Opinion : 私的傑作機撰・E-3 セントリー (2005/10/3)
 

今週はヒマネタをひとつ。

「世界の傑作機」の最新号は、A-5 ヴィジランティ。確かに、これを「駄作」と呼ぶのは語弊があるけれども、大声あげて「傑作」と呼ぶのも若干の抵抗がある。あっという間に本来の目的 (艦上核爆撃機) を取り上げられてしまい、核爆弾搭載用のスペースを偵察機機収納スペースに衣替えすることで威力を発揮したのは、いってみれば予定外の事情だから。

それでも、フォトジェニックな機体なのは確かだし、1960-1970 年代の米海軍機ということもあってマーキングのバリエーションも豊富。その辺が、出版にこぎ着けられた理由かなと邪推してみた。

こういう、「商売になる」と思ってもらえる理由がある機体はいい。でも、レッキとした傑作であるにもかかわらず、なかなか本のネタにしてもらえない機体もある。その典型例が、E-3 セントリーではないかと思ったり。


E-3 セントリー AWACS
E-3 セントリー AWACS (Photo by DoD)

ここのところ、アメリカがイスラエルの兵器輸出に口を出してモメていたのは、当サイトを定期的に御覧いただいている皆さんなら御存知だと思う。確かに、悪名高きフランスほど目立たないにしろ、イスラエルの兵器輸出も相当に節操がない。といっても、豊富な実戦体験に裏打ちされているおかげなのか、それとも値段が比較的安いからなのか、案外とカスタマーに恵まれている。

そのイスラエルの兵器輸出でも、特にモメているのが中国。そして、イスラエルが中国に輸出した物件のうち、もっとも騒動が大きくなったのが Harpy なる UAV、その次が Phalcon 早期警戒用レーダー。J-10 戦闘機の素材になったとされる Lavi 戦闘機のことなんか、陰に隠れてしまってさっぱり話題になっていない。

「お空の主役は戦闘機」という観点からすると、むしろ Lavi をベースにして J-10 を作られてしまったことの方が重大視されそうなものだが、実際にはそうなっていない。これはなかなか興味深いところ。つまり、アメリカは Harpy みたいな SEAD 用 UAV や、AWACS 機のキー・コンポーネントとなる早期警戒レーダーの方が、戦闘機よりも重大な存在だとみなしているわけだ。

表立って口にしなくても、何を重大とみなしているのかが行動から読み取れる事例として、基地の一般公開がある。
たとえば、横田基地の一般公開で P-3C の機内を全部公開してしまい、センサーマンの席も TACCO の席も、もちろん操縦席も全部見物し放題、写真撮り放題、さらに FLIR ターレットをグルグル回してみせるサービス付き、ということがあった。しかし、その近所に置かれていた E-3 セントリーの方は非公開。つまり、E-3 は P-3 よりも機密がぎっしり詰まっていて保安度が高いということになる。だから中身は見せられない。見てもいいのは外側だけ。

艦艇の一般公開でも、事情は同じ。CIC が公開されることがあっても、通信室が公開されることは金輪際ない。つまり、CIC は見られても支障ないけれど、通信室は支障があるということになる。(もっとも、私は某イージス駆逐艦の CIC で写真を撮りまくっていて、「おまえ、もういいだろ」とばかりに、やんわりと追い出されたことがあるけれど)

E-2C ホークアイ
見た目は E-3 と大して違わない、E-2C ホークアイ (Photo by DoD)

そんな、大事に大事に扱われている E-3 セントリーの、いったい何が画期的なのか。

E-3 以前にも、E-1 トレーサー、E-2 ホークアイ、EC-121 ウォーニングスター、Tu-126 モスといった具合に、でかい捜索レーダーを搭載した航空機はあった。なるほど、レーダーの性能が向上してルックダウン能力が加わったとかいう変化はあるにしろ、レーダーをエアボーンすることで広い範囲の捜索が可能になったという本質は変わらない。
ところが、E-3 は従来のような AEW (Airborne Early Warning) ではなく、AWACS (Airborne Warning and Control System) と呼ばれている。つまり、E-3 のキモは、レーダーに加えて指揮管制 (Control) 機能を一緒に積み込んでしまった点にある。

実際、米空軍や英空軍の E-3 について書かれた記事を見ると、E-3 が C4ISR の "ハブ" として機能している様子について、いろいろと書かれている。管制員を一緒に乗せているだけでなく、任務指揮官もセントリーに乗って、空中から指揮を執るのが普通だ。それは、戦闘指揮に必要な情報がすべて、"ハブ" である E-3 に集まってくるから。それなら、情報のある場所に指揮官を置くのが自然だということになる。

拙著「戦うコンピュータ」でも書いた話だけれど、OIF (Operation Iraqi Freedom) では、イラク上空に JDAM を積んだ B-1B を常時在空させておいて、ターゲットが見つかると E-3 の管制員が指示を出して向かわせる、ということをやっていた。つまり、航空戦の実施全般を取り仕切っているのは E-3 ということになる。

そして、空中戦では E-3 に乗った管制員が許可を出さないと撃てない。となると、E-3 には十分に信頼のおける敵味方識別能力が要ることになる。もちろん、基本的なレーダー能力も重要だし、多数の戦闘機や爆撃機とコミュニケーションするための情報伝達能力も要る。口頭の情報伝達だけでは間に合わないから、Link 16 データリンクも載せるようになった。また、レーダーだけでなく ESM を追加して、パッシブな探知手段も持たせるようになった。

そして、E-3 はさまざまなセンサーから入ってきた情報で得られる "神の目から見た景色" に基づいて、戦域を飛び交う航空機に対して的確な指示を出せるようになり、航空戦の効率が大幅によくなった。しかも、管制員はレーダーと同じ場所に同居しているから情報伝達にロスがなく、管制作業そのものの効率もよい。まさに "force multiplier" と呼ばれる所以。
そういう意味で、E-3 のような AWACS 機は、航空戦のありようそのものを変えてしまった、真に革新的な機体といえる。これを傑作機といわずして、なんといおうか。

だから、私は「世界の傑作機」で E-3 を取り上げて欲しいと思っているのだが、まだまだ機密度が高いし、未だに改良計画が続いている機体。これでは、現役にとどまっているうちは無理かなとも思う。後継機の E-10A と交替が完了して、2030 年代になったら出せるかも知れないけれど。


そんなこんなで、AWACS 機が航空戦の効率を大幅にアップするという認識があるからこそ、アメリカはイスラエルのレーダー輸出に強烈に文句をつけたし、AWACS クラブへの加入を希望する国も後を絶たない。AWACS が役立たずなら、誰も欲しがるはずがないのだから。

ただ、さすがに E-3 や E-767 みたいなフルスペックの AWACS 機は値が張るから、最近の導入事例はたいてい、AEW&C (Airborne Early Warning and Control) と呼ばれる、少しスペック・ダウンした機体になっている。
といっても、レーダーやコンピュータのテクノロジーが進歩しているから、案外と捨てたものではない。それに、レーダーそのものも可動部分がないフェーズド・アレイ・レーダーを使う事例が増えている。その分だけ厄介な機械部分が減って都合がいい。

具体例としては、Ericsson 社の Erieye や、Northrop Grumman 社の MESA (Multi-role Electronically Scanned Array) が挙げられる。前者は EMB-145 に載せられてブラジルやギリシアが使っているし、後者はオーストラリアの Wedgetail 計画で、B.737 の背中に載っている。確か、トルコでも導入する話があったような。

この手の「プアマンズ AWACS」(こら) は、プラットフォームが小型な分だけ管制コンソールの数が少ないし、レーダーも大型化できない。だから、能力的に E-3 の最新型と同等のレベルを期待するのは無理だとしても、何もないのと比べれば段違い。
そういえば、イスラエルから Phalcon レーダーを売ってもらえなくなった中国も、ロシアから Il-76 ベースの AWACS 機を入手する方向に動いているが、まだ具体的なブツが出てくるには至っていない。果たして、その実力や如何に。

この手の機体はプラットフォームに出来合いの旅客機を転用することがほとんどなので、飛行機としての魅力、外見的な魅力はあまり期待できない。それどころか、空力付加物ゴテゴテで不細工になってしまう場合も多い。
しかし、ドンガラがつまらなくても、機密のベールに包まれたアンコの部分は興味深い話がいっぱいある。たまには、この手の飛行機に真剣に目を向けてみても、バチは当たらないのではないか、と思う。見た目に大した変化がなくても、「ブレードアンテナが増えてる」とか「衛星通信アンテナが増えてる」とかいった些細な変化が楽しめるし (おい)

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