Opinion : あえて三菱自動車を励ましてみる (2004/11/15)
 

三菱自動車が苦境にある。9 月の中間連結決算発表によると、国内販売不振などの原因で、売上高は前年同期比 11.3% 減の 1 兆 708 億円、当期損益は 1,461 億円の赤字と報じられている。

もちろん、リコール隠しだとか、嘘のデータを出しただとか、いろいろと不祥事があったわけで、それは糾弾されなければならないけれども。しかし。
欠陥が原因かどうかを明瞭にしないで、車輌火災なら手当たり次第に「三菱車が炎上」と書きたててみたり、サイドブレーキを引いていなかったせいで浮き桟橋に勝手に移動して人を轢いてしまったトラックまで「三菱製」と書きたててみたりする (どこのメーカーのトラックでも、サイドブレーキを引かないで斜面に止めたら勝手に走り出すだろう !)。こんなマスコミのサディスティックな態度が、三菱の苦境にさらに輪をかけたのは間違いなかろう。

悪いことをして叩かれるのは分かるけれども、便乗して、本来の趣旨とは違うところまでバッシングが広がってしまうと、逆に三菱自動車を (ちょっとだけ) 弁護したくなりそうだ。


もっとも、欠陥車問題がなくても、当たり外れが激しいのが三菱車の特徴。のような気がする。ときどき、「おおっ !」と思わせるクルマを作ってくれるかと思えば、「おいおい、これが売れるんかいな」と思わせるようなクルマを出して、盛大にコケたりする。野次馬的に外から見た感じでは、技術指向が強いというか、商売が下手というか、そんな感じがするわけだ。(内輪から見たら、また違った意見が出てくるかも)
そのせいか、世間の売れ筋商品を過度に意識してしまい、それが大外れを生む原因になっているのだろうか、と思わなくもない。

その点、トヨタはもともと商売上手。もっとも、商売がうますぎてあざとい感じがする場合もある。とはいえ、技術的基盤をちゃんとさせた上での、ビジネスとしての自動車作りという点では、他社の追随を許していない。そういう意味ではマイクロソフトと似たものを感じる。ホンダや日産は自動車評論家に受けがいいし、熱心なファンがいる。スバルは強烈に個性が強いから、これも一定の市場をきちんと掴んでいられる。マツダはどうだろう ?

おっと。
本題の三菱の話をすると、悪いけどこの会社、トヨタみたいな商売上手にはなれないと思う。どちらかというと、スバルみたいな路線の方が向いているんじゃないか、というのが個人的な意見。つまり、何か特定の方向性にフォーカスして、手持ちのリソースを集中的につぎ込んで、そこの市場だけはガッチリ掴んで放さないような商品力のあるクルマを出す。そして、量は出なくてもいいから、とにかく固定ファンをガッチリ確保する。そういう商売をする訳にはいかないんだろうか。

もともと、トヨタあたりと比べたら使えるリソースの絶対量は少ないわけで、それをフルライン化のために分散するのは、あまり賢い方法とはいえない。太平洋戦争中に新型機開発計画を濫発しすぎて開発チームが疲弊したのと、同じ愚を冒すことになってしまう。

どうも、首脳陣の発言を見ていると、この会社は未だに「小トヨタ」的なフルライン路線を目指している感じがするわけで、そこに不安がある。今までそれを目指してきて、果たしてうまくいったんですか、と。兵法の世界に「我が全力を持って敵の分力を断つ」という言葉があるでしょう、と。

この辺の話は前にも少し書いたし、そのときに「社長がクルマ好きじゃなくてどうするの ?」とも書いた。この考えは今でも変わっていないし、それ以外に復活の目はないだろうと思っている。だってそうでしょう。社長や社員が自分とこの製品に愛着を持てないで、どうやって優れた製品作りを目指すのかと。自分がとことん惚れ込めるような製品を作れなかったら、お客さんが惚れ込んでくれるはずがないでしょうと。

もし、「専門化路線」への再編成を進めるのなら、逆に、今みたいな苦境は利用できるんじゃないかという気もしている。ちょっと売上が伸び悩んでいる程度だと、路線を大幅に変更しようとしても "抵抗勢力" が出てくるもの。ちょうど、今のプロ野球がそんな状況にある。でも、販売台数が猛烈に落ち込んで、「とにかく、何か手を打たなければ会社が潰れる」という危機感が充満するような状況になれば、却ってドラスティックな変革を進めやすいのではないかと思うのだけれど、どうだろう ?
(もっとも、それを実現するには、トップが明確な戦略とコミットメントと意思表示を示して、「実現できなかったら責任を取って辞めます」ぐらいのことをいう必要がある)

ベトナム戦争の後で、反軍ムードや国防費の削減、士気の低下、さらに徴兵制から志願制への移行といった調子で連続パンチを食らったアメリカ陸軍が、そこで踏ん張って再生を図った過程が、「トム・クランシー 熱砂の進軍」の上巻に、詳細に記されている。
個人的には、この本の中でもっとも強烈だったのはフレッド・フランクス将軍の左脚切断に関わる話だが、それに続いて印象的だったのが、この「陸軍の再生」に関する話だった。もちろん、再生の過程で失敗や苦労はたくさんしているのだが、何が問題で、どういう手を打たなければならないかを当事者が真剣に見据えたからこそ、再生が実現したのは確か。

多分、軍隊ではなく民間企業でも、あるいは個人でも、その辺の事情は大して変わらないのではないか。土壇場まで追い詰められたときに踏ん張って立ち上がれるのが、本物の強さ。


三菱自動車の関係者が、トップから現場の社員に至るまで危機感を共有して初心に立ち返り、「三菱はどんなクルマ作りが得意だろう ?」「具現化するとしたらどのような製品になるだろうか ?」「それを実現できる手段は手元にあるだろうか ?」といったことを真剣に考える。そして、手持ちのリソースをケチらずにつぎ込んで「三菱でなければ作れないクルマ」「三菱らしいクルマ」を送り出すことができれば、再生の目も出てくるんじゃないかと思う。(意地悪な言い方をすれば、それが具体的に実現する頃には、移り気なマスコミはこれまでの事件を忘れてるだろうし :-p)

それを、今までと同じ方法論で押し切り、リストラで出費を減らして何とかする程度でお茶を濁そうとするようなら、本当に会社が潰れてしまいますよ ? と申し上げたい。財務諸表も大事だけれど、メーカーにとっての生命線は、現場で製品を作る人達なのだから。

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