとって、なじみのない機体を入れれば後方支援や教育訓練で苦労しそうだ。それに、機体が小さすぎて、発展性という点では疑問符が付く。F-2 の調達中止を決めた理由として「機体が小型で発展性に欠ける」というのがあったのに、そこでグリペンはないだろう。

どちらかというと脅威度が低い状況下で、安価、かつ確実に運用できるマルチロール戦闘機が欲しいという国には良い選択だと思うが、日本向きではないと思われる。つまり、東欧諸国に最適の戦闘機と考えられる。南アフリカがグリペンを選定したのも、理に適っている。ブラジルもこれにしたら ?


タイフーン

昨今の戦闘機商戦における、最強の当て馬

タイフーンの最大のハンデは、マルチロール化が進んでいないということ。現在生産中のトランシェ 1 は空対空要撃専用機だし、マルチロール化されたトランシェ 2 の量産開始は、イギリス政府部内で了承が取れず、足踏み状態になっている。ましてや、その後に登場するはずだった完全マルチロール型のトランシェ 3 に至っては、まだ影も形も見えてこない。
(この記述は、2004 年 10 月現在の情報を参考にしている)

他のヨーロッパ機にもいえることだけれども、これまでずっとアメリカ機でやってきた「米空軍互換仕様」の航空自衛隊に、パッと毛色の違った機体を持ち込んで使えるのか、という問題があり、これがヨーロッパ機をおしなべて当て馬にしてしまっている。

それでも、英独伊西の 4 ヶ国は他の選択肢がなく、「公共事業」としてタイフーン計画を進めるしかない立場だが、ぶっちゃけ、そこに割り込んで一緒に心中するに値するほどの機体とは思えない。元をたどれば、1970 年代に計画されていた代物だ。


ラファール

美術品として博物館に展示するなら、これにする (爆)

美しい機体という点では世界最強だけれども、他のヨーロッパ機と同様のハンデがある上に、搭載する兵装が完全におフランス仕様になってしまうので、改めておフランス製のウェポン・システムを新規に導入して教育訓練をやり直すか、手間と時間と費用をかけてアメリカ系ウェポン・システムのインテグレーションをやり直すか、という究極の選択を迫られる。

タイフーンやグリペンは、AIM-9 や AIM-120 を運用できる分だけマシで、ラファールはこの分野のハンデが大きい。がめついフランス人なら、当然「おフランス製の MICA を買え」というに決まっている。細かいことをいうならば、機関砲の口径も違う。さらに付け加えれば、RBE2 レーダーを中核とするおフランスの FCS に、ASM-1/2 をインテグレーションする手間についてはどうなのよ、という問題もある。(これは他の機体も同じだけれど)

先日、フランスの大統領が中国を訪問していたが、フランスの外交攻勢には兵器の売り込みがワンセットになっていることを考えると、当然、おフランス製の兵器を買いませんか、という話もしたと思われる。まして、ラファールは輸出商談で全敗、ルクレール戦車も UAE 向けを完納すればおしまい、という状況下で、自国の兵器産業維持のためなら、なりふり構わず売り込みをかけている可能性は極めて高い。特に GIAT Industries は、仕事がなくて青息吐息なのだ。

とはいえ、フランスが (いくら無節操な兵器輸出がお国柄とはいえ) 過去の実績もない日本に、わざわざラファールを売り込みにくるかというと、ちと疑問。
だいたい、フランスはすでに台湾にミラージュ 2000 を売りつけている。その一方で中国にもおべっかを使っているという節操のなさだ。感情論としては、そんな国の戦闘機は買いたくない。同じ戦闘機を、敵対する国同士に平気で売りつけるのがフランス人だ。台湾の近所で、日の丸をつけたラファールと青天白日旗をつけたラファールと赤い星をつけたラファールが空戦する羽目になったら、洒落にならない。


Su-27/30 フランカー

純然たる道楽で、アクロバット飛行をやってみせる機体として導入するなら、これ。

機動性や航続性能という点では目を見張らされる機体だが、ステルス性という点ではハンデが大あり。しかも、旧ソ聯製の機体に関する通説をそのまま当てはめると、西欧の機体以上に教育訓練・整備補修などに手間がかかりそうで、「米空軍互換仕様」の航空自衛隊には荷が重いのではないか。

こういうことをいうと、たいてい「じゃあ、エンジンやアビオニクスだけアメリカ系の製品に入れ替えたら」ということをいう人が出てくるものだけれど、そうなったらシステム・インテグレーションが全面的にやり直しになり、どえらい手間と時間と金がかかってしまう。

細かい話だけれども、旧ソ聯仕様なら、計器がメートル法になっていたりしないんだろうか ? グリペンは C 型から計器を NATO 互換仕様に変えているが、ロシア機はどうなんだろう。


ヒコーキ好きの観点からすれば、「中国がフランカーを持ってるのだし、それと空戦をやって勝てそうな機体を」ということになりがちだけれども、それはとどのつまり、第二次世界大戦中の日本陸海軍がやった、戦闘機開発に関する行政の失敗と同じ思考過程でしかない。トータル・システムとして勝てるものをつくるのが最適解で、個別の機体の能力だけに目を奪われるのは、いかがなものか。

そもそも、第二次世界大戦で使われた機体についても論じていることだけれども、個別の機体の性能だけ比較しても大して意味がない。パイロットの技量や訓練内容、機体の整備性や稼働率、戦闘機の活動を支える各種システム、といった部分まで交えて考えないと、ちゃんとした戦力の比較にならない。一対一で斬り合う、チャンバラ時代劇とは違うのだから。

だから、たとえば F-15J でフランカーと渡り合う羽目になったとしても、F-15J の方が優れている点をいかに発揮するかという問題になるし、AWACS や BADGE システム、あるいはそうしたシステムとの JTIDS などを介したデータリンク、といった "force multiplier" の有無も考慮しなければならない。所詮、機体の個別性能だけで比較するのはナンセンスというもの。

私見を述べれば、今のうちにツバをつけておいて、可能な限り早い時期に F-35 を導入できるようにするのが、もっとも無難な落としどころではなかろうか。そして、BADGE システムやデータリンク、レーダーサイトの抗堪性向上、掩体運用の拡大などにもちゃんとカネをかける。趣味的には面白くないけれど、それしかないのでは ?

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