Opinion : 負け組ラファールとフランスの今後 (2005/12/26)
 

戦闘機に関心がある皆さんなら御存知の通り、サウジアラビアがタイフーンの発注を決めた。名目はトーネードの代替だというのだが、すでに F-15C/D/S がしこたまあり、さらにトーネードも IDS と ADV の両方、さらに影は薄いものの F-5E/F まで保有しているのに、さらに 60-100 億ポンド (ソースによって諸説) を投じてタイフーンを買うというのだから、金満国家の面目躍如というか、なんというか。

だいたい、イラクのフセイン政権が瓦解した現在、サウジアラビアにとっての軍事的脅威なんてものは存在しない。にもかかわらず、戦闘機の購入に大盤振る舞いするというのは、もはや軍事的理由というより「道楽」の域に達した感がある。もっとも、それで戦闘機メーカーの景気を下支えしてくれるのであれば、それはそれでありがたいこと、かもしれない。

ただ、この話が決まったことで最悪の立場に置かれたのは、おそらくフランスではなかろうか。


1980 年代末から 1990 年代にかけて開発された各国の最新型戦闘機のうち、海外カスタマーを獲得できていないのはラファールぐらいのもの。戦闘機導入のコンペティションがあると名前が挙がる主要な機体について、それぞれの採用状況を見てみると… (太字は開発当事国)

  • F-16A/B/C/D/E/F : アメリカ、その他たくさんありすぎるのでパス
  • F/A-18A/B/C/D : アメリカ、オーストラリア、スペイン、カナダ、フィンランド、スイス、マレーシア、クウェート
  • F/A-18E/F : アメリカ
  • JAS39 グリペン : スウェーデン、チェコ、南アフリカ、ハンガリー
  • タイフーン : イギリスドイツイタリアスペイン、オーストリア、サウジアラビア
  • ラファール : フランス

F-22A (つい、F/A-22A と書いてしまう) については、そもそも名前が挙がってこないので、上のリストに入れていない。F-35 は MoU 調印が 1 年後の予定なので、まだ未確定ということで挙げなかった。

ラファールの万年負け組ぶりがよくわかる。最近でも、韓国で F-15K に負けて、シンガポールで F-15SG に負けて、サウジでタイフーンに負けた。ブラジルは相手が金欠でラファールどころの騒ぎではなく、中古ミラージュ 2000 を売り込むのがやっと。もはや大口の商談はあらかた出払ってしまい、あとはせいぜい F-35 のパートナー諸国をひっくり返させるぐらいしかない状況。まさか日本の F-X ということもあるまい。大穴でインドという可能性もなくはないが、どうだろう。

以前にも書いたように、ラファールが苦戦している大きな原因は、兵装から何からフランス製品で固めなければならない点にあるのではないか。機体自体の評価は決して悪くないし、サウジに至っては海のものとも山のものともつかないタイフーンを買うぐらいだから、それよりは熟成が進んでいるラファールが不利とも考えにくい。サウジが相手なら、お値段はあまり大きな問題にならなかったはず。となると、やはり機体の性能とか価格とかいった部分以外で嫌われたとしか考えられない。

機体を売るだけなら、アメリカ製の兵装を使えるように手直しする手もある。ただ、現実問題としてはシステム インテグレーションの費用をカスタマーが単独でひっかぶることになるし、電子機器担当の Thales 社や兵装担当の MBDA 社はビジネス チャンスが減るからいい顔をしない。結局、フランス製の機体と兵装とエンジンとその他のシステムを束で売るしかなくなり、それが却って販路を狭めてしまうという負け組スパイラル。

この先、RMA 化、NCW 化が進んでくると、周辺のシステム一式も機体と一蓮托生という傾向がますます強まるだろうから、いよいよ機体だけの評価では採否を決定しづらくなる。市場の帰趨が決まってしまった現状では、ラファールの輸出は諦めるしかないだろうと思える。
そもそも、フランスがミラージュ III やミラージュ F1 を売りまくったときには、中小の空軍を相手に小口の注文をコツコツと集めて商売していたのに、いまやその手の市場は F-16 とグリペンに占領されていて、値の張るラファールでは食い込めない。かといって、ハイエンドの市場では手強いライバルが多い。まさに前門の狼、後門の虎、という状況。


ただ、「はいそうですか」と輸出を諦められないのがフランスの辛いところ。となると、EU の対中武器輸出規制を撤廃させて、中国にラファールを売りつけようとする可能性も出てくるかも知れない。
もっとも、これまで旧ソ聯系列の機体に馴染んできた中国が、いきなりラファールを使いこなせるかというと疑問だけれども、そんなことをいちいちフランスが斟酌するものかと (笑)。いったん売りつけてしまえば、後はメンテナンスや搭載兵装、就役後のアップグレードなどで継続的に商売できるから、とにかく売ったもん勝ち。

実際、Eurocopter が中国側と対等出資してヘリコプターの共同開発をやる、なんて話も出ているわけで、フランスと中国の接近は要注意と思われる。航空機やミサイル、艦艇といった目立つ分野でなくても、軍民兼用の "dual-use" テクノロジー分野でコソコソと、ヤバげなものを輸出する可能性は低くないのでは。

それに、EADS がロシアの Irkut に出資してパートナーシップを結んだ、というニュースもある。ひょっとすると、アメリカに対抗する軸作りとして、フランス、ロシア、中国の緩やかな連合体 (ホワイトバンド風の表現にしてみた :-p) が形成される可能性もあるのでは。もっとも、ロシアはロシアで Su-27 や Su-30MK を売り込みたい立場だから、ヘタすると利害が合わなくて喧嘩になるかも知れないけれど。

それ以外の可能性としては、アメリカ機の牙城になっている国への食い込み。フランスの国防相が北アフリカ諸国を歴訪して軍事協力合意を取り付けて回っているが、主たるターゲットはエジプトだろう。しかし、ここは陸・海・空すべてでアメリカ製品が強いし、フランス製品の採用実績にも乏しい。寝返らせるのは簡単ではなさそうだ。

あとは、F-35A の前途にモヤモヤ感が出ている昨今、F-35 計画に加わっている諸国に対して、裏から攻勢をかけているかも知れない。特にオランダ・ノルウェー・デンマークあたりが「ヨーロッパの連帯」とかいう大義名分で狙われそうだ。あるいは、EU 加盟を交換条件にして、トルコに売りつけようとするとか。

なんにしても、えげつない商売をすることでは定評があるフランス兵器産業界のこと。今後の動向は要チェック。


今年の更新はこれで終わりです。御愛読いただき、ありがとうございました。
来週は新年なのでお休みをいただいて、次回更新は 2006/1/9 の予定です。

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