Opinion : PSE 騒動をめぐる雑感 (2006/3/27)
 

電気用品安全法 (通称 PSE 法) をめぐるゴタゴタが、ますます収拾のつかない状況になっている。

そもそもこれは、家電製品などの安全確保を目的とする「電気用品安全法」という法律があり、2001 年 4 月に施行されたもの。国の安全基準に適合している製品に、そのことを示すマーク、つまり「PSE マーク」をつけることになっている。また、PSE マークが付いていない製品の販売は禁止することになっている。

ただし、品目ごとに猶予期間が設定されていて、モノによって 5・7・10 年のいずれかとなっている。そのうち最初の猶予期間が、この 3/31 で切れることになった。これが騒動の発端。


問題は、昨年 11 月と伝えられるタイミングで、経済産業省がいきなり「中古品も PSE マークがないと販売禁止」といいだしたこと。

なにも、家電製品の中古品流通なんていうのはここ数年の話ではなくて、ずっと前から行われている。だから、立法段階で中古品の取り扱いを明確にしておかなかったこと、土壇場になって中古品も対象に含めるといいだしたこと、それらも含めて電気用品安全法 (および PSE マークのこと) に関する周知徹底を怠ってきたことが、ここまで騒ぎを大きくした。

そもそも、法律には一般に「不遡及の原則」というものがある上に、法律が施行される前にできた製品まで規制の網をかぶせるのは現実的ではない。現に拙宅にも、電気用品安全法が施行される前に製造された家電製品なんていくつもある。だから、土壇場になって「中古品も対象にする」とやった経済産業省に、騒動の根本的責任がある。

しかも、禁止しているのは「販売」だけで、「レンタル」や「個人間の譲渡」は規制の対象外。なるほど、現実問題として規制しようと思ってもできない相談だけれども、それならそれで、販売だけを禁じることで、経済産業省が掲げた大義名分「ユーザーの安全」が確保できるものだろうか。

すごく単純に考えると、経済産業省の言い分は「PSE マークがない家電製品を今後も使い続けるのは危険だ」といっているように聞こえる。それなら、販売だけでなく譲渡もレンタルも、いや、利用そのものを禁止しなければ辻褄が合わない。古い家電製品が、値札を付けて売られた途端に危険な製品にバケラッタするわけではないのだから。そうでなければ、逆に販売だけを禁止することの説明がつかない。


さらに問題なのは、このことが問題化して経済産業省に非難が集中、坂本教授のような著名人がメディアを巻き込んで声を上げたり、経済産業省の人の blog がこの件で炎上したりする騒ぎになった途端に、いきなり「楽器のビンテージ品は OK」といいだしたこと。何をもって「ビンテージ品」とするのかという基準を明確にしていないことも問題なら、物言いがついた特定の品目だけ、"火消し" のために急場しのぎの例外を発生させたことも、また問題。

それでも火の手が収まらなかったものだから、とうとう「レンタルということにして、実質的に中古販売も認める」という話になってしまった。ついこの間まで「消費者の安全が第一だから、いまさら電気用品安全法は変えない。販売も禁止だ」と強硬だったのに、この変節ぶりには呆れる。じゃあ、「消費者の安全」という大義名分はどこに行ったのかと。

そもそも、法律の当事者官庁が自ら先頭に立って、法律の抜け穴、脱法行為を指南するなんて聞いたことがない。いろいろ言い訳しているものの、当事者が解釈変更によるテキトーな便法をこしらえてしまったことに変わりはない。そんないい加減な話があるかと。
しかもまた、この脱法的抜け穴には「当面の措置」というあやふやな文言が入っている。具体的な期限を明示しなければ、またぞろ霞ヶ関が大好きな「解釈の変更」で、ひともめありそうな気がする。

この件で、中古品販売業者らが開いた集会に出席して、周知不足などによる混乱を謝罪したのは、経済産業省で消費経済政策課長を務める福田秀敬氏だそうだ。
なんか聞き覚えがある名前だと思ったら、3 年ばかり前に「情報家電は TRON か Linux にしてくれないか」とやった、当時の商務情報政策局・情報通信機器課長と同一人物だろうか ?


何か新しい制度を作るために法律をこしらえたものの、後になってスッタモンダが発生したという点では、例のストックオプション課税の騒動に共通するものがある。

すでにストックオプションという制度を先行導入している外資系企業があり、そこで「一時所得」として取り扱っている話に誰も気付かず (?)、とりあえず商法改正による制度導入を急いでしまった。でもって、外資系企業の先例があるのを知ってか知らずか、日本企業が導入したストックオプションについては「給与所得課税する」とやったものだから、それをすでに長いこと「一時所得課税」している外資系企業にも強行適用して、前代未聞の騒動になった。

しかもこの件、国税庁は「一時所得にしろなどと指導したことはありません」と大嘘をつき、さらに後出しで「給与所得にしないと、すでに給与所得として申告した人との間で不平等が生じる」といいだした。そういえば、PSE 法でも同様に、経済産業省が「不平等が生じる」という理屈を振りかざしている。同じムラの住人がやることだけに、振りかざす大義名分も似ている。

実際のところ、どっちにしてもお役人のメンツを大事にしている、という印象がつきまとう傾向は否めない。「役所がやることに間違いはない」という前提で動くから、なかなか間違いや不手際を認めないし、それを指摘されても、懲りずにあの手この手で強行突破しようとする。


そもそも、法律というのは立法府が策定するもので、それに対して行政府が自分の解釈をテキトーにくっつけて運用を壟断していることに問題がある。税務の世界では、国税庁が出す「通達」が法律のごとき強制力を発揮して万事を動かしているし、今回の件でも「中古品を含める」あるいは「レンタルということにして認める」といいだしたのは行政府たる経済産業省。法律を審議・成立させた国会の立場はどうなる。

いってみれば、法律の運用に際して行政府が立法府をオーバーライドする状況が日常化しているということを、今回の騒動で再確認したといったら言い過ぎか。実は、このことが根源的な問題ではないかと考える。その背景にあるのは、自分たちが何でも仕切っていると思っている行政府の傲慢と、それを抑えられない立法府の力不足ではないのか。

しかも、今回の PSE 騒動では「利害関係者が声を上げて騒ぎを大きくすれば、話を変えられる」という最悪の前例を作ってしまった。裏を返せば、声を上げて騒ぎを大きくすることができなければ、役所にどんな無茶な解釈をされても泣き寝入りということになる。こんな状況では「三権分立」も「法の下の平等」もあったもんじゃない。

今回の件で分かったのは、経済産業省という役所はいろいろと立派なことをいっていても、騒動になって自分の立場が危うくなるとコロッと変節してしまうということ。この役所 (に限らないかも知れんけど) にとって最も大事なのは「省益」と「メンツ」であり、消費者の安全なんぞは口先だけということではないのか。「消費者の安全のためにマークなし製品の販売禁止は譲らず」というなら、最後まで初志貫徹してみればいいものを。

それすらも覚束ない、「力任せに押すと、どっちにでも向きを変えてしまう」経済産業省には、「便所のドア」という綽名を進呈したい。これ、元々は杉山元陸軍大将の綽名だが、そちらの理由も同じで「どちらでも、押した方向に動く」。


余談 :
実は、最初は「経済産業省は便所のドア」というタイトルを付けていたのだけれど、さすがに乱暴すぎるかと思い、穏健にタイトル変更。でも、最後に書いてしまっているから同じこと ?

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