Opinion : 白燐弾の話と貧困空軍の話 (2005/11/21)
 

最近のニュースの中から、気になった話題をふたつ。


まずは噴飯モノのニュースから。例の「米軍がファルージャで、秘密の化学兵器・白燐弾を使用した」というやつ。

多少の知識がある人なら、白燐弾、いわゆる WP (ウィリー ピート) が目標マーキングや標定弾に使用する、発煙が主目的の弾だというのは常識。もちろん、化学反応によって燃焼して煙を出すわけだが、そもそも化学反応を起こすから化学兵器、という解釈からして大間違いだということに、このニュースに釣られた多くの人はまったく気付いていない。

厳密な意味での化学兵器とは「毒ガス」と言い換えることができる。マスタードガス、サリン、ソマン、VX などということになる。化学兵器禁止条約の対象物質については、外務省 Web サイトの PDF 文書 に掲載されている。

燃焼によって殺傷効果を発揮するからといって、たとえばナパーム弾が化学兵器に分類されているということはない。あれはパーム油とナフサで作られたもので、通常兵器扱いだ。テルミット手榴弾なんかも同様。
そもそも、化学反応が云々なんていいだした日には、たいていのモノは化学反応を伴うのだから、拡大解釈すれば何でも化学兵器になってしまう。SR-71 が超音速飛行してソニックブームで地上のモノを破壊したら、JP-7 ジェット燃料は秘密の化学兵器ということになるんだろうか ? そんなアホな。

J.H.コップの「シーファイター全艇発進」やラリー・ボンドの「核弾頭ヴォーテックス」に、ガソリンと石鹸を使って自作焼夷弾を作る話が出てくるけれども、そうなると、石鹸やガソリンだって化学兵器ということになってしまう。グリーンベレーの爆破担当は、あり合わせのモノで即製爆薬を作る方法を習うそうだけれど、これだって同様。

もしも、このスーパー拡大解釈を敷衍するならば、私はここでスクープ記事をひとつ飛ばすことができる。もちろん冗談なので、そのことを念頭に置いて読んでいただきたい。

1982 年のフォークランド紛争において、アルゼンチン軍がイギリス海軍の艦船に対して、秘密の化学兵器を使用していたことが明らかになった。これは AM39 エグゾセ空対艦ミサイルで使用されている、固体燃料ロケット・モーターのこと。
アルゼンチン軍はエグゾセ対艦ミサイルの弾頭を起爆させる代わりに、わざと射程を余してミサイルを英艦隊に向けて撃ち込んだ。こうすることで、着弾した際に余っていたロケット・モーターが一挙に燃焼、調理場の揚げ物油や上部構造物の製造に使用されているアルミ合金と化学反応を起こし、高熱を発して乗組員を殺傷した上で、艦船を沈没に至らしめるというもの。この化学兵器の威力で、イギリス海軍はミサイル駆逐艦シェフィールドなどが撃沈されるという被害を受けている。
なお、日本やアメリカも含めて、他国で開発・製造されている対艦ミサイルについても同様の効果が期待できることから、この秘密化学兵器の拡散が懸念されている…

繰り返すが、本気にしないでいただきたい。「化学反応によって燃焼して、高熱を発してどーたらこーたらするから化学兵器」という珍説を真に受けると、こういう理屈も成り立ってしまうという、ひとつの例えとして書いただけだから。

とはいえ、白燐を焼夷材に使用する事例がないわけではない。大量破壊兵器を一気に焼き払うための爆弾として、BLU-109 をベースにして、炸薬として PBXN-109 と白燐を混ぜた爆弾の開発が ATK 社に発注されたことがある。とはいっても、昔から知られている白燐の焼夷効果を利用したというだけの話で目新しさは何もないし、「白燐 = 化学兵器」の論拠にもならない。

そもそも、今回の一件で「白燐弾が残虐な兵器で怪しからん」と非難している人達に訊いてみたいが、普通の榴弾砲や MLRS なら残虐じゃないというのか。ぶっちゃけ、兵器の残虐性とは所詮、目糞鼻糞の議論でしかない。
なんか、こういうことを真剣に主張する人達って、命中精度が高い兵器の方が残虐だとかいい出しそうなんだが… 命中精度が低い方がハズレ弾が増えて付随的被害が増えるのだから、そっちの方が問題だろうに。

それともまさか、「中国や北朝鮮の核兵器は、自衛のための人道的できれいな兵器」とでもいうおつもりで ? ソ聯の SLBM には、海水と混合すると悲惨なことになる燃料が使われてたりしたのだが。(詳しくは「敵対水域」を読むべし)

とどのつまり、アメリカがやることなら何でも批判しておきたいという左巻きのマカロニ・ジャーナリストに、世界が釣られてしまったというだけの話。白燐弾なんて何十年も前から戦場で使われているモノなのに、いまさらこのネタに新味を感じて飛びつくこと自体、基本的な知識のなさを露呈していて恥ずかしいとしかいいようがない。

そんなことを気にするヒマがあったら、イラン・イラク戦争のときにイラク軍の化学兵器にやられたイラン軍の兵士が日本に治療を受けに来た話とか、そのイランが今度はシリアの化学兵器国産化計画を支援している話なんかにも目を向けてみたらどうなのよ、といってみたい。


次に、頭痛のするニュースをひとつ。

フィリピン空軍の主力戦闘機は F-5 タイガーだが、予算不足が原因で維持できなくなったという理由で、今後 6 年以内に退役させることになっている。1965 年から合計 37 機を調達したものの、運用経費が捻出できず、現役にとどまっているのは 5 機しかない。

そもそも、空軍力というのは立ち上げるのも維持するのもカネがかかる。第一線の戦闘機や輸送機そのものを買うだけでなく、それを飛ばすパイロットを訓練しなければならない。新人をいきなり戦闘機に乗せるわけにはいかないから、少なくとも 初等練習機→高等練習機→現場の戦闘機 という三段構えの教育訓練体系が必要になる。すると、練習機も必要になるし、教育訓練のシラバスや施設も整える必要があるし、教官も必要になる。そして、そういった道具立てを支える兵站支援の体制も必要になる。

最近では、戦闘機を輸入するときにはスタートアップ要員としてパイロットや整備員をメーカーに派遣して訓練させるやり方が普通だし、大掛かりな整備作業もメーカーに送り返して行うことが多い。とはいえ、日常的な整備は自前でやらなければならないし、自国の国情に合わせた運用ノウハウの開発も必要になる。

そんなこんなで、空軍力を立ち上げて、それを維持して、戦力としての有用性を発揮させるのは、人手もカネもかかる大変な作業といえる。先進主要諸国はともかく、アジアやアフリカ、中南米あたりの貧乏国では、これは非常に負担が大きい。よしんば中古の F-16 か何かを安く入手できる目処が立ったとしても、今時のハイテク戦闘機に実力を発揮させるには、さらにノウハウも資金も必要になる。機体の価格よりも、そっちの負担の方が大きくなってしまう。

しかも、空軍力というのは「それがないと戦争に勝てない」けれども「それだけでは戦争に勝てない」というモノでもある。だから、人やカネを握っている国家首脳の理解がなくて、ちゃんと必要な資金を確保できないと、空軍力は紙の上の戦力でしかなくなってしまう。

実際、経済的にそこそこの実力があると思われているマレーシアあたりですら、ホーク練習機と F/A-18D ホーネットのシミュレータが故障したまま、資金難で放置プレイになっていて、使えない状況にある。これではパイロットの訓練ができないから、後々、戦力に響いてくる可能性が高い。継続的に人員を育てておかないと、世代の断絶が発生するから。

もっともマレーシアの場合、政治的理由から MiG-29 と F/A-18 を同時並行で買わされるという非効率を強いられているので、これは同情の余地があるのだが…

だから、1960-1970 年代にかけて、MiG-21 やミラージュ III、F-5 なんかを入手して空軍を立ち上げた国の中には、機体の老朽化が原因で空軍戦力が瓦解してしまう事例が、これから続々と発生するかも知れない。なにも、空軍の戦闘機を潰すのに誰かがゴルフのミスショットをする必要はなくて、資金ショートを起こすだけで飛べなくなる。飛べない戦闘機は存在しないも同然。

それでも、近隣諸国が同様に貧乏で、まともな空軍を持っていないのであれば、影響は小さい。単に時計の針を数十年ばかり巻き戻して、地上戦だけ戦う時代に先祖返りするだけの話。ただ、そういう状況を受け入れられないとか、敵対勢力がそこそこの空軍力を保持しているので対抗しなければならないとかいう事情があると、空軍なしで済ませるというわけにも行かない。

かといって、先進諸国の空軍を助っ人に呼ぶのも、昨今の情勢から見て政治的に難しい。平素から強力な軍事的関係を作っていて、かつ、自国が相手国にとって重要だと認識させることができなければ、助っ人は呼べない。先に挙げたフィリピンの場合、アメリカを助っ人に呼べる可能性があるだけ救いがあるけれども、そういうことができない国も少なくないはず。

となると、機体を整備付きで提供する、あるいは一歩進んで、雇われパイロットまでセットにしてしまう民間軍事請負業が、こうした国に食い込む事態が増えるかも知れない。旧ソ聯製の、あまり新しくない機体なら二束三文で手に入るだろうし、軍縮のトバッチリで、そういう飛行機を飛ばせる人材が余っている可能性も高いから。

つまり、「エリア 88」の世界が現実になりかねないということ。これは地域紛争抑制という観点から見ると、なかなか由々しき事態ではないかと思われる。「ほっとけない フィリピン空軍のまずしさキャンペーン」でもやろうか (ぉ

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