Opinion : UAV 体当たりは実用的 ? (2006/7/17)
|
先日、レバノン沖でイスラエル海軍の Sa'ar 5 型コルベットに、ヒズボラ (スペルは Hizbullah と Hezbullah の 2 種類があるが、当サイトでは前者を採用) が攻撃を仕掛けて炎上させる事件があった。
当初の報道では、ヒズボラが UAV を突入させたということだったので「ついに UAV で体当たり攻撃を仕掛ける時代が来たのか」と、ひとしきり盛り上がった様子。さらに、被害を受けたのが Sa'ar 5 型ということで、ネームシップの艦名 Eilat から「エイラート事件」を想起した人も多数。
ちょうど「ロボット兵器」を取り上げる番組を作って UAV を槍玉に挙げたばかりの NHK は、「タイムリーだった」と喜んだかも知れないけれど、そもそも UAV を体当たり突入させることに戦術的意義はあるものだろうか ?
なんていっていたら、「実は UAV じゃなかった」という話が出てきたからややこしい。匿名のイスラエル国防軍関係者の話として、以下のような内容の記事が MSNBC の Web サイトに掲載された。(参考)
イランの革命防衛隊から 100 名ほど、ヒズボラに加勢してミサイル発射を支援した
撃ったのはイラン製の C-102 対艦ミサイル (レーダー誘導)
さらに商船にも被害が発生。エジプトの商船と見られるが詳細は不明
また、USA Today の Web サイトでは、発射されたミサイルは C-802 だということになっている。(参考)
C-102 という対艦ミサイルは聞いたことがないので、イランも保有しているとされる、中国製の C-201、または C-802 かもしれない。ただ、C-201 は全長 7.4m、弾頭重量 500kg と巨大すぎる。C-802 でもハープーンと同クラスだから、Sa'ar 5 すら沈められなかったのは怪しい。信管の調定を間違えたか、もっと小型の C-701 だったのか。
(2006/7/18 に追記)
C-801 あるいは C-802 を、レーダーを作動させながら目立つように突っ込ませて注意を引きつけておき、低空から C-701 を突っ込ませて Sa'ar 5 に命中させた、という話も出ている。命中したのが C-701 だとすると、被害の小ささも納得。(参考)
現実問題として、手に入るものなら UAV より対艦ミサイルの方が効果的なのは確か。なぜなら、飛行物体をぶつけるだけでなく、そこに搭載した弾頭を炸裂させて破壊力を発揮させるのが目的なのだから、弾頭重量が大きい方がいいし、命中させられる確率も高い方がいいに決まっている。
小説の世界ではすでに、J.H.コッブの「シーファイター全艇発進」や「隠密戦隊ファントム・フォース」で、UAV をぶつけて攻撃手段に使う話が出てきている。もっとも、最初からそれを目的にしたのではなくて、アドリブで使っているのだけれど。
確かに理屈の上では、UAV に炸薬を搭載してぶつけることも可能。それに、炸薬を搭載していなくても、燃料を焼夷剤代わりにして火災を起こさせるぐらいの効果は期待できる。
ただ、ぶつけるためには照準手段が要る。特に、今回のように洋上の艦艇が相手では、事前に経路をプログラムして自律飛行するような UAV は使いにくい。GPS で誘導すればいいじゃん ? と考えそうになるけれど、それにはターゲットの緯度・経度を正確な座標で指定する必要があるので、そこがボトルネックになる。
いくらヒズボラでも、そこまでやるのは荷が重いのではないか。陸上の固定目標ならともかく、洋上では何の目印もないのだから。ヒズボラがグリーンベレー並みに、 GPS レシーバー内蔵のレーザー測距儀でも持っていればともかく。
だから、TV カメラを搭載した UAV から送ってくる映像を見ながら、ラジコン操縦でぶつける方が実現しやすい。ただしそうなると、TV カメラと無線装置の重量でペイロードを食われるから、炸薬まで搭載できる余力があるかどうか怪しくなる。つまり、破壊力が限定される。
UAV には炸薬だけ積み込んでおいて、地上から位置関係を見ながらラジコン操縦したら ? という考え方もありそうだけれど、それが通用するのは地上で短距離の場合のみ。洋上の、そこそこ離れた場所にいる艦艇めがけて UAV を突入させるのに、陸上から両方の位置関係を見ながらうまい具合に突っ込ませるなんて、無理がありすぎる。
それに、UAV といえどもレッキとした飛行機に違いはないから、発進させるための道具立てが要る。超小型の UAV なら手で投げて発進させられるけれど、そんな程度の規模では艦艇が相手でも建物が相手でも、破壊力が足りない。ペイロードや破壊力を考慮すると、そこそこ大きい機体が必要になる。ところが、そういう機体は発進させるための道具立ても大掛かりになってしまう。
トラックに載せたカタパルトから撃ち出すぐらいならともかく、まともな滑走路が必要な規模の UAV となると、ヒズボラみたいな武装ゲリラ組織には荷が重い。第一、"民衆の海" に隠れて神出鬼没するのがゲリラ戦の基本なのに、滑走路なんていう不動産を抱え込んだらゲリラ戦がやり辛くて仕方ない。では、カタパルト発進できる程度の小型 UAV ならいいかというと、今度は先に述べたような理由で破壊力が怪しくなる。二律背反。
道路から発進させる手も考えられるものの、アジトから近くて、見つかりにくくて、ターゲットから近くて、数百m 程度の直線区間があって、路面がちゃんとしていて、障害物が散らばったりしていなくて、頭上を電線などの障害物が行き交ったりしていない、そんな都合のいい直線道路がやたらとあるとは思えない。それに、ひとたび手の内を読まれれば、先手を打って道路を破壊される可能性もある。
あと、ラジコン操縦の UAV だと、電波妨害を受ける可能性も考慮する必要がある。電波妨害で UAV 突入を阻止されるだけでなく、電波の発信源を逆探知されて、そこにヘルファイアでも撃ち込まれた日には洒落にならない。
そう考えると、奇抜さという点で一時的な宣伝効果を期待できるものの、UAV による体当たりをテロ攻撃に常用するのは、実は意外と "使えない" 手段ではないかと思える。正規軍なら滑走路を抱えることも可能だけれど、そこまでするなら最初から、対艦ミサイルや対戦車ミサイルを使えばよろし。
自爆テロや自動車爆弾テロみたいに攻撃者がターゲットもろとも自爆するのであれば、「殉教して天国で七十何人だかの美女と一緒に暮らすことができる」と宣伝して、自爆志願者を集めることができる。
でも、UAV をラジコン操縦する志願者を集めるのでは格好がつかないし、UAV を突っ込ませても当人は平気だから「殉教」にもならない。つまり、イスラム過激派武装ゲリラとしては、無人機で攻撃するのはプロパガンダ的にも旨味が乏しそうだ。
そもそも、ああいう土地なら UAV より人命の方が安いから、そっちの方を選択するのではなかろうか ?
|
そんなわけで、最初から自爆突入させるつもりでテロ攻撃の手段として UAV を利用するのは、あまり賢明なやり方とは思えない。よしんば役に立ったとしても、そういう場面は限定的ではないかと思う。当初は話題性があるから取り上げてもらえるかも知れないけれど、そのうち限界を看破されれば実効性は落ちて、スルーされることになるのではないか。
ただし、生物化学兵器を併用する場合は事情が異なる。この手のモノを撒き散らすのであれば、ミサイルや爆弾よりも UAV の方が具合がいい。
あと、緊急避難というか非常手段というか、他に手がないときにとる苦し紛れの策として、UAV をぶつける選択肢は残るかもしれない。
|