Opinion : "独島艦" がどうしたって ? (2005/7/11)
 

韓国海軍の新型揚陸艦 (LPX) が進水したそうな。なんか、PC 用マザーボードの規格みたいな計画名称だけれど、それはそれとして。

揚陸艦といいつつも、外見は海自の <おおすみ> と同様に平甲板型。当初、韓国の報道機関が「軽空母」と称した上に、「独島艦」なんていう艦名まで報じられたものだから、あちこちにカッカしている人がいるらしい。中には「これは日本侵攻用だ」なんていう声も出てくる始末。

でも、ちょっと待った。たかだか揚陸艦 1 隻、海兵隊員 700 名、水陸両用車 (AAV7 か ?) 7 両、戦車 10 両、ヘリ 10 機で、いったい何ができるのかと。竹島以外に、別の島にも強襲上陸して占領するとでも ?

スキージャンプを設置しているわけではないから、V/STOL 空母として使うつもりは (少なくとも当面の間は) ないのだろう。韓国が F-35 計画に参加しているわけでもないし、ハリアーも保有していない。だから、「軽空母云々」というのは、国威発揚を企んだ韓国マスコミの早とちりということで、一件落着としてよいと思われる。よって、以下では揚陸艦として扱うことにして。


まず、サイズの話。明らかに、<おおすみ> 級より一回り大きい。全長が 20m ほど長く、幅も 6m かそこら広い。排水量は満載 19,000t という話もある。フランス海軍が建造中の Mistral 級と同程度のサイズのようだ。
もっとも、デカければいいというものではなくて、揚陸艦を標榜するのであれば、ポイントになるのは搭載能力と揚陸能力。積荷が多くても、それを迅速に陸揚げできないのでは、揚陸艦の意味がなくなってしまう。

いろいろ調べてみたら、LPX は LCAC を搭載することになっているらしいが、アメリカ製の LCAC を購入するという話は聞こえてきていない。韓国で独自に LCAC を開発するという話が報じられているが、ペイロードは 21t という話 (参考 : 建造所の Web) で、米海軍の LCAC と比べると半分以下。これでは、戦闘時重量 51t の K1 戦車 (Jane's Tanks and Combat Vehicles Recognition Guide より) を載せられない。M48 だって無理だろう。
AAV7 でも、戦闘時重量 22.838t だからギリギリだ。というか、水陸両用の AAV7 を LCAC で陸揚げするのでは意味がない。M113 ならともかく。

ちなみに、米陸軍の FCS (Future Combat System) が、C-130 による空輸を諦めて重量上限を 22t まで引き上げるかどうかでゴタゴタしている。

LPX が備えているウェル・ドックのサイズが分からないけれども、LCU-1610 型揚陸艇 (ちなみに、サイズは全長 41.1m×全幅 8.8m) を収容できるのであれば、これで戦車の陸揚げはできる。ただし、LCU-1610 級は最大 11kt の速度しか出ないので、LCAC と比較すると極めてのろい。
ちなみに、その LCAC は全長 26.8m×全幅 13.1m (エアクッション航走時)。もっとも、海自の <おおすみ> 級が LCAC を収容しているのだから、もっと大きい LPX が LCAC を収容できないのだとしたら、間の抜けた話ではある。それとも、アメリカが LCAC を売ってくれなかったのか、LCAC まで買うカネがなかったのか。

では、空輸能力の方はどうか。
甲板のヘリ発着スポットを数えてみると、5-6 ヶ所。艦のサイズを考えると、そんなに大型のヘリは運用できまい。実際、搭載機は CH-60 とリンクスだと報じられている。これでは、700 名の海兵隊員を一度に輸送するのは無理っぽい。もっとも、搭載している兵員全部を一度に空輸できるだけのヘリを積んだ強襲揚陸艦なんて存在しないから、これはそんなに不自然ではない。

それよりなにより、LPX で気になったポイントは別にある。

LPX の写真を見ると、対空捜索レーダーとして蘭 Thales Naval 社の SMART-L を備えている。米海軍の強襲揚陸艦が AN/SPS-48 対空 3 次元レーダーを備えているのを別格とすると、こんなゴージャスな対空レーダーを備えた揚陸艦は珍しい。SMART-L といえば、オランダ海軍の新型防空フリゲート・LCF が備えている対空捜索レーダーと同じものだ。
(追記 : 米海軍の Tarawa 級は、当初は AN/SPS-52、後で AN/SPS-48 に換装)

メーカーの解説によると、SMART-L は 400km のレンジを持つ対空捜索 3 次元レーダーで、D バンドを使用、仰角 70 度までカバー可能、ステルス機に強いほか、弾道ミサイルの探知も可能、ということになっている。こういっては悪いけれど、揚陸艦が搭載する対空捜索レーダーとしては、いささかオーバースペックではないか。いくら、ヘリを使った揚陸作戦を想定しているのだとしても。

あと、同じメーカーの MW-08 レーダーを備えているという話もあるようだ。こちらは 105km のレンジを持つマルチビーム対空 3 次元捜索レーダーで、G バンドを使用する。メーカーの分類では捜索・監視・目標追尾用レーダーとされており、射撃管制レーダーではない。こちらはすでに、KDX や KDX-II で搭載実績がある。

Thales Naval 社というと馴染みが薄いかもしれない。かつての社名は Signaal 社といい、これが冷戦終結後に仏 Thomson-CSF 社の傘下に入り、他のグループ企業ともども「Thales ほげほげ」と名乗るようになった。Signaal 社の流れを汲むのが Thales Nederland 社で、その傘下で海軍関連ビジネスをやっているのが Thales Naval 社という位置付けになっている。
ちなみに、Signaal 社の STIR 射撃管制レーダーが、海自のヘリコプター護衛艦や米海軍の O.H.Perry 級フリゲートに搭載されている。


ヘリの整備能力がないとか、車輌をいちいちエレベーターで上げ下げするってどうよ、などと、いろいろいわれている <おおすみ> 級だが、まがりなりにも "揚陸艦" に徹しているのは確か。それと比べると、韓国の LPX は、なんだかどっちつかずで、中途半端な感じがする。まだイージス艦 (KDX-III) がない現在では、対空捜索レーダーなんか韓国海軍最強クラスだ。揚陸艦としてみると、なんか変だ。

SMART-L や MW-08 の装備だけで判断するのは早計だけれども、実はこの艦、揚陸機能よりも、指揮管制機能の方が重視されているのかもしれない。ただし、米海軍の Blue Ridge 級みたいに「(揚陸) 指揮艦」という名の単能艦を持てるほど韓国海軍はリッチじゃないから、揚陸艦としての機能と指揮艦 (戦隊旗艦) としての機能をひとまとめにしたのが LPX、ということではないか。「いろいろできます」という方が、国会で予算を取りやすいだろうし (微苦笑)。

そうなると、なんとなく中途半端な揚陸能力の改善に力を入れてみたっていいじゃないの、と突っ込みたくなるところだが、そこはそれ。隣国が平甲板型の揚陸艦を持っているし、中国が空母を欲しがっているのも周知の事実。どうせ建造するのであれば、流行に乗っていて見栄えのいい平甲板型にすれば ? という考えがあったのかもしれない。その方が、国会で予算を取りやすいだろうし (微苦笑)。

日本でも似たような考え方をする人がよくいるけれども、「某国がこれこれを持っているから、うちでも対抗上、これこれが必要だ」という思考過程。なにも日本の専売特許ではなくて、どこの国でも大差あるまい。軍備の世界ではよくあることだし、極端なことをいえば、多くの人が、流行のバッグや洋服や電気製品なんかを欲しがる心理と同じこと。

そもそも、平甲板型揚陸艦は冷戦後の海軍におけるひとつのトレンド。日本や韓国だけでなく、フランスでもイタリアでもスペインでも、すでに存在していたり、建造計画が進められていたりするものだ。これらを含めて、最近になって揚陸艦の整備を進めている国の多くは、韓国と同様、地理的条件だけ見ると揚陸艦を必要としそうにない、と見えるのも事実。
多分、韓国海軍にとっての LPX は、どこで揚陸作戦をやるかという話よりも、世界から一流海軍と認識してもらうためのパスポートという意味合いがあるのでは。

とりあえず、現物が完成して運用を始めてみてから、お手並み拝見というところだろうか。従来にない種類の装備を導入すると、いろいろと、運用のためのノウハウをゼロから作り上げていかなければならないものだから。

最後に突っ込みをひとつ。本気で "blue water navy" を目指すのであれば、韓国海軍には補給艦の戦力が決定的に不足していると思う。正面装備の充実にばかり気が向いていて、後方支援能力が不足してるって… あれ ? 大日本帝國海軍でも似たような失敗をしていたような。

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