Opinion : Apple の Intel 転向に関する私見 (2005/6/20)
 

すでに業界各方面で騒がれている通り、Macintosh の CPU が PowerPC から Intel の製品に変わるそうだ。このニュースを受けて、いろいろなところでいろいろなことが書かれている。

そういったものの中には、"Windows の対抗馬としての MacOS" という視点を強く押し出して、MacOS X が Intel 製 CPU に移行することで、Windows のシェアを切り崩してくれるのではないか、という期待感を持たせた内容になっているものもある。もっとも、商用 Web サイトの場合、書き手がそう考えているのか、編集部が「そういう路線で書いてくれ」と依頼したのかは分からない。

ともあれ、自分も一応は Mac ユーザーの端くれだし、IT 業界の片隅でメシを食っている身でもあるから、この話題に便乗して私見をまとめてみた。


最大の問題は、"Intel 版 Mac" の中身だろう。

ついつい、Intel 製 CPU 採用ということで、「Intel 版 Mac = PC/AT compatible」だと考えてしまいがちだが、果たしてそうか。Windows のシェアを切り崩してくれるかも知れない、という期待記事は、これが前提になっている。
ただ、日本では、過去に PC-98xx (PC-9801、PC-98、PC-9821 を総称したつもり) や FM-R など、Intel 製 CPU を使った独自アーキテクチャの製品が栄えていた時期があった。CPU とチップセットは Intel 製だけど PC/AT compatible じゃない、という製品が出てくる可能性も、完全に否定することはできない。

特に Apple の場合、基本的にはハードウェア メーカーであり、"MacOS を売る会社" というよりは "Macintosh を売る会社" としての色彩が強いといえる。
ただし、今の Macintosh の売り方というのは、Macintosh 単体だけを売って済ませる商売とはいいがたい。Macintosh に周辺機器やアプリケーションソフトを組み合わせることで実現されるソリューションというか、ユーザー体験を売る、というビジネスをしているように感じられる。

たとえば iPod という製品があるけれども、あれは iTunes とワンセットになってこそ威力を発揮する製品であり、それを実現するには母艦として Macintosh が要る。販路拡大のために、一応は Windows でも iPod を使えるようになっているけれども、Macintosh とワンセットにした方が幸せになれますよ、という商売をしている。
(あれ ? Microsoft も別件で、似たようなことをいっていた時期があったような…)

そうはいっても、自社であらゆる種類の周辺機器を揃えることはできないから、たとえばプリンタやスピーカーのように外部にいいものがあれば、それは「餅は餅屋」ということで取り入れる。ただし、中核たる Macintosh の売れ行きを悪くするようなことはしない。過去には Mac 互換機の存在を容認していたものの、現在は認めていないことでも分かるように、基本的には、重要なコンポーネントを自社でコントロールできる領域内に、きっちり押さえておく傾向にある。

多分、AppleStore に行って、どんなサードパーティー製品を取り扱っているかを観察してみれば、Apple がどの分野を他社に任せて、どの分野を自社で押さえておこうと考えているのかが、なんとなく感じ取れるのではなかろうか。


前置きが長くなりすぎた。
そんなわけで、Macintosh、そして MacOS を自社でコントロールできる範囲にとどめておくためには、Macintosh が PC/AT compatible になり、どのマシンでも理屈の上では MacOS が動きます、という状況を作るとは考えにくい。第一、OS を単体で売り出すとなると、動作テストなどで面倒が増えてかなわないし、Macintosh の売上にも水を差しかねない。ハードとソフトをまとめてコントロールできるのが Apple の強みなのだから、それをわざわざ放棄するようなマネをするかどうか。

あるいは、ハード的には PC/AT compatible だけれど、MacOS しか動きません、という路線も考えられる。NEC がかつて、PC-98xx 用の MS-DOS に対して、EPSON の 98 互換機で動作しないようにプロテクトをかけた前例もある。これでも、同じ目的は達成できる。ハードウェアの開発コストを考えると、こちらの方が現実的かもしれない。

では、逆に Microsoft が "Intel 版 Macintosh" で動作する Windows を出すか。多分、出さない。
そんなことをしなくても、あの会社には Virtual PC というタマがあるので、それを使えば OK。PowerPC 上で Intel アーキテクチャの PC/AT 互換機をエミュレートするより、同じ x86 同士でエミュレートする方が効率的だろうし、どっちみち CPU パワーは有り余っている。だから、わざわざ手間暇かけて、新たに Windows のパッケージを増やし、開発・テスト・販売の経費を投入する必然性はない。


こんなことを書くと、真っ赤になって怒る人が出そうだけれど。
仮に、"Intel 版 Macintosh" が完全な PC/AT compatible になり、さらに「ユーザーの自己責任でインストールしてね」という但し書きでもつけて、Macintosh 以外のハードウェアを対象にして MacOS X の単品売りを始めたら、Windows よりも、むしろ別のところにトバッチリが行くのではないか。

私の口癖で、「MacOS X は最強のデスクトップ UNIX だ」というのがあるけれども、実際、UNIX の外側に綺麗な GUI をかぶせて、ユーザビリティに優れた製品を作り出したという点では、MacOS X は卓越している。
だから、同じ PC/AT compatible なマシンで動作する OS として、そこら辺の Linux ディストリビューションに OpenOffice を組み合わせたものと、MacOS X に iLife を組み合わせたものが量販店の店頭に並んでいたら、後者を買う人の方が圧倒的に多くなるのではないか。

関係者には悪いけれど、MacOS X と完全に同じ土俵で勝負したら、TurboLinux だろうが Linspire (大笑) だろうが、あまりにも旗色が悪いのではないか。ただし、KNOPPIX みたいな 1CD Linux は、また事情が違うかも知れないけれど。


ついでに書くと。Pentium M を利用できるようになることで、小型のサブノート版 Mac が出てくるのではないか、という期待を口にする人がいるが、個人的には「それはないだろう」と思う。少なくとも、短期的なスパンでは。

「理屈として作れる」ということと「ビジネスとして作る気になる」というのは別の問題。デスクトップ並みの機能を持ち出せるようにする、という PowerBook のコンセプトを転換するか、サブノート版 Mac にワールドワイドな需要が発生しない限り、現行の製品ラインから大きく外れたモノを出すことはしないと思う。いくらなんでも、日本の、それもコアなモバイル ユーザーのためだけに新機種を出すほど、Apple は暇ではないだろうから。


この件に限ったことではないけれども、さまざまなニュースに対して、日頃からの願望に合うように脳内変換してしまう人がいる。さまざまなニュースがおつむの中を通り過ぎて、出てきたときには軒並み「○○にとっていい材料」という結論になって出力される某社の株主が典型例だけれども、Windows のインストール ベースばかりが多い現況に飽きて、対抗馬を求める心理、あるいはサブノート版 Mac を欲しがる心理も同じ印象がある。

無論、競争状態がある方がエキサイティングで面白い。でも、過去に Microsoft のライバルが自滅してきた歴史を無視して、何か対抗馬らしきものが出てくるたびに都合のいい前提条件をつけて煽ることばかり繰り返していても、あまり建設的とはいえないと思う。

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