Opinion : 思いこみはオソロシイ (2006/9/25)
 

今回が、ホンマの 300 回目。

1 年ちょっと前、「偵察衛星は簡単な道具にあらず」という記事を書いた。単に偵察衛星があればいいというものではなくて、どこを撮影するか、撮影した画像をどう解析するか、という部分のノウハウがキモなので、高解像度のカメラを備えた衛星というハードウェアがあるだけでは大して役に立たないよ、というのが趣旨だった。

そのことを、図らずも実証してしまうような笑い話があった。


五角形の建物だから "Pentagon" と呼ばれている、米国防総省の建物。A リングから E リングまで五重に建物が並んでいるが、A リングの内側は中庭になっている。その中庭のど真ん中に対して、冷戦期にソ聯が少なくとも 2 発以上の核ミサイルで照準を合わせていた、という都市伝説があった。

国防総省の建物に核弾頭装備の ICBM で狙いをつけるだけなら、特に不自然さはない。問題は、その動機。

ソ聯にも当然ながら偵察衛星があるので、その偵察衛星を使って国防総省の写真を撮影していたはず。上から建物の写真を撮影するだけで意味があるのか ?
もちろん、ある。たとえば、駐車場に駐められているクルマの多寡や増減のパターンは、ここに勤務するスタッフの仕事状況を推し量る手がかりになるかもしれない。工事用の車輌が出入りして何かを始めれば、それは何か新しいことを始めるという兆候かもしれない。

そんな調子だから、国防総省の衛星写真から何か読み取れないかと、目を皿のようにして調べていた衛星写真の分析担当者が、ある日妙なことに気がついた。国防総省の中庭には、中心部に小さな建物がひとつ建っているのだが、そこでは毎日のように軍人がゾロゾロと出入りしている。そこでソ聯の衛星写真担当者は推測したらしい。

「ここは、地下に設置されている秘密バンカーへの出入口があるのではないか ? そして、そこで秘密の会議を開いているのではないか ?」

そもそも、国防総省といえば米軍の中枢。頭のいいひったくり犯人なら相手の手足ではなく頭を殴りつけるのと同様、軍事作戦で相手の頭脳を叩き潰すのは必然 (意味が分からない人は「トム・クランシーの戦闘航空団解剖」を読むべし)。そこで、その "秘密バンカー" があるらしい国防総省の中庭に ICBM の照準を定めた、という都市伝説につながった次第。

で。これが問題の建物。


(Photo by DoD)

この "秘密バンカー入口" の正体が何だったかというと、実はホットドッグ屋さんだった。ファストフードが大好きなアメリカの軍人が、ホットドッグを買うために中庭のスタンドに出入りしていたら、"秘密バンカー" の出入口と勘違いされてしまったというオチ。この話は国防総省の一般公開時にもお披露目されていて、"Cafe Ground Zero" なる綽名が付けられた「世界でもっとも危険なホットドッグ屋さん」として紹介されている由。(ひでえネーミングだなあ)

うーむ、クレムリンのど真ん中にウォッカの立ち飲みスタンドが設置してあれば、ソ聯もこんな勘違いをしなくて済んだかな ? (違う違う)

もっとも、ここまで書いた話はあくまで「噂 rumor」なので、アメリカ一流のジョークという可能性もある。そもそも、この話はロシア側が公式に認めているものではないし、常識的に考えれば「どこに ICBM の照準を合わせているか」なんて話は永遠に公にならないだろう。


仮に、この都市伝説が真実だとすると。先入観とか思い込み、あるいは自分たちの価値観や常識で物事を推し量ることで、えらく判断を誤ってしまうものなのだなあ、という話になる。同じデータを眺めたときに、妙な先入観があるのとないのとでは、得られる結論はまったく違ったものになってしまう。なにもソ聯の偵察衛星担当者に限った話ではなくて、どこにでもある話。

その典型例が、「反基地」とか「平和」を掲げる弾帯、もとい弾体、もとい団体。および、そのシンパの皆さん。どんなソースから出てくるものでも、まずは「米軍基地反対」「在日米軍出ていけ」という立ち位置で見るから、トンデモな解釈につながりやすい。はなから「アメリカが悪い」という先入観 (というか結論というか) 付きで物事を見て、自分たちが気に入る結論に合致する話しか受け付けなくなり、それを論破しようとすると「ネット右翼」だと逆ギレする。

もっとも、対する国士様とて攘夷の精神を発揮して (?)「アメリカが悪い」で片付けようとする傾向はあるわけで、そういう意味ではどっちもどっち。「とにかくアメリカが悪い」から始まる先入観や思い込みが、どれだけ現実認識をおかしくしてトンデモ電波の流布に手を貸していることか。

もちろん、アメリカも、あるいはその他のどこの国も清廉潔白なんてもんじゃないし、誰かの発言にあったように、国旗が血塗られているのはどこの国でも同じこと。だからこそ、単純に特定の国を指して「○○が悪い」「○○怪しからん」「○○が消えればすべて解決」から話をスタートさせてもロクな結論にはならないし、勘違いして行動方針を誤るのがオチ。ホットドッグ屋を秘密バンカーと勘違いした都市伝説を笑えない。


ちなみに、問題のホットドッグ屋さんは 1992 年に「歴史的建造物」のひとつに指定された。施設改修計画の一環として建て替えが必要になったそうだが、むやみに拡張するようなことはせず、同じぐらいの外形とサイズを持つ建物を再現するそうだ。
国防総省いわく。

"The Soviet Union is a thing of the past, but the hot dog lives on in America."

(なんっつーことを…)

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