Opinion : 壊し屋さんに喝采を送るのは止めよう (2005/2/21)
 

小学校や中学校の頃、クラスに一人はいなかっただろうか。電気製品やその他の機械の使い方が分からないでいると、「どれどれ、俺にやらせろ」といってしゃしゃり出てくる人が。それで上手くいけばいいが、ときにはうまくいかなかったり、最悪の場合は壊してしまったりする。

また、家にある電気製品やその他の機械類を、ついつい好奇心に駆られて分解してしまったり。分解したものを元に戻せればよいが、戻し方が分からなくなって壊してしまい、怒られたりすることがある。でも、機械好きの大人が育つ過程で、一度は通る道かもしれない。
かのミハイル・カラシニコフ氏だって、子供の頃に錆びついた拳銃を拾ってきて、自分で分解して手入れをした結果、ちゃんと撃てる拳銃になってしまい、実際に撃って怒られた過去があるそうだ。いかにも、名銃 AK-47 を生み出した設計者らしいエピソードではある。

この人、別に銃器専門のメカおたく少年だったわけではなくて、機械なら何でも、動いている様子を見るのが子供の頃から大好きだったらしい。エレキのものと違って、メカニカルなものは見れば動作がある程度分かるから、そういう意味では楽しい。カラシニコフ氏も飽きずに眺めていたという蒸気機関車なんかは、表に出ているメカが多いから、眺めていて楽しい部類に入る。

自分も似たようなところがあって、さすがに分解して直せなくなったことはないにしても、機械いじりは子供の頃から大好きだった。小学生の頃はタミヤの「楽しい工作シリーズ」がお馴染みだったし、今でもメカニカルなもの、特にカットモデルなんかを見るとワクワクしてしまう。もちろん、ノート PC をバラして HDD を交換するぐらいのことは何度もやっている。

それはともかく。拳銃をリビルドして撃っちゃった、というのは極端としても、機械や電気製品を分解してみるのであれば、ちゃんと元に戻せるアテがなければならない。元に戻せる自信がないのに、バラバラにしてしまってはいけない。


さて。
政治面でも経済面でも社会面でも、なーんとなく閉塞感が抜けない今日この頃。そんな時代だからこそ、「壊し屋」に人気が出る。小泉首相は「自民党をぶっ壊す」と宣言して人気を得たし (が、いまだに自民党は健在だ :-p)、首相以外でも、既存の枠組みを壊した、あるいは壊しそうなイメージを振りまいた人は、往々にして人気者になる。具体的な名前をいちいち挙げることはしないけれど。

ただ、そこで重要なのは、壊すのであれば、その後の再建/修復まで考えろ、ということだと思う。乱暴ないい方をすれば、壊すだけなら誰でもできるので、それを元に戻す方が数倍骨が折れる。

たとえば、電気製品でも機械類でもノート PC でもいいけれど、匡体を止めているネジを外してバラバラにしてみるといい。どこをどのネジでどのように止めていたのか、部品を外すときはどの向きにどういう操作をしたのか、手順をちゃんと覚えておかないと、後で元に戻せなくなる。

ましてや、手順を逆にたどれば元に戻せる機械類と比べると、政治体制や経済体制などをぶっ壊してから再建させるのは、ずっと大変だ。フセイン体制を壊す (このことだけなら、それなりに妥当性はあるかも) ことばかりに考えが行ってしまい、その後の再建作業を甘く見ていたアメリカが、イラクで苦労しているのが典型例。
最近ではさっぱりニュースにならないけれども、アフガニスタンでも、選挙などの政治面だけでなく、各地に米軍や NATO 各国軍が主導する形で PRT (Provincial Reconstruction Team) を送り込んでいる。この PRT は、軍人と民間人を交えた再建作業の専門集団で、地味で目立たないけれども重要な国家再建作業を、今日もコツコツとやっている。

つまり、「壊す」事だけを売り物にする人に、安易に喝采を送ってはいけないということだ。壊すならそれはそれで、その後の再建に関する具体的で現実性のあるロードマップをまとめて、実行できるだけの人がやらないと、修理できない電気製品みたいなことになる。

ところが、誰のこととはいわないけれど、「壊す」ことばかり期待されて人気が出ている人はたいてい、その後の「再建」に関するビジョンが何もなかったり、あっても現実離れしていたり、あるいは大甘なビジョンだったりする。
5.15 事件や 2.26 事件で叛乱を引き起こした青年将校がいい例で、壊すことにばかり神経がいっていて、その後の再建については、自分達に都合のいい人を担ぎ上げるという程度のものしかなかったように見受けられる。(というといい過ぎか ?)

期待されて人気が出ているだけならまだしも、「壊す」ことに対する期待に押し上げられて、何らかの地位に就いてしまった人は、もっとタチが悪い。ややもすると、壊したはいいが復旧ができず、壊す以前よりも悲惨な状況を作り出してしまってるんじゃないの、と突っ込みたくなるようなケースもある。
しかも、押し上げた人の方も、今になって反対派に回ると自己否定みたいなことになるから、担いだ神輿をなかなか降ろそうとしない。かくして、ますます状況が悪化する。

また、そういう壊し屋さんに限って、メディアを味方につけるのだけは上手かったりするから、実に始末が悪い。


後半では具体的な名前を挙げるのを差し控えたので、なんだか奥歯に物が挟まったような文章になってしまったけれど、見る人が見れば、「ははあ、あの人のことか ?」と思うかもしれない。具体的に誰のことなのかは、御想像にお任せするけれど。

ともあれ、相手が何であれ、壊すのなら元に戻せるだけの見通しをちゃんと立ててからにしましょう、ということ。電気製品なら壊しても買い直せば済むけれど、会社や国家を壊したり、あるいは機能不全にしてしまったりすれば、波及範囲が大きすぎる。

だから、どんな分野であれ、「現体制を壊す」ことばかりを売り物にして人気を集めているような人のことは、すべからく、疑ってかかった方がいいんじゃないだろうか ? 誰のこととはいわないけれど (←しつこい)。

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