Opinion : やっぱり駄目じゃん TSL (2005/6/13)
 

鳴り物入りでスタートしたテクノスーパーライナー (以下 TSL) が、まだ竣工もしていないのに、さっそく、騒動に巻き込まれている。

TSL の実用船となる「SUPER LINER OGASAWARA」は目下建造中で、11 月から小笠原海運の東京-父島航路に就航する予定になっている。ところが、昨今の原油価格高騰で燃料費が嵩み、1 往復で 2,000 万円もの燃料費がかかってしまう事態になった。船社側では、これでは採算がとれないとして、まず経営支援を要請、さらにフネのリース契約を解除する通知を送ったのだそうだ。

5 年半ほど前、「テクノスーパーライナーに異議あり」として、こんな、イニシャルコストもランニングコストもかかりすぎる企画は駄目だ、と書いた。案の定、その通りになってしまった。テクノ・シーウェイズ側では、いまさら契約解除なんてあり得ないといって突っぱねているらしいのだが、一体全体、どうなることやら。


東京-父島間の距離は約 1,000km。従来船が 26 時間かかるところを、最高速度 40kt の TSL だと 16 時間で移動できる。これにより、所要時間短縮による利便性向上、さらに運行本数の増便による需要創出、といった効果を実現、さらに「小笠原観光がブレイクする」という見通しをくっつけて、TSL の実用化を推進した経緯がある。

もっとも、船価が並はずれて高いというのは紛れもない事実。「SUPER LINER OGASAWARA」の船価は 115 億円と伝えられているが、一般的なフェリーや旅客船と比べると、なるほど高い。2 倍以上はするのではないか。
実用化が決まった TSL は SES (Surface Effect Ship、水面効果船) で、水面から船体を浮上させる仕組みになっているから、軽量化のために船体はアルミ合金製になっている。おまけに、浮上用のディーゼル エンジンを 4 基と、推進用のウォータージェットを駆動するガスタービン主機を 2 基積むというゴージャスな構成になっているので、これで高くつかない方がどうかしている。

TSL の実用化に際しては、船社が直接建造と購入を行うのではなく、テクノ・シーウェイズなる会社を作り、ここがフネを保有して、年間 8 億円・期間 18 年間のリース契約を結ぶ形を取っている。このこと自体、通常のように船社が直接建造・保有する形態をとれないほどに船価が高いということを裏付けている。
(それに、ひょっとすると「役人の天下り先が増えてウマー」という考えもあったかもしれない。邪推だが)

おまけに、浮上用と推進用で合計 6 台ものエンジン、それも推進用についてはガスタービンをブン回せば、燃費が嵩むのは自明の理。なんでも、通常の船舶の 5 倍かかるのだそうだ。さもありなん。しかも、ガスタービン主機だから、燃料は重油じゃなくて軽油が必要になる。海自の「軽油 2 号」を流用したとしても、コストアップ要因になるのは同じこと。

まさか、計画当初は「これ以上、原油価格は上がらない」という想定だったのだろうか ? これを計画した奴は、過去に石油ショックという歴史が二度も繰り返されたことを知らなかったのか ?
これではまるで、「都合のいい予測に基づいて作戦を立てる」という、太平洋戦争における大失敗と同じじゃないの。

おまけに、テクノ・シーウェイズの Web サイトに載っている完成予想図を見てひっくり返ったのだが、「SUPER LINER OGASAWARA」のどこにも、車輌乗降用ランプがない。スペックをみても、車輌搭載量に関する言及がない。どうやらこのフネ、今時珍しい客貨船で、人間とコンテナ貨物しか積めないらしい。そんなアホな。

これが RoRo 船だったら、海上自衛隊か米海軍の高速輸送艦として利用する、という逃げ道がある。客貨船にしたのは、小笠原航路の現状に合わせただけなのかもしれないが、なんともつぶしのきかないものを作ってくれたものだ。一瞬、日本版 LCS (Littoral Combat Ship) のデモンストレーターに転用してしまえ、と思ったが、それにしてはガタイが大きすぎるし、ステルス性もないから駄目だろう。


はっきりいってしまえば、TSL もまた「はじめにスペックありき」+「日の丸主義」のとばっちりを食らった典型例といえる。霞ヶ関ではよくある現象だけれども、「日本独自のスーパーな製品を作りたい」といって国策プロジェクトを盛大にブチ上げた挙げ句、ものの見事に自爆した事例は以前にもある。典型例が、通産省 (当時) のシグマ計画か。

ずいぶん昔、IPA のオフィスに行く機会があったのだが、「シグマ計画」を宣伝する巨大なパネルが、玄関ロビーのところにドドーンと掲示されていたのを覚えている。当時はまだ業界事情に疎かったから、「なにこれ ?」と思っただけで済んだが、今だったらデジカメで証拠写真を撮ってきて、お笑いにするところだ。
IPA は後に、ウィルス情報のまとめ役に転身したからよかったものの、それができなかったら、何をいわれていたことか。

STOL 実験機「飛鳥」みたいに、はなから技術実証用のデモンストレーターとして作った機体なら、経済性のプライオリティは低くできる。だが、まがりなりにも実際に船社が商業運行するものを作るのであれば、イニシャルコストもランニングコストも考えないわけにはいかない。そんな簡単なことも理解していないのかと。

高速船ということならウェーブピアサーが広く使われているが、あれはすでにオーストラリアの会社 (INCAT 社) がやってしまっている。それなら日本は SES だ、SES の方がハイテクっぽくて格好いいじゃん、という発想だったのかもしれない。だが、その前に、世界各国の軍民分野で SES のプロジェクトがどれだけモノになっているのかを調べろと。ノルウェー海軍のシェル級以外に、実用にこぎ着けた SES があったっけ ?

結局、以前に書いた「テクノロジーの押し売り」と同じことで、実用的に問題を解決することよりも、まず「日本独自の技術」で「世界最高のもの」を作ることが優先される。それでお役人の自尊心は満足させられるかもしれないが、付き合わされる民間企業の方はいい迷惑だ。国の財政厳しき折から、こんなことに国民の血税を使うな。

こういう根底部分の考え方が変わらない限り、経済産業省がいいだしている「国産 OS の開発」だって、極めて高い確率でずっこけると思う。それでも、お国が作ったものだからということで、国の機関や各地の自治体はお付き合いで使わされるかもしれないが、それも TSL 並みにメーワクな話だ。
だいたい、経済産業省というのは「情報家電は TRON か Linux にしてくれないか」といって回っていたのが、MS と手を握った "裏切り者 TRON" をフィーチャーしなくなったような、経済国粋主義な役所だ。そういう体質でもなければ、「日本発のオープンソースの数」にこだわるような、クローズドな発想は出てこないだろう。

「日の丸プロジェクト」をやるな、とはいわないけれど、実用性とか経済性とかいったことに対する配慮を、もっと考える体質が必要なのでは ?

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