Opinion : 外資系企業経験者の馬鹿話 (2006/7/3)
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過去 2 回続けてテポドンに絡めて書いたけれど、相変わらず発射していない。もうかなりの時間が経過しているから、そろそろ燃料系統が逝っちゃってるような気もする。
ひょっとするとミサイルも燃料トラックもハリボテ、単に恫喝のために引っ張り出しただけ、という可能性もあるんだろうかと思ってしまった。そうしたら、それはそれで「ハリー・ボッテー 金王朝の火遊び」とでもタイトルを付けて、小説のネタにできるかもしれない (できないできない)。
とりあえずテポドン関連のネタは措いておいて、今週は外資系企業に関する与太話。
自分がマイクロソフト株式会社にいたのは、1992-1999 年の 7 年間。はっきりいってしまえば不良社員だったと思うけれど、それでも「マイクロソフト式」というか「外資式」というか、とにかくいろいろな意味で影響を受けている。
たとえば、半年ごとに上司と一対一の業績評価をやって絞られる、という生活をしていたけれど、そんな生活をしていると、仕事の多寡や出来・不出来で収入が上がったり下がったりするフリーの生活は、特になんとも思わない。
人によっては、毎月決まった金額が入ってこないと不安、ということもありそうだけれど、フリーで商売していると、それは不可能な話。MSKK 時代に、そんな生活に馴染む下地が出来ていたのは確か。極端な話、ひとつの仕事が終わる度に業績評価をやっているようなものだし。
あと、仕事の進め方 (タスクの捌き方) であるとか、リスク管理であるとか、「とりあえず考えていることを全部ぶちまけ合ってから落としどころを探る」やり方であるとか、力業や火事場の馬鹿力よりもシステマティックに解決するよう心がけるやり方であるとか、いろいろと例を挙げ始めていくとキリがない。
そういえば、「出来ないことは出来ないという」(安請け合い厳禁) であるとか、「まずいことになったら、とっとと報告して解決策を探る」(もっとも、幸いにして「まずいこと」は滅多に発生しない) といったやり方も、どちらかというと外資の流儀に影響された部分が大きいかも。
もっとも、格好のいい話ばかりではなくて、妙な習性もいろいろ身に付いてしまった。毎日のようにコーヒーをガボガボ飲むぐらいならまだいい。極めつけが、やたらと横文字混じりになってしまうところ。電子メールを書いているときでも、あるいは普通に喋っているときでも、なぜか文面に英単語が入り込んでくることが多い。
たとえば、「この項目については alternate を模索してみますが、うまくいかなければ drop ということにします」なんてぐらいは序の口。意外とこういうのって「意識的に repro*1 してみろ」といわれると難しいけれど、実際には日常的に英単語混じりの変な日本語を使ってしまっている。
それも、一般的にカタカナで表記するのが default な単語ならまだしも、普通に日本語で表記すればいいものを、わざわざ英語に translate してしまうこともしばしば。外資で暮らしていると横文字の資料やメールは当たり前の存在で、そんな状況に適応しようとすると、平素から頭の中が「English mode」になってしまう。その結果、日常会話にも影響してしまうということか。それを意識的にではなく、naturally にやってしまうところが問題。
IT 業界では常用語と化している default ぐらいなら誰も surprise しないし、その程度の problem であれば low priority (really ?)。
「あの製品はもう discon*2 だから」
「○○は not available だから」
「いや、それをやっちゃうと consistency を保てないので…」
「△△の issue は fix しました。anyway、そんなに critical な matter じゃないですが…」
「▼▼の作業を launch しました。draft をまとめるのが initial task ですね。できたら submit します」
なんていいだすとヤバい。
こういう issue は ASAP*3 で resolve しないと、周囲の人が目を点にしたり、引いてしまったりするかも。そのうち、「ちゃんと日本語で喋るように」と recommend されちゃうかな… と思いつつ、染みついた習性に resolve の気配なし。oops ! (←これはよく使う)
あと、英単語を日本語に translate しようとしても、just fit するような日本語の単語が not available で、仕方なく英語のままで済ませてしまうのも、よくある話。
その点で凄いと思うのが、固有名詞以外はことごとく translate している Traditional Chinese*4 の Windows。Simplified Chinese*5 でも訳しているのは同じだけれど、字に馴染みがないから判じ物。その点、Traditional Chinese の方が分かりやすい分だけ有利 (?)
そういえば、先の ASAP や a.k.a*6 みたいな acronym を多用する傾向も (ASAP はピリオド抜きで書くのに a.k.a はピリオド入り。 why ?)。
もっとも、ASAP や a.k.a は Microsoft Bookshelf にも出てくるぐらい major な言葉だけれど、「今週の軍事関連ニュース」みたいな military affairs を扱ってると、馴染みの薄い acronym がバンバン出てくる。軍人というのは往々にしてとろくさいことが嫌いで、そうした特性に dedicate すると、短縮した表現が welcome だから。かな ?
そういえば、「兵士を見よ」(杉山隆男著) に、空自のパイロットと話していると「てにをは」以外は全部英語だったりする、というくだりがあった。空自は米空軍の影響が強いそうだし、もともと空の上では英語がスタンダードだからねぇ…
repro = reproduce。バグを報告して "not repro" と返されるのは、テスト担当者にとって最大級の恥 (?)
discon = discontinued。「販売終息済み」などの意味で使う
ASAP = As Soon As Possible。「可及的速やかに」
Traditional Chinese = 台湾版のこと
Simplified Chinese = 中国版のこと。自分の report to にあたる上司が「人民版」と呼んだことがあって爆笑
a.k.a. = also known as。「別名」「別の呼び方だと」といった意味で使う
もっとも、「外資の会話」(きょこ コーリング。ITmedia Alternative blog) を読んだら、上には上がいるもんだと思った。
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馬鹿話はこれぐらいにして、外資でもいいことばかりではない、という話も。
特に難しいのが、「本社」の意向が強く反映されやすいこと。「万事、本社が決めた世界共通の方針で処理する」ともいう。
分かりやすい例が Web サイト。なにも IT 業界に限ったことではなくて、外資系企業の多くは Web サイトのデザインが万国共通。使われている写真やイラストを見て、妙に浮いた感じがすることがあるのは、実は本国と同じものを使っているから、という場合が多いはず。
つまり、日本法人が独断専行して動ける余地が少ない場合もある、ということ (すべてにおいてそうだという意味ではないので、念のため。そういう傾向が目立つ、というぐらいの意味に受け取っていただければ)。
もっとも、これにはそれなりの理由がある。各国現地法人 (subsidiary を略して、sub と呼ぶ) の独断専行を抑えるのは、世界的に統一した内容の製品やサービスを提供するとか、業務プロセスを統一化することで効率を高めるとかいった考え方が背景にあるから。ソフトウェアでも何でも、多国籍企業に worldwide で使ってもらおうと思ったら、特定の国だけ内容が大きく違うのは、教育コストなんかのことを考えると具合が悪いだろう、と外資系は考える。
個人的には、マニュアルでもヘルプでも Web の記事でも、localize と謳う以上は「日本語として見たときにどうか」という視点も忘れるべきではないと思うけれど。
そういう意味では、例のエレベーター屋さん、シンドラーの事故対応ぶりにはちょっと同情する。推測だけれど、日本側で「こういう対応が今すぐ必要です」と上申したのに、本社側が「いや、うちのやり方でいく」と押し切ったんじゃないかと。その結果があの対応で、結果としてマスコミに叩かれる原因を作ってしまったんだろうか、と。
(あくまで推測ですよ、推測)
言葉の問題でも何でも、外国流儀のいいところを取り入れたり参考にしたりする一方で、日本流儀のいいところも忘れないように。そんな柔軟な対応ができれば最善なんだろうけれど、それを実行するのはなかなか難しい。
そんなわけで、面白い話も変な話も難しい話もあるけれど、一生に一度くらい、外資で働いてみるのもいい経験になるかもよ ? ということで、今週はおしまい。
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