Opinion : テポドンの話と M4 カービンの話 (2006/6/19)
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本当はシンドラー社の一件に絡めて、外資系企業についてつらつらと書こうと思っていたのだけれど、最近になって世情を騒然とさせている (?) 話題を先に。
というわけで、お題は「テポドン」と「M4 カービン」。
ここ数日、ログ解析していると「テポドン」というキーワードでお越しになる方が急増している。いまさらテポドンの何を調べるんだという気もするが、これが一般的な世間の反応かも知れない。北朝鮮は前回と同様、「衛星の打ち上げだ」と言い張るつもりらしいが、前回同様、電波を出しているのは衛星というより北朝鮮そのものというのが実情 (それはデムパという)。
だいたい、テポドンを打ち上げるかも知れないという話が出ただけで右往左往する方がどうかしている。冷静に考えて欲しい (天声人語風に)。たかだか弾頭重量 1t 足らずのミサイルが着弾したところで、どの程度の範囲を破壊できるだろうか。
ナチス・ドイツが第二次世界大戦の末期に「報復兵器 2 号」、つまり V2 号ロケットをロンドンめがけて撃ち込んだが、あれも弾頭重量は 1t。それを何百発か撃ち込んだところで、聯合軍の戦争遂行には何の影響も及ぼさなかった。
イラン・イラク戦争では、イランとイラクの双方が、スカッドに手を加えた弾道ミサイルを相手国の首都に撃ち込み合った。それで戦局が何か動いただろうか ? 「相手国の首都にミサイルを撃ち込んだ」という宣伝効果以上の実質的効果は皆無に近い。
市街地にミサイルが突っ込んで 1t の弾頭が爆発したところで、せいぜい数ブロック程度の範囲を破壊する程度の効果しかない。もちろん、そこにいた人にとっては不幸以外の何者でもないが、それだけが国が崩壊するというものでもない。大地震や大火が発生する方が、よほど大きな被害が出る。
1945 年 3 月 10 日の東京大空襲では、今よりずっと燃えやすい建物が集合した東京の下町、それも隅田川から江戸川にかけての地域だけを焼き払うのに、300 機を超える B-29 が 1,665t の焼夷弾をばらまいた。焼夷弾と高性能炸薬弾の重量を直接的に比較することに大した意味はないが、ひとつの都市を破壊するには膨大な量の投弾を必要とする、ということの傍証ぐらいにはなる。それに、今の都市は当時よりずっと燃えにくくなっていることも考慮する必要がある。
まして、山間部や田舎に着弾すれば、何か重要施設にまぐれ当たりしない限り、でかい穴をひとつ掘る程度の効果しかあがらない。しかも、テポドンの CEP (半数命中界) がそんなに優れているという話は聞かない。最高精度の命中率を誇るトライデント D5 ですら、CEP は 90m もあるのだ。
だから、テポドンの 1 発や 2 発であたふたしてしまい、mixi 日記なんかで「怖〜い」などと書く方がどうかしている。マクロ的に見た場合、弾道ミサイルが厄介な存在になるのは、NBC 兵器と組み合わせた場合のみ。イランの核開発計画に対して諸国が神経を尖らせている理由も、そこにある。(それとて、1 発で国が壊滅するというほどのものではない)
そもそも、日本にテポドンが撃ち込まれて自分がいるところに命中する確率と、自分が交通事故に遭って命を落とす確率を比較したら、後者の方が間違いなく可能性が高いのではないか ?
それから、「日本に自衛隊や米軍基地があるからテポドンを撃ち込まれるのだ」と吹かす人が出てくると思うので念のために書いておくと、北朝鮮から見た場合に、東方 (日本がある方向) 以外に撃てる場所がないのは紛れもない事実。衛星打ち上げだろうが弾道ミサイルだろうが、何かが経路上に落っこちてくる可能性を考えると、数少ない味方である中国やロシアの方に向けて撃つのは自殺行為なのだから。
とどのつまり、日本に米軍基地があろうがなかろうが、北朝鮮が弾道ミサイルを開発している限り、こっちの方向に向けて飛ばすしかない。それに、日本を通り越した先は太平洋だから、付随的被害も出にくいことだし。
だいたい、アメリカの核兵器やミサイル防衛構想やその他の兵器に対してブーブー文句をいう人が、中国や北朝鮮やロシアが相手になると貝になってしまうのは、まったく滑稽というしかない。ロシア海軍の "核搭載可能艦" が来日しても抗議デモなんてやらないし、インドやパキスタンが核実験をやったときだって、抗議活動はあって無きがごとし。いい加減なもんだ。
今からでも遅くないから、インドやパキスタンやイランの関係部門に対して、抗議の電話や FAX を送るように焚きつけてみたら ? > 電話・メール・FAX 攻撃を焚きつけるのが大好きな誰かさん
「いい加減なもんだ」という話を、もうひとつ。
イラクで、米海兵隊が「民間人を虐殺した」という疑惑が持ち上がっている。そもそもテロリストが民間人の中に紛れ込んで活動している上に、正規の軍人と違って軍服を着ているわけでもないのだから、テロリストだって広義の民間人だろう… という解釈はともかく。
その「虐殺」の証拠として、死亡した人の体内から「M4 カービンの弾が見つかった。至近距離から撃たれたに違いない」というニュースがあったので爆笑した。
M4 カービンの弾って何 ? 米軍制式の M855 のこと ? それは元をたどるとベルギーの FN Herstal 社が開発した SS109 弾 (5.56mm×45) で、西側標準の 5.56mm 自動小銃を使っているところなら、どこにでも存在する弾。米海兵隊に限らず NATO 諸国ならどこでも使っているし、日本でも同規格の弾を使っている。それだけでどうして「米海兵隊の M4 カービン」と断言できるのか。
ついでに書けば、このあいだの爆撃で死亡したイラク・アルカイダの親玉 Zarqawi が、MINIMI 機関銃を撃とうとして四苦八苦しているお笑いビデオが公表されたことがある。この MINIMI 機関銃が使っている弾だって、同じ SS109/M855。つまり、イラクで活動している武装勢力もまた、米海兵隊と同規格の弾を使っていることになる。それなのに、どうして弾を見ただけで出所の区別がつくのだろうか。
さらに書くと、ロシアにもほぼ同サイズの弾がある。AK-74 と一緒に導入された 5.45mm×39 ラッシャン。薬莢の長さが 45mm vs 39mm とかなり違うが、撃った後の弾には薬莢は付いていない。写真を並べて比較してみると、5.56mm×45 NATO よりも 5.45mm×39 ラッシャンの方が少しとんがった形をしているが、単体で見たら区別なんてつかないだろう。
「5.56mm×45」のうち、「5.56mm」は弾の外径。「45」は薬莢の長さで、単位は mm。その後ろに「R」が付くと起縁型で、後端部のリムが薬莢の外径より大きい。何もなければ、リムの外径は薬莢の外径と同じ。
口径さえ同じならどの銃でも撃てるわけではなくて、それぞれ互換性の有無がある。これは大砲の砲弾でも同じ。
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第一、初速 900m/sec を超える小口径高速弾を至近距離から撃ったら、何の防弾装備も身につけていなければ十中八九、弾は身体を通り抜けて反対側に出て行ってしまう。しかも、開発元である FN Herstal 社の Web サイトに書いてあるから秘密でも何でもないが、SS109/M855 はスチールの弾芯を入れて貫通力を上げてある。つまり、鉛の弾芯だけで構成されている弾よりもすっぽ抜けやすい。
「ブラックホーク・ダウン」の下巻に出てくる話だが、デルタ・フォースのハウ軍曹は「グリーンチップ弾 (5.56mm NATO の実弾) で撃ってもすっぽ抜けてしまい、敵を倒したかどうか分からない」と悪態をついている。いくらか離れた場所から撃ってもそうなのだから、至近距離から撃てばなおのこと。
もしも、至近距離から撃ったのに弾が体内に残っていたのだとしたら、それはボディ・アーマーか何かを身につけていた可能性が高い。無辜の民間人が、弾が飛び交うような場所でボディ・アーマーを身につけて、いったい何をやっていたんだろうか ? ということになる。
もちろん、実際に海兵隊が民間人を射殺してしまった可能性もある。本物の敵と民間人の区別が難しい状況下では、そのつもりが無くても殺してしまう可能性だってある。ただ、そのことの "証拠" として「M4 カービンの弾」を持ち出すのは、根拠薄弱にも程があるというもの。
少し前に騒ぎになって、あっという間に鎮静化してしまった白燐弾騒ぎと同様、米軍のやることなら何でも悪だという先入観を持って物事を見るから、こういうダマカシにひっかかる。テポドンであたふたするのもそうだけれど、こんな調子では、ちょっとした威嚇やプロパガンダにも簡単にひっかかってしまう人が多発しそうだ。
M4 の一件については「調査待ち」だからこれ以上の言及は差し控えるとして。
テポドンについては、私が以前に書いたように、民心をあたふたさせることにこそ最大の効果があるテロ兵器と定義できる。そんなものでいちいち騒ぎ、パニックを起こしてしまうヒマがあったら、普段通りに暮らして歌舞音曲に励む方がいいのではないかと思う。その方が、北朝鮮に与えるダメージも大きいし。冒頭で書いたように、(NBC 兵器が使われない限りは) テポドン 1 発で国が滅びるわけではないのだから。
「テポドンが飛んでくるかも」→「日本に米軍基地なんかあるからだ」という思考にいってしまうのは、それこそ北朝鮮やその他の国に関連する第五列の思う壺。そんな考えを真に受けてしまったら、却って日本の安全が危うくなる。日本政府や自衛隊、米軍がちゃんと情報収集して、必要なら国際社会に持ち出して然るべき対応をとれば、それでいいのだ。
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