Opinion : 交通土木の面白さ (2005/6/27)
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たまには、肩の凝らない話題を。って、以前にも何かの記事で書いたような気がするけれど…
いわゆる「乗り物」に興味を示すようになってから、優に 30 年を超える時間が経過している。その中でも、鉄道の配線に興味を持ち始めてから 20 年以上、「土木構造物」に興味を示すようになってから、これまた 20 年近く経つ。
といっても、飛行機や船では面白味に欠けるので、やはり、鉄道と道路が面白い。特に、すでにあるものを営業しながら改築する現場は、最高に面白い。
実は、大学受験のときに候補のひとつとして考えたのが、日本大学の理工学部 (だったと思う) にあった、交通土木工学科。今は別の名前になっているようで、社会交通工学科が該当するのだろうか ? 結局、土木よりも機械に対する関心の方が強かったので、ここは受験しなかった。それがいつの間にか、途中で道を踏み外して (おっと)、IT 屋になってしまったのだから、人生というのは分からない。
それはそれとして。
何でもそうだけれど、ゼロから新しく作るよりも、すでにあるものを手直しする方が制約条件が多い。たとえば、マンションをリフォームして間取りを変更しようなんていうことになると、好き放題に変えるのは難しい。建物の構造部材はそのまま手をつけずに、変えられる範囲内で間取りの変更を考えなければならない。
ましてや、すでに営業している鉄道や道路をそのまま動かしながら、線路を付け替えたり、新しい線路や車線を増設したり、あるいは別の路線を追加することになったのでジャンクションが必要になったり、というのは、やってる当事者は大変だと思うけれど、自分みたいな野次馬から見ると、非常に面白い。
以前、小田急沿線住民をやっていたときに、地元の駅で高架複々線の工事が開始された。腹付け線増して線路を 2 本から 4 本に増やすというのは最初から分かっているから、その分だけ幅を取るのも自明の理。だが、単に線路を増やすのではなく、立体化と同時に線路を増やすから、パズルのようになってしまう。
おまけに、電車の営業は続けているわけだから、乗客用の通路も維持しなければならない。線路だけでなく、通路の切り替え工事も何度となく繰り返されたのだが、その過程を必死になって推測して、実際に起きた結果と比較するのが楽しかった。
線増立体化の場合、既存の複線の脇に用地を確保して、そこに高架橋を造る。そっちに営業線を切り替えた後で、空いた土地に残りの高架複線を造って、晴れて高架複々線の出来上がり、というのがもっとも分かりやすい。小田急の場合、狛江市内はこのパターンでいけたが、世田谷区内でははるかに複雑な作業になったので、見物する立場としては、もっと面白かった。
そういう意味では、東横線の田園調布でやっていたような、既存線路の真下に穴を掘る方法は、ウォッチャーからすると、いまひとつ面白くない。地下の見えないところでシコシコとトンネルを造り、それがある日突然、営業を開始する… これでは、過程が見えないので面白味に欠けるうらみがある。ウォッチャーを楽しませるために工事しているわけではないから、仕方ないけれど。
未だに謎が解けないのが、京王線の笹塚-新宿間。京王新線ができたときに、既存の京王線を地下に入れて線路の付け替えをやっているはずだが、笹塚駅東方の線路とその周辺を見る限り、どこをどうやって工事したのか、よく分からない。地元で何年も仕事をしていたが、とうとう結論は出なかった。普通、仮線用地の跡らしきものはどこかに残るものなのだけれど。
最近、道路にも興味の対象を広げているが、これがまた面白い。特に、目下建設中の、首都高速・中央環状新宿線。こちらのサイトを見ていただくと分かるが、山手通りの下にシールドで穴を掘るというだけでもエキサイティングなのに、高架の既存線と接続しなければならない西新宿 JCT と大橋 JCT の凄さといったら !
特に、ダブルループで地下から一挙に駆け上がる大橋 JCT (参照)。完成したら、速攻で走りに行かなければと、今から期待している。
ときどき勘違いしている人がいるようなので書いておくと、シールド工法でも発進基地が必要になるので、地上にまったく影響を及ぼさないわけにはいかない。浅深度だろうが大深度だろうが、それは同じこと。小田急の地下化を主張する人達の中に、既存の線路の下にシールドで穴を掘ればいい、といっていた人がいたようだけれど、そんな簡単な話じゃないハズだ。
だから、山手通り (首都高速) でも明治通り (地下鉄 13 号線) でも、必ず途中で、シールド発進基地のための用地を道路のド真ん中に確保している。そもそも、シールドを埋めないとシールド工法は成り立たないのだから。
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先にリンクした「東長崎機関」の記事でも言及されているが、首都高速の場合、先にグランドデザインを作っておいて、それに合わせて少しずつ建設を進めている (地下鉄の場合も同じ)。だから、後からできるはずの路線に合わせて、それを増設する、あるいは既存線に接続するためのプロビジョンが、さりげなく作られている。それを発見するのも楽しい。
たとえば、首都高速なら新設線が合流する予定の場所に、ちゃんと最初から合流車線が用意してある。非常駐車帯と勘違いしやすいけれど、形が違うので分かる。中央環状線でも、将来、入谷から 1 号線が伸びてきて接続される予定の場所に、ちゃんと合流車線のプロビジョンがある。いつできるか知らないけれど。(超ローカルな話ですみません)
地下鉄でも、将来の新線分岐などに備えてホームを余分に用意してある場合がある。そんな事例を発見してニヤニヤするのも楽しい。
特に都市部の場合、用地面での制約が多いくせに需要の方はやたらと多いから、鉄道でも道路でも、設計担当者は頭痛がしていると思う。しかも、どちらの場合も既存線を営業しながら改修、あるいは増設をやらなければならないし、特に鉄道の場合は勾配の制約も厳しい。そんな中で、パズルのようにさまざまな制約条件をクリアしつつ、設計と工事を進めている皆さんには敬服する。
そうはいっても、制約が厳しすぎてどうにもならず、完成してから渋滞や事故の元になってしまうようなジャンクションも、特に首都高速には散見される。極めつけが小菅・堀切の両 JCT で、中央環状線の葛西方向と江北方向を抜けようとすると、アクロバットのように連続車線変換しなければならない。通るたびにヒヤヒヤものだ。
といっていたら、中央環状新宿線ができると、板橋 JCT も同じことになる。げげ。
だいたい、何事も制約が厳しい方が知恵を絞らなければならない度合が増えるので、いろいろ面白い。その中でも、都市部の道路や鉄道の変化を眺めるのは、究極的な遊びといえるのかもしれない。路面をほじくり返して渋滞を作るだけの道路工事はつまらないが、増設・改良モノの道路工事や鉄道工事は、意外なほど楽しめる。世の中には、こんな頭脳ゲームもあるのだ。
多分、現時点でもっとも熱いのは中央環状新宿線、これから面白そうなのは、小田急の代々木上原-東北沢間だと思う。なにしろ後者は、高架複々線になっているところをいったん壊して、地下に入れないといけない。どんなことになるのか、楽しみ。
と、調子に乗って書いていたら、「鉄道の配線」について書くのを忘れた。また、機会があったら取り上げてみたい。これはこれで、極めて楽しいものだから。
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