Opinion : 男性向けデザイン vs 女性向けデザイン (2006/2/20)
 

外出して、電車に乗る度に微妙な違和感を覚えているのが、最近になってあちこちの電車に貼られるようになった「女性専用車」のステッカー。以下の写真は京王線のものだけれど、どこでも基本的なテイストは似ている。

女性専用車ステッカー@京王8000

この京王線に限らず、どこの鉄道会社も判で押したようにピンク、あるいは赤系統の文字を主体にした配色で、さらに花のイラストをあしらっている場合が多い。確かに「女性専用車でござい」という雰囲気は伝わってくるけれど、いかにも「オンナ」を強調する雰囲気を押し出し過ぎているところに、微妙な違和感を感じる。

その昔、国鉄が中央線で走らせていた「婦人子供専用車」の場合、単に字だけ書いたサボを窓に吊していた。それと比べると、いささかデコレーション過剰というか、過剰演出というか、そんな印象を受ける。

これに乗り込む女性客の皆さん、このステッカーにどういう印象を持っているんだろうか。当事者が気にしていなければ、私ごときが外野から文句いう筋合いではないのかも知れないけれど。


こういうテイストは、なにも電車に貼られるステッカーに限らず、いろいろな場面で見られる。

たとえばスキー板にはレディスモデルと呼ばれるカテゴリーがあるけれど、これがまた判で押したように、色が明るめのパステルカラー主体で、文字のフォントも丸っこくして (メーカーによっては、社名ロゴのフォントまで変えている)、そこに花柄か何かをあしらうのがよくあるパターン。

昔は、自動車業界にも「女性仕様車」というのがあった。たいてい、廉価版のグレードにちょっと特別装備を施して、内装を明るめにして、それっぽいグレード名をつける。笑えるのは、どこでもたいていバニティミラー、つまり運転席側サンバイザーの裏にミラーをつけていたこと。クルマの中でわざわざ。サンバイザー裏のミラーを使ってお化粧を直す人もいないと思うんだけれど (笑)

この「女性仕様車」という奴、私が中学・高校生の頃は多くの車種に設定されていたけれど、いつの間にか廃れた。最近では「伊東美咲プロデュースの、ピンクのデミオ」あたりが唯一の例外で、あとはとんと見かけない。と思ったら、三菱コルトで何かやってたこともあったか。

PC 業界も例外ではない。いまさらこんなことを蒸し返したら東芝の人が怒るかも知れないけれど、初代 Dynabook (1989 年に登場した J-3100SS の方) に、途中から白いモデルが登場したことがある。オリジナルはグレーの匡体で鈴木亜久里が広告に出ていたけれど、白いモデルの方はカタログを見るだけで、もう想定顧客層がまるわかり。

「白いダイナブック」のカタログ

そういえば、ブロードバンドルータや ISDN ダイヤルアップルータも、明るい色を多用した、丸っこいデザインの匡体が多くなっている。これも、女性ユーザーの増加を意識して「それなら、こういうデザイン テイストの方が」ということでやっちゃったのだろうか。
たとえば、以下の写真。同じ NEC 製品だけれど、右は数年前の ADSL モデム、左は去年買った無線ルータ。

同じ NEC のネットワーク製品なのに


おそらく、商品を企画する、あるいはデザインする側に、意図的なのか無意識なのか、「男性向けならこういうテイスト、女性向けならこういうテイスト」という刷り込みがあるのだと思う。それは、形だけでなくカラーリングやネーミングにも現れる。

最近はどうだか知らないけれど、私が小学生の頃は、ランドセルの色からして「男の子は黒、女の子は紺か赤」と決まっていた。これに始まり、学校生活を通じてさまざまな部分で、性別による色の使い分けが登場していたものだ。だから、知らず知らずのうちに刷り込みが発生していても不思議はない。

かつては、「男のくせに赤い服なんか着るな」といわれた時代すらあった。でも、よくよく考えると、そういう物言いがつくのは前提になる刷り込みがあるからで、それがなければ何色だろうと関係ない。
といっても、(赤ならともかく) さすがにピンクは遠慮したいところではある。といっても、それは性差がどうこうとかいう理由ではなくて、どう見ても似合いそうにないと思うから。

そういえば、うちで使っているスキー板も (SALOMON DEMO 9 3V '05)、スキーブーツも (REXXAM F-97 '06)、スキーウェアも、みんな赤、あるいは赤系統のカラーリングになっている。でも、そのことで誰かに何かいわれたことは一度もない。赤い色のマテリアルを使っていても、思想的には赤くない (それは別の問題だ…笑)

ついでに書くと、携帯電話については珍しく例外が発生していて「女子高生みたいだ」といわれたことがある。

逆に、男性が好むデザインは角張っててメカメカしくて、色は黒とかシルバーとか… そんな刷り込みもある。ノート PC や AV 製品なんかを見ていると、そんな印象を受けてしまう。アルテッツァのインパネも、そんな感じではある。

では、いかにも「男の道具」というイメージがある銃器は角張っててメカメカしいものばかりかというと、ステアー AUG みたいに丸っこいデザインのものもあったりする。といっても、これを引き合いに出すのは極端過ぎるかも。


多分、男性側が「女性向けデザインとはこういうものだ」と思っているもの、あるいはその逆についても、勝手にそう思っているだけで実際は大外し、ということが少なくないように思える。特に前者。

念を押しておきたいのは、何も性差そのものを否定しようというわけではない、ということ。単に、性別に基づく先入観に立脚して商品企画やデザインを決めるのはどうなの ? といってみたかっただけ。巷でいわれるジェンダーフリー教育ほど馬鹿げたものはない。

性差の存在を否定することはできない。単に性別による差別がイカンというだけの話。差別といっても給料や昇進の話だけではなくて、こういう無意識のうちの刷り込みだって含まれるんじゃないの ? と思ってみた。

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