Opinion : 風刺画騒動について考えたこと (2006/2/13)
 

今週は、例の風刺画騒動について感じたことをつらつらと。


そもそも、風刺画というのはさまざまな局面で登場してくるもので、とくに政治家だの国家元首だのはネタにされやすい。ブッシュ大統領を筆頭にして、歴代合衆国大統領の風刺画なんて、他のどの国よりもたくさん出回っているんじゃないかと思う。それも、かなり品のないモノまで含めて。日本の総理大臣でもネタにされたケースは少なくないだろうし、場合によっては皇室がネタにされる事態だってあり得る。

だからといって、風刺画に対していちいち「国辱ものだ」と物言いをつける話は、よほどのことがなければ存在しない。実際問題として、「言論の自由」「表現の自由」と節度の境界線の問題は、終わりのない問題のようなもの。迂闊に文句ばかりつけていると、抗議した側が却って地雷を踏んでしまうこともあり得る。

そこで思い出すのが、最近になって中国がやらかしてくれた、日本のマスコミに関する勇み足の二連発。まず、「日本のマスコミは中国のことを悪く書きすぎだ。もっといい話も書け」と要求して外務省の人に突っぱねられた。さらに、「産経新聞は言論暴力団で、朝日新聞は進歩的」と名指しで貶したり褒めたりした。
中国では共産党の意のままにメディアやネットの情報を管制できるから、他国に対しても同じノリを求めてしまったのかも知れない。しかし、まがりなりにも「言論の自由」というモノが存在する国に対して公然と干渉するのは、もう無茶苦茶。

おそらく、風刺画騒動についても同様に、抗議した側にとっては「謝罪を求めれば、相手はあっさり引っ込む」という認識があったのではないだろうか。しかし、それが受け入れられなかった。なるほど、当事者から抗議されるたびにいちいち引っ込めていたら、ジャーナリズムとしての使命は果たせない。
(現代のマスコミがどれだけジャーナリズムとしての本分を果たしているか、というのは別の問題。しかし、その件は本題から外れるので措いておく)

言論の自由というのは、「書きたい側」と「書かせたくない側」と「節度」と「公序良俗」の間の微妙なバランスで成り立っている。ところが、抗議した側にとってはそれが理解できずに「理不尽だ」と映り、ますます燃料を投下する結果になってしまったのではないか。日本のマスコミに苛立ちを隠さない、中国共産党と似たようなもの。


ただ、なんにしても今回の一件に対する反応は度が過ぎている。「侮辱するな」と抗議するぐらいはいい。それは風刺画を描くのと同様に、認められて然るべき権利だと思うから。でも、抗議のために暴力沙汰に出るのは明らかに間違っている。風刺画が気に入らなければ、風刺画でやり返せばよかろうに。

抗議運動の仕掛人となった団体の関係者は、「暴力行為を煽ったつもりはない」と弁明していると報じられている。それなら、せめて暴力行為を鎮静化させるように呼びかけるのが筋だと思うが、弁明するだけで鎮静化の呼びかけには至っていない。となれば、それは暴力行為を黙認しているといわれても仕方ない。未必の故意というべきか。

似たような話は以前にもあり、確か風刺画ではなくて小説か何かだったと思うが、作家の命が狙われる騒ぎがあった。今回の件と同様、前回も先頭に立って煽ったのはイランだったと記憶している。

ちなみに、デンマーク大使館が閉鎖される事態になったシリアは、レバノンで暗殺事件をやらかした嫌疑がかけられているほか、生物化学兵器の開発疑惑、そして国境を接しているイラクの武装勢力への関与が取り沙汰されている。一方、デンマークと通商を停止するとかなんとか暴れているイランは、核開発疑惑で IAEA に喧嘩を売っている最中。

しかもこの両国、以下のようにいろいろと、アブナイ約束をしている仲だ。(ソースは JDW 2005/12/21 号)

シリア→イランの約束

  • 何かヤバい事態になったときに、イランの兵器やその他の重要物資、汚染物質などをシリア国内で保管する
  • Lebanese Hizbullah に対する武器・弾薬・通信機材の支援を継続する
イラン→シリアの約束
  • シリアが西側諸国から経済制裁を受ける事態になったときに、シリアの石油関連施設や工業施設に対する支援を実施する
  • シリアが海外と商取引を行えなくなった場合に、イランがヨーロッパや極東地域に持つネットワークを利用して代行取引を実施する
  • シリア軍兵士の訓練実施
  • 通常の武器弾薬に加えて、大量破壊兵器に関する装備・技術を引き渡す
  • シリアで軍事的衝突が発生したときにイラン軍を投入する

そんな状況下に降って湧いたような暴力的抗議活動。これらは偶然の一致だろうか ?


今回の一件、単に「風刺画に対してイスラム教徒が抗議している」というよりも、そのことをわざわざ煽って政治的に利用している勢力がいる、と受け止める方が、実態に即しているのではないかと思える。関連するさまざまな動きが、まったく無関係なものとは考えにくい。話ができすぎている。

もちろん、発端となった風刺画の作成と掲載からしてイランやシリアの差し金だったという、いわば「自作自演」というか「マッチポンプ」というか、そういう認識は穿ちすぎだと思う。おそらく、風刺画の一件が出たときに「好都合是絶好機」とばかりに利用しようとした、というのが実情に近いのではないか。

もっとも、世界を敵に回している両国が、降って湧いたような風刺画の一件に対してダボハゼのように食いついたあたり、そのセンスは大したものだと思うけれど。念を押すけれど、もちろんこれは皮肉。

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