Opinion : 護りを固めずに何が攻撃かと (2006/10/16)
 

北朝鮮の核実験 (自称) を受けて、あれこれと騒々しい。実際のところ、本物の核爆発だったのかどうか、本物だとしたら規模はどの程度か、核弾頭を弾道ミサイルに搭載できる状況になっているのかなど、分からないことはいろいろある。

7 月のテポドン祭りがそうだったように、この手の話では最初、いろいろと断片的な情報が交錯して訳が分からなくなるのが常。新聞でも TV でも、大学教授とか評論家とかその他いろいろ、何か知っていそうな人を呼びつけてせっついているけれども、情報が足りない、あるいは錯綜しているうちに、いったい何を喋れと。
もっとも、飛行機が墜ちたときなんかも早々に「原因はなんですか」とつつく悪癖があるので、それと同じノリだと考えれば納得はいく。でも、情報が不十分な状況で無理やり判断させて、それがどれだけ後々の役に立つかというと、ちょっと疑問。

一方、世間ではこの件について、「北朝鮮をここまで追い込んだアメリカが悪い」と話をすり替える輩がいれば、一方では「日本も対抗して核兵器を持つべきだ」とか「先制攻撃のためにトマホークが必要だ」などと勇ましいことをいう人がいる。何を考えてるんだか。

個人的な考えは決まっていて。これ。

いま喫緊に必要なのは、SM-3 とイージス BMD ではないか

もちろん、最後の手段として拠点防衛用の PAC-3 も要るわけだけれど、PAC-3 はカバー範囲が狭いから、本当に重要な施設に重点配備するしかない。だから、広域防衛が可能な SM-3 とイージス BMD の重要性がもっとも高いというわけ。


まず、核武装は論外。以前にもどこかで書いたことがあるけれど、物理的なコストも政治的なコストも高すぎる。そもそも、日本が新たに核武装を宣言したら、北朝鮮の核開発を非難する名目が立たなくなってしまうし、ひいては日本という国の国際的信用にも関わる。得られるものと比べて、失うものが多すぎるので却下。

では、「先制攻撃の手段としてトマホークを」という声についてはどうか。これはこれで、先制攻撃の是非論とは別に、技術的な面で問題が多い。なぜか。

【質問】北朝鮮のミサイルが発射態勢に入ったら、先制攻撃の名目が立つのではないか ?
【回答】発射器がミサイルを起こして発射態勢に入ったというのは見れば分かるけれども、それをリアルタイムで監視するのは不可能。それに、ミサイルが日本に指向されているということを、発射器の外見で判断するのも不可能。

【質問】だったら、なんのために「情報収集衛星」という名の偵察衛星を打ち上げたんだ。役立たずじゃないか。税金の無駄遣いだ !!!!! 1
【回答】どこの国でも偵察衛星は周回衛星だから、ひとつところにとどまって常時監視するようにはできていない。その代わり、軌道高度が低い分だけ、比較的高品質な映像を得られる。

【珍説】それなら、北朝鮮の真上に静止衛星を上げればいいじゃないかqあwせdrftgyふじこlp
【回答】静止衛星は地球の自転と同期して回るという原理上、赤道の真上にしか上げられない。それに、自転と釣り合いを取るために高度 36,000km ぐらいの高い軌道を取る必要がある。だから、北朝鮮の真上に上げるのは不可能だし、高度が高すぎて、映像の質も悪くなってしまう。

【珍説】偵察衛星がダメなら、北朝鮮の上空に無人偵察機を飛ばして監視しろ !
【回答】普通、そういうのは「領空侵犯」っていうんじゃないの ? そんなことやったら、相手に攻撃の口実を与えるだけ。第一、移動式発射器を持ってる相手に対して、たとえグローバルホークでも 1 機で北朝鮮の全土をリアルタイム監視するなんて無理。予備機も含めると、いったい何機が必要だとお思いか ?

とまあ、そんなわけで、先制攻撃しようにもターゲットに関する情報を得るのが困難だから、「トマホークによる先制攻撃で北朝鮮の脅威を防ぐ」は成立不可能。いくらトマホークが高い命中精度を誇っていても、ターゲットの座標をちゃんと教えてやらないことには始まらない。ターゲットの位置をまったく知らないトマホークには、電柱並みの価値しかないのだから (そこまでいうか)。

そんなこんなで、使えるリソースや探知手段に限りがある以上、それは飛んできたミサイルを叩き落とすことに集中すべきというのが個人的な考え。
ただし、発射を探知する早期警戒手段については、米軍の DSP (Defense Support Program) 衛星に頼らざるを得ない。DSP や、将来的に配備される周回衛星 STSS (Space Tracking and Surveillance System。旧称 SBIRS-Low)、各種レーダーから得られるデータを取り込んで即座にアラート態勢を敷き、飛来するミサイルを多層防禦で叩き落とす。現実的に取り得る対応策はこれが最善。

第一、足元の護りを固めるのを忘れて「攻撃は最大の防禦」とばかりに、より遠くへ、遠くへとぶんまわしを広げることだけ考えていると、間隙を突かれて本土にヒット・エンド・ラン攻撃を仕掛けられるようなことになる。太平洋戦争の序盤、日本軍はそうやってドゥリットル東京空襲を許してしまった。あのとき、最新の戦闘機が軒並み外地に出払っていて、本土には古い戦闘機しか残っていなかったのをお忘れか。
(審査部のキ 61 みたいな若干の例外はあったにしても、あれは実戦部隊ではない)

仮に発射地点に対する先制攻撃が技術的・政治的に実現可能だとしても、それはまず、足元の防備体制がきちんとできてからの話。「核抑止」にしても「先制攻撃」にしても、それだけで 100% の効力を発揮するという保証はないのだから、どっちにしてもミサイルが飛んできてしまったときのための備えは必要。だからこそ、まずはイージス BMD と SM-3 の導入が重要というわけ。

誰かさんみたいに、北朝鮮の弾道ミサイルを「へっぽこミサイル」と呼んで、さも脅威ではないように見せかけようとする人もいる。
なるほど、通常弾頭なら与えられる被害は知れているが、問題は弾道ミサイルと核兵器をワンセットで開発しており、その両方が揃ってしまったらしいこと。イランにもいえることだけれども、弾道ミサイルと核兵器をワンセットで開発して「究極兵器」の実現を目指しているところが問題なわけで。

相手が核兵器を持っている場合、飛んでくるミサイルにどんな弾頭が付いているのかは着弾するまで分からない以上、中身が何かに関係なく叩き落とせる体制を作っておく必要がある。そんなことも理解できないで、何をいっているんだか。


MD というと、「弾を弾で迎撃するようなもので実現不可能だ」などと吹いている人が未だに存在する。ぶっちゃけると MD の難しさを半分しか理解していないし、技術的な進歩でどうにかできる可能性がある分野を、過去の失敗経験に立脚して批判しているところがトンチンカン。SM-3 や PAC-3 の迎撃実験成功率が上がってきていることなど、まるで眼中にはないらしい。
(残り半分の難しさについては、ソフトバンクの「ビジネス + IT」で「【北朝鮮テポドン発射】ミサイル発射の裏側に秘められた軍事技術の攻防 (前編 / 後編)」として書いた)

ついでに書けば、たいていのウェポン・システムが "spiral development" 方式になっている昨今、最初に配備されたシステムが完成品と思ってはいけない。ハードウェアやソフトウェアを段階的に改良して、毎年のように新しくなり、進化していくのが当世のウェポン・システムなのだから。MD なんかは、その最たるものだ。イージス・システムだって、当初のベースライン 1 と現在のベースライン 7.1 は全くの別物だし。

【珍説】MD はアジアの軍拡を助長するものだ ! いますぐ廃棄すべきだ !
【回答】MD の話が出る以前から中国は軍の近代化に邁進しているし、北朝鮮が国家予算の多くを軍備につぎ込む状態も変わっていませんが何か。

【珍説】MD ですべての弾道ミサイルを阻止できるとは限らないのだから、導入するのは無意味だ !
【回答】MD で弾道ミサイルを迎撃できる確率と、北朝鮮が突如として天使のようになって「話せば分かる国家」になる確率と、どっちが高い ? 第一、100% でなくても一部を叩き落とせるのであれば、何もないよりよほどマシ。

【珍説】MD は弾頭に囮を混ぜることで無力化されるから無意味だ !
【回答】キル・ヴィークルをたくさん用意して、本物も囮も関係なく、すべて破壊してしまえば無問題。囮を識別するのに頭を使うよりも現実的で、実際、そういう研究開発もやってるわけで。

そういえば、湾岸戦争で使われた PAC-2 の実績を引き合いに出して、まるで別物の PAC-3 に対する批判を強引にこじつけていた御仁もいたような。こういう不勉強な批判が、本当に必要な批判まで覆い隠してしまって害毒を流すというのに。
また、MD を批判するのに間違った情報、あるいは勘違いに基づいてやっていたりする場合もあるのだけれど、それについての反論は「週刊オブイェクト」に詳しい。

沖縄で PAC-3 の搬入を阻止しようと座り込みをやっている人もいたけれど、「いったいあなた達は、本当は誰にいわれて誰のために座り込みをやってるんですか」と訊いてみたかったりして。
ちなみに、TV に映っていたとかいう「搬入中の PAC-3」の映像を mixi で見たけれど、あれはどう見ても PAC-3 ではない。"見せ弾" として、旧いパトリオットの訓練弾をむき出しで載せてあっただけじゃないかと。


そんなこんなで、迎撃手段としての SM-3・イージス BMD・PAC-3 の整備、それと指揮管制網の整備、いざというときの発射態勢や法的裏付け・交戦規則の整備を粛々と進めるのが、現実的に取り得る最善の対策、と断言してしまおう。とにかく時間的余裕がないのが MD の厄介な点なんで、日本に飛来するミサイルを探知した時点で、迎撃にあたる部隊に対して自動的に発射権限を与えるぐらいじゃないと、絶対に間に合わないのだから。

それに、湾岸戦争のときにイスラエルに送り込んだ PAC-2 がそうだったように、「100% ではないにしても、迎撃の手段があるということで国民が少しは安心する」という効果もあることを忘れてはいけない。


おまけ : 私はイージス艦が好きだ

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