Opinion : 新交通システムという鬼っ子 (2006/4/17)
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臨海副都心 (死語 ?) の足「ゆりかもめ」が事故を起こして、何日も営業できない状況になってしまった。確か、車輪が脱落したとかいう話だったと思うが、正直な話「あり得ない」と思ってしまった。しかし現実に発生している。
個人的には、いわゆる新交通システムという奴は「見栄の交通機関」だと思っている。モノレールにも同じことがいえるが、普通の鉄道や、ましてや路面電車あたりと比較すると「未来的」なイメージがつきまとう。実際、コンピュータ仕掛けで無人運転をしているし、駅のたたずまいにしても何にしても、派手さがある。政治家受けもしやすいのではなかろうか (こらこら余計なことを)。
ただ、実際に利用する立場からすると、どうだろう。システムが独特だから既存路線との相互乗り入れは不可能だし、道路上の空間を利用して設置している事例が多く、しかも駅施設とホームを上下に積み重ねているから、ホームの位置がやたらと高い。バリアフリーの見地からみても、あまり好ましい状況とはいえない。
それに、ゴムタイヤ式だから操向装置が必要になり、足回りの構造は必然的に複雑になる。それに付き合って、転轍機の構造もなんだかややこしい。無人運転を実現するために、信号などの保安装置、それと通信系もいろいろ必要になるので、地上設備は意外とややこしい。なんだか、降雪地帯では使いにくそうだ。
しかも、動力源を供給するための第三軌条が必要で、それが線路脇に露出 (しかも三相交流だから 3 本も !) している。トラブルがあって止まってしまったとしても、迂闊に線路に乗客を降ろすことができない。なにせ道路上の高架だけに、線路脇の通路に誘導しても、その先が問題になる。
千葉県のユーカリが丘ニュータウン (なんつぅネーミングじゃ) で走っている新交通システムは日本車輌が開発した VONA システムを使用していて、これは線路 (?) 構造の中に第三軌条が隠蔽されている。ただし、VONA の導入事例はここだけ。
追記 (2006/4/18)
訂正。VONA の導入事例は、山万ユーカリが丘線と桃花台新交通の 2 ヶ所。ただし後者は廃線が決まっているので、その後は前者のみとなる。
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と、ケチをつけ始めるといろいろ出てくるので、勢い余って「鬼っ子」なんて言葉をタイトルに入れてしまった。では、何か適当な代替があるのかというと、存在していそうで、実は存在しないように思えるからタチが悪い。
バリアフリーの見地からすると、バスや路面電車が最強になる。ただし、バスだとキャパシティや定時性の問題があるし、路面電車が地平を走れば道路側から苦情が出る。せめて幹線道路だけでも、上げたり下げたりして避けてもらえればいいが。
かといって、ヨーロッパにあるような「路下電車」、あるいはガイドウェイバスの類では、利用の際にアップダウンが必要という点で、新交通システムと大差なくなってしまう。
もともと、新交通システムは「中量輸送システム」なんて呼ばれ方をしていて、既存の鉄道とバスの中間ぐらいの輸送力を想定していたと記憶している。実際、たいていの新交通システムは小ぶりなハコを 4-6 両ほど連結しているから、バスだと何両もダンゴ運転しなければならないし、通常の鉄道だとオーバーキャパシティになってしまう。路面電車でも、現行の規定だと編成長が短めに抑えられているから、新交通システムよりはキャパ不足になると思われる。
(裏を返せば、新交通システムが 2-3 両で走っている程度なら、実はバスで済むのかもしれない。道路事情にもよるけれど)
反面、もともとのキャパシティが小さめで、さらに定員オーバーの許容度が低いことから、極端な波動には強くないと想像できる。25 年前に神戸新交通のポートライナーが開業したとき、たくさんの乗客が詰めかけて定員オーバーになったせいでなかなか発車できず、ダイヤが乱れて不満タラタラになったことを御存知の方も少なくないと思う。
「ゆりかもめ」にしても、中止にならなければ臨海副都心で世界都市博が開催されていたハズだから、まかり間違って見物人がたくさん訪れれば (こらこら)、同じことになったかも知れない。
ゴムタイヤ式ゆえのメリットとして、急勾配に強い点がある。普通の鉄車輪式では許容されないような急勾配でも、ゴムタイヤ式なら突破できる。だから、道路上の空間を利用して架設しても、道路の勾配にお付き合いできる。そのことは、実際にどこかの新交通システムやモノレールを利用してみると、よく理解できる。
もっとも、モノレールにはひとつだけ例外があって、小田急がかつて走らせていた向ヶ丘遊園行きのモノレール。あれは鉄車輪と鉄のレールを一組だけ使うロッキード式で、乗り心地もなんだかゴツゴツしていた。車輌は確か川崎重工の岐阜工場製で、そのデザインも飛行機みたいだった。
しかし、日本では小田急以外の導入事例はなかった。ロッキードという会社にとって、民需はいずこも鬼門なんだろうか。おっと、閑話休題。
追記 (2006/4/28)
ロッキード式の導入事例として、小田急以外に姫路駅と手柄山中央公園を結ぶ路線が存在したという指摘をいただいた。こちらの営業期間は、1966/5/17〜1974/4/11 と短い。
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ゴムタイヤ式というと、札幌の地下鉄もある。確かあれは川崎重工が開発した「S.S.TRAM」というシステムだったと思うが、車輌や施設の規模は通常の鉄道並みなので、新交通システムと比較するとキャパが大きい。当然、カネもかかるから、それなりの輸送需要がないと維持できない。基本的には通常の鉄道と同じ、ただし急勾配に強くて加減速が強烈、という程度の差か。
そんなこんなで、新交通システムと同等の能力や特徴を備えた代替手段は、意外と存在しないものだと思った。
じゃあ、今の新交通システムはすべて必然性があって導入されたのかというと、そうともいいきれない。見栄だとか補助金だとか、横丁の事情が決定的要因になったとしても不思議はなさそうだ。どの兵器を採用するか決めるのに、現物よりもオフセットの内容を基準にする国のことを笑えない。
だからこそ、愛知県の桃花台新交通は経営を維持できなくなって、廃止が決まってしまったんじゃないかと。そんな事例が出てきてみると、「ひょっとして、本筋でない要素が交通手段の選択に介在してなかった ?」と疑ってしまう。さらに、それに根拠をつけるために、激しく過大な需要見積もりを行っていたのではないかと。
現時点で建設中の新交通システムというと、日暮里と足立区の舎人を結ぶ路線がある。これがまた中途半端なところを起点にしているから、造ってみたら意外と需要がなくて困った、なんてことにならないといいのだけれど。
最近だと、あちこちで LRT が話題になっていて、具体的な導入構想をブチ上げているところもある。ただ、LRT が最適だから LRT なのか、LRT がトレンドだから LRT なのかは、中の人にしか分からない。いろいろな選択肢を検討する振りをしていても、実は最初から本命は決まっていて、それ以外は最初から当て馬だったとしても不思議はなさそうだ。
とどのつまり、新幹線でも新交通システムでも LRT でも何でも、交通手段というのは大多数の利用者にとって、メカニズムや能書きなんてどうでもいい話。しかるべき需要があって、スピードや運転間隔、運賃、定時性といった要素が妥当であれば利用するし、そうでなければ足が遠のくというだけのこと。
だから、流行りだとか見栄だとかで交通手段を選択しないでもらいたいものだと思う。そういう意味では、むやみにハイテク化に走らず、地に足のついた運用をやっているように見えるユーカリが丘 VONA は、ひとつの参考になるかも知れない。
もっともあれは、不動産のデベロッパーがニュータウンとセットでこしらえたものだから、退くに退けないのかも知れないけれど。
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