Opinion : ネットと選挙とイカリング (2005/9/26)
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今週は、以前から取り上げてみようと思ってはいたものの、なんとなく書きそびれていたネタを。
インターネットの利用が普及するにつれて、「どうして選挙運動をネットでやっちゃいけないの」という声が出てきた。現状では、選挙運動にネットを利用するのはほとんど不可能な状態であり、選挙期間中は立候補者の Web サイトが改変禁止になる。この間の衆議院選挙で、民主党の Web サイトが「改変された」「されてない」といってもめていたのは記憶に新しい。
選挙というのは、政治家が自らを有権者に売り込むためには最高の機会のはず。それなのに、その選挙の期間中は Web の更新ができない。まるで、リクルート事件の証人喚問で登場した珍エピソード「静止画テレビ」みたいだ。
よくよく考えたら、こんなことになってしまった原因について、私はよく知らなかった。そこで、軽く調べてみた。
なんでも、総務省の見解によると、選挙で一定の制限を課した上で利用が許可されている「法定ビラ」と Web サイトが、同じ扱いなのだそうだ。そのことが「改変禁止」に結びついているらしい。Web を使うと、無制限に「法定ビラ相当品」をばらまけるから公職選挙法違反、ということだろうか。
ちょっとググってみたら、法定ビラは 2 種類まで作ってよくて、枚数は最大 16 万枚、しかも 1 枚ずつ「証紙」を貼らなければならないらしい。意外と面倒なのね。
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でも、Web コンテンツというのはサーバに "掲示" してあるものをユーザーが勝手に見に来るわけだから、候補者が "プッシュ型" でばらまく法定ビラとは状況が違う。どちらかというと "プル型" だ。つまり、街頭の掲示板にポスターを掲示するのと同じ扱いと考える方が、実態に即しているのではないかと思える。
もちろん、Web サーバが詐称されるという事態も考えられる。候補者の名前と紛らわしいドメイン名を取得してニセの Web サイトなんか作られたのではたまらない。しかし、それは SSL を使い、「証紙」の代わりにデジタル証明書を用意する手もある。完全な対策とはいえないし、誰が認証局になるのかが最大の問題だけれど。(SSL は、なにも暗号化通信のためだけにあるのではなくて、サーバの身元保証にも使えるのだから)
IT 業界の人間は往々にして「ネット原理主義」に陥りがちなので、何でもネットでやるのが偉いと思いこむ節がある。選挙のときに blog が云々といわれたのもそうだし、かつては「ネットショップで既存流通は駆逐される」なんていうぶっ飛んだ見解を示す人もいた。しかし現実はというと、blog で選挙の行方が決定的に左右されたという話は聞かないし、既存流通とネットショップは相互補完の関係を作っている。えてしてそんなもの。
では、選挙とネットの関わりについてはどうかというと、Web サイトのような "プル型" のものであれば、解禁しても実害は少ないと思う。ただし、1 候補者につき 1 サイトに限るとかいう制限はあっていいかも。
Web サイトだったら選挙カーみたいな騒音公害にならないし、Web サイトの利用と引き替えに選挙カーの利用に関する制限を強化するのも一案。特に市街地や幹線道路沿いに住んでいる人の中には、あの騒音に辟易している人は多いはずだ。(もっとも、共産党みたいに、静かな住宅地のど真ん中でラウドスピーカーを持ち出して演説をおっぱじめる人もいるけど)
一方、候補者の側から積極的に何かを送り出す "プッシュ型" は、禁止した方がいいのではないか。たとえば、blog でトラックバックを送信するとか、電子メールを使って宣伝するとか。ただでさえ、この手の "プッシュ型" 機能は迷惑を撒き散らす温床になっているのだから、選挙で必死になった候補者 (や、その支持者) が暴走する可能性は大いにあるというのが、その理由。
トラックバック spam や選挙 spam メールの多発に対する懸念に加えて、ネットにおける情報伝播のあり方に不安を感じていることも、全面解禁に同意できない理由。それを再認識させられたのが、最近の、ホワイトバンドを巡る一連の動き。
私は 2 ヶ月ぐらい前からホワイトバンドに対して批判的な論調を通してきたし、それは今でも変わっていない。最近になってようやく、「え、募金じゃないの ?」とか「中国製って変じゃん」「原価や流通費が高すぎない ?」といった声が増えてきたのは結構なことだと思う。ただ、批判側が暴走気味になってきたのが気になる。
どういうことかというと、「誰もが納得する事実」「当事者がこういっている、という類の話」「運動の内容がもたらすであろう自体に関する可能性」「単なる噂話」「ガセネタ」がこんがらかってしまい、どれも真実であるかのように伝搬している。これはいささかまずい。
いくら「ネタをネタと見抜けない人は (以下略)」といっても、それは建前論。どこかの Web サイトや掲示板、あるいは blog に書かれている内容が批判派の琴線に触れる内容のものだと、あっという間にコピペされて広まり、さらにそれがリンクやトラックバックなどを通じてワッと伝搬する。もっとも、賛同派だって事情は似たり寄ったりではあるが。
たとえば、「イカリングは中国製」。これは公式 Web サイトにもそう書いてあるし、このキャンペーンの黒幕・サニーサイドアップなる PR 会社の社長も認めている、誰もが納得する事実。そして、売上の配分や使途は「当事者がこういっている」に分類される。そういう話は出ていても、我々には検証する術がない。
製造原価の比率が妙に高くて、しかもそれが中国製だから「中国に多くのカネが落ちる」という推測はそれなりに筋が通っているが、「中国に落ちたカネがチベット虐殺の費用に使われる」となると、いささか "風が吹けば桶屋が" 的な飛躍が入ってくる。完全に否定はできないにしても。「ホワイトバンドがいうように債権放棄すると、そのカネでイギリスの武器業者が潤って云々」という話も同様で、完全に否定はできないものの、やや飛躍した推測といえる。
しかし、こうした推測も事実とごっちゃにされて、さも確定した話であるかのように触れて回られているのはいかがなものか。事実と推測とネタをごっちゃにした批判は、後で足元をすくわれる原因になりはしないか。
だいたい、アフリカの兵器市場なんていうのは、市場規模の数字が他の地域より一桁小さい。今、大口の兵器商談で儲けたければ、中東とアジアを措いて他にないのだ。そんなニュースは JDW でも読んでないと伝わってこないけれども。それに、兵器を買うより先に、独裁者の不正蓄財に回されるんでないの ?
もうひとつ、この運動については「何をもって貧困解消とするのか」という極めて重要な点に関する議論が欠落しているのだが、それについてはまた、別の機会に。
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この件に限らず、ネットでは真実も噂もガセネタも、伝搬する速度が速い。さらに付け加えると、話題が忘れられるのも速い。最近ではあまり聞かないけれども、「ネットの噂も 75 時間」という格言があるぐらいだ。「人の噂」より 24 倍速い (おい)
こういう状況下で選挙運動のネット利用を無制限に解禁したら、ポジティブな影響よりネガティブな影響が目立ってしまうのではないかと懸念される。特定の候補者に対する誹謗中傷・コメントスクラム・掲示板荒らしなどは序の口で、F5 攻撃とか田代砲とか、果てはネットで「落選運動」をやらかす輩が出てこないとも限らない。正直なところ、どんな事態が起きるかを完全に予想するのは難しい。
そう考えると、「ビラ代用品としての Web サイト更新ぐらいは認める」というのが当座の落としどころで、後は様子を見ながら、"プル型" の範囲内で対象を少しずつ広げる可能性を留保しておく、というぐらいが無難ではないかと思う。いきなり全面解禁となると、現時点ではリスクの方が大きい。
あと、是非ともやって欲しいと思うのが、選挙公報のネット配布。PDF にして、地域ごとに候補者一覧からダウンロードできるようにしてもらえば OK。HTML だと改変されやすいから、PDF の方がいいだろう。
なぜかといえば、現状では新聞を取っていないと選挙公報が入ってこない。役所に行けば配布されているといわれても、役所が近所にないとか、あるいは回り道になるとかいう人は足が遠のいてしまう。それなら、既存店舗の不便なところをネットショップが補っているのと同じ理屈で、選挙管理委員会が Web サイトを用意して、選挙公報の PDF をダウンロードできるようにすれば、多少は解決できる。
いったん OK といったものを、後になって禁止するのは難しい。そして、何かとんでもない騒動になって、「ほらみろ、だからネットで選挙運動なんかやっちゃ駄目なんだ」といわれたら元も子もない。それなら、無難なところから少しずつ手をつけていくアプローチの方が確実だし、悪影響も少ない。いかがだろうか。
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