Opinion : 夜行列車は生き残れるか (2006/1/30)
 

ずいぶん昔に似たような記事を書いた記憶があるのだけれど、さらに状況が厳しくなってきたようだ。今度は <出雲> (客車の方) が廃止になるという。そういえば、九州方面も東北方面も、往時と比べると夜行列車の数は激減している。

寂しいニュースではあるけれど、過去にいろいろな分野について書いてきたように「しょうがないじゃん、乗る人いないんだもん」ということになってしまう。バスでも鉄道でも飛行機でも「公共性」というものはあるし、実際、それをタテにして土地の収用をやったりもするけれど、現実問題として採算が取れなければどうにもならない。

だいたい、いったん作ったものは石にかじりついてでも維持しなければならない、というのでは無茶苦茶なことになってしまう。トム・クランシーの「レッド・ストーム作戦発動」の中に、「いったん手に入れたものを奪うことはできない」という一節があるけれど、利用する人がいないのに既得権だけ主張されても困る。


原点に立ち返って考えると、純粋な移動手段としての夜行列車の魅力は「寝ている間に移動できる」という点に尽きる。旅情がどうとか、車輌そのものの魅力がどうとかいう話もあるにしても、利用者の多くは「移動手段」として見ているわけで。
現実問題として、移動そのものを楽しめるような夜行列車は <カシオペア> <北斗星> <トワイライト> ぐらいしか存在しないから、その辺の話はとりあえず措いておこう。

この魅力をスポイルする原因を作ったのが、飛行機の利用拡大と新幹線の普及ということになる。昔だったら移動そのものが一日仕事で、夜行で寝ている間に移動する方が効率が良かった区間でも、今では朝一番の飛行機や新幹線を使えば夜行列車が到着するのと同じぐらいの時間に到着できる、という話は少なくない。

えらい昔の話になるが、「鉄道ジャーナル」の 1970 年 9 月号で寝台列車の特集を組んでいる。これを見ると、今となっては信じられないような短距離の夜行列車が存在する。たとえば <天の川> (上野-新潟)、<新星> (上野-仙台)、<北星> (上野-盛岡)、<音戸> (大阪-下関) といった具合。
今なら新幹線で 1.5-2 時間程度で到着してしまう区間ばかりだが、在来線なら 4-6 時間かかる距離。それなら夜行にする価値もあったというわけだ。

特に面白いのが <新星> で、早めに入線させてお客を乗せてしまい、「発車は寝て待て」という仕掛けをやっていた。所要時間が短すぎるのを逆手にとったか。

<利尻> や <オホーツク> の季節運転化という話が出てきたものの、北海道では比較的夜行が多く残っている。この背景にも、夜行にするとちょうど「寝ている間に移動できて」かつ「発着時刻に無駄がない」区間が多かったせいだろう。JR 化以降の、<利尻> 以外の道内夜行はすべて利用したことがあるが、どれも到着時刻は朝の 6-7 時ぐらいで、早すぎず、遅すぎない。

いいかえれば、22-23 時ぐらいに出発して、翌朝の 6-7 時ぐらいに到着できるぐらいでないと、夜行列車は成り立たないということ。再び「鉄道ジャーナル」の 1970 年 9 月号を持ち出すと、この号の冒頭で取り上げている急行 <安芸> のごときは、東京駅を 20:05 に出発して、広島に到着するのは翌日の 12:15。なんと午後に食い込んでいる。当節なら、これでは使い物にならない。翌朝の <のぞみ> に乗った方が速く着いてしまう。
九州夜行の低調ぶり、とりわけ <はやぶさ> や <富士> の運転区間短縮も、距離が長すぎて到着時間が遅くなるのが嫌われたのだ、と考えれば納得がいく。それに、都市部では到着時間がラッシュ時にかかると、ダイヤのボトルネックになってしまう。

これが高速バスだったら、遅いのも寝苦しいのも運転時刻が安定しにくいのも「安いから」の一言で片付けられるけれど、鉄道はそういう訳にはいかないのが辛いところ。それに、バスと比べると鉄道の方が、採算をとるために求められる需要の水準が高い。


となると、前門の飛行機・新幹線、後門の高速バスの狭間で夜行列車が生き残れるのは、ある程度まとまった需要があって、遅めの時間に出て早い時間に到着できる区間ということになる。具体的には、22-23 時ぐらいに発車して、翌朝の 6-7 時ぐらいに到着できる距離で、往来が多い都市間を結んでいること。

つまり、所要時間でいうと 8-9 時間程度。表定速度 80km/h とすると、640-720km 程度の距離ということになる。実際、今でも生き残っている夜行列車の走行距離、あるいは時間帯は、このレンジからさほど外れていないものが多いハズだ。距離はこれより短いけれど、東海道線で <銀河> が走り続けていられるのも、時間帯の良さと往来の多さによる部分が大きいと考えられる。

需要がそれなりに見込めれば、<サンライズ> のように車輌を改善する余地も出てくる。ぶっちゃけ、1970 年代に製造された客車であれだけの寝台料金を取るのはムチャクチャで、その辺もどうにかしてもらいたいところ。昨年、大和ミュージアムに行ったときに利用した <サンライズ> なら、なるほど料金相応の内容だと思ったけれど。

なにしろ、改築問題で話題の「東横イン」がシングル一泊 5,000-6,000 円かそこらなのだから、それと比較されたら寝台料金は分が悪い。1960 年代なら、B 寝台車でも「走るホテル」だったかも知れないが、今では周囲のホテルが安く、かつ良くなってしまったから、相対的に寝台車の質が下がっている。一部の新鋭は別として。

少し前に、話のタネにと思って某所の「東横イン」を利用してみたことがある。部屋は呆れるぐらい狭かったし、アメニティがどうとかいうものでもなかったけれど、日常生活の延長線上で安価に快適なネグラを提供する、という目的は十分に達していると思った。これでは、24 系や 14 系の開放型 B 寝台では太刀打ち不可能だ。
面白かったのは、部屋ごとに家庭用のエアコンを付けていたこと。これも、コスト意識のなせる技 ?

そんなこんなで。
今後に夜行列車が生き残れるのは、先に示した条件を満たす区間で、かつ、車輌の質的改善を図ることができる場所に限られるのではないかと思う。相変わらず、空港の整備や整備新幹線の延伸を求める動きが強いのだから、なおさらだ。だから、飛行機や新幹線との競合が少ない方が有利だが、これはさすがに難しいか。
もしも可能ならば、料金体系だって抜本的に見直したいところ。複数の旅客会社にまたがって走る分、利害関係の調整が難しいのは承知しているけれど。

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