Opinion : "宇宙の平和利用" に関する雑感 (2007/1/29)
 

すでに報じられているように、中国が用途廃止になった気象衛星 FY-1C (Feng Yun 1C。1999 年打ち上げ、軌道高度 865km) に対して中射程弾道ミサイルから投射したキネティック弾頭をぶつけて、衛星を破壊する実験を実施した。
(JDW 2007/1/24 "Chinese ASAT test rekindles weapons debate" より)

これに対して各国から懸念が表明されたのに対して、当の中国はというと、劉建超報道局長が 1/23 の記者会見で「実験実施は『いかなる国に向けたものでもなく、いかなる国にとっても脅威にならない』」「中国は一貫して宇宙の平和利用を主張している。いかなる形での宇宙での軍拡競争にも参加することはない」と言明した由。(asahi.com より)

中国やロシアは以前から、宇宙空間の非武装化構想を打ち出している。これに対してアメリカは「自国の宇宙配備資産を守る必要性がある」と反論してもめている。これだけ見ると、「宇宙の軍事利用を推進するアメリカ vs 宇宙の平和利用を推進する中露」という構図に見えるが、実際にはそんな単純な話でもない。

なお、今回の中国の話についていえば、宇宙の軍事利用がどうとかいう話よりも、破壊実験で大量の破片を軌道上にばらまいたことの方が問題だと思う。破片には赤外線シーカーなんか付いていないのだから、相手かまわずぶつかってダメージを与えてしまう可能性が高い。前掲の JDW 誌の記事によると、破片は高度 193〜1,930km の範囲内に散乱したとされるが、これだけ範囲が広いと影響も大きい。


すでに忘れられかけた話にも思えるが、アメリカも似たような衛星破壊実験をやったことがある。それが ASM-135A ASAT ミサイルで、ズーム上昇する F-15A から発射、二段式ロケットで速度 24,000km/h まで加速して、弾頭となる MHV (Miniature Homing Vehicle) を衛星にぶつけて破壊するというもの。中国では弾道ミサイルを流用したが、ASAT では F-15 をブースターの代わりに使うことでミサイルを小型にまとめている。

この ASM-135A ASAT も完全な新規開発品ではなくて、ロケット・モーターは AGM-69 SRAM (Short Range Attack Missile) などの流用品で、新規開発したのは弾頭の MHV のみ。もっとも、その話は本筋とは関係ない。

ASM-135A が 1985/9/13 に、用途廃止になった観測衛星 P78-1 を破壊したときには、ターゲットの軌道高度は 600km だった。今回の中国の件では軌道高度 865km と報じられているので、能力的には近い。軌道高度 500-2,000km 程度の衛星は LEO (Low Earth Orbit) に分類されるが、この辺がターゲットということになる。具体的には、衛星携帯電話サービス用の通信衛星や、偵察衛星が該当する。(ちなみに、GPS でおなじみの NAVSTAR 衛星は高度 26,600km)
(追記 : WikiPedia では、LEO の軌道高度は 300-1,500km となっている)

それはともかく、ASM-135A ASAT は 1988 年に計画中止となっている。その理由は「宇宙の軍事利用に抵触する可能性が懸念されたため」ということになっている。そのデンで行けば、今回の中国の一件だって抵触することになると考えられる。中国が主張するように、今回の一件が宇宙の軍事利用に該当しないのなら、アメリカの ASM-135A ASAT だって該当しないことになる。
(ASM-135A の開発中止については、今回の一件と同様にデブリを撒き散らす事態が懸念された、という話もある。確かに、アメリカが破壊した衛星のデブリでアメリカの衛星が壊されたら、それこそ洒落にならない)

ところで、衛星破壊兵器だけが「宇宙の軍事利用」なんだろうか ?


ひとことで「宇宙の軍事利用」といっても、解釈次第で対象が広がったり減ったりする。狭義に解釈すれば、宇宙空間に某かの攻撃用兵器を配備することが「宇宙の軍事利用」ということになるが、そうなると該当例はなくなる。
今回のような衛星破壊兵器にしても、ミサイルそのものは地上、あるいは地上から発進する航空機から発射するわけだから、「宇宙配備」とはいえない。昨年に報じられたような「地上から衛星に対してレーザーを照射する」という話 (これも中国だ)、あるいは弾道ミサイル防衛用のインターセプターにしてもしかり。

ところが、それと反対に広義の解釈をして、軍事に関連するものなら何でも「宇宙の軍事利用」だということにすると、今度は実用例が掃いて捨てるほど出てくる。写真偵察衛星、レーダー偵察衛星、電子情報収集衛星、NAVSTAR のような航法衛星、そしてもちろん通信衛星 (NCW : Network Centric Warfare の神経線だ) など、軍事利用されている衛星はみんな該当してしまう。

米軍では、高出力レーザー兵器を地平線より先に到達させる手段として、反射鏡を装備した衛星を利用する「反射衛星砲」みたいな話を本気で検討したことがあるが、これだってレーザー砲そのものは地上にあっても、レーザー・ビームを偏向させるのは宇宙空間の衛星だから、立派な「宇宙の軍事利用」ということになってしまう。

つまり、広義に解釈すればすでに米英仏中露とその他諸々、多数の国が軍事衛星を打ち上げているのだから、みんな「宇宙の軍事利用」に抵触していることになる。国によっては軍民兼用の衛星を打ち上げているが、兼用だから軍事利用といえる。イギリスの Skynet みたいに、軍用衛星の民間委託 (しかも民間向けのアルバイトまでする) という、ややこしいボーダーレス事例もある。

さらにいえば、自前の通信衛星を持っていない国は民間向けの衛星通信サービスを利用しているから、「軍事衛星がない国は宇宙を平和利用している」ということにはならない。インマルサットあたりのサービスを利用していれば「宇宙の軍事利用」ということになってしまう。というか、そのインマルサット自身が軍用衛星の仲間入りということになってしまう。イリジウムのような、民間向けの衛星携帯電話サービスだって同じこと。

偵察衛星についても同様。アメリカやフランスの民間向け衛星が撮影した画像は、Google Maps みたいなサービスで利用できるだけでなく、軍も購入して利用している。衛星そのものが民間の所有で民間向けサービスを提供していても、その成果物を軍が利用していれば、これは軍事利用と解釈する方が筋が通る。

ちなみに、宇宙条約では第 4 条で、核兵器などの大量破壊兵器を運ぶ物体を地球を回る軌道に載せる、あるいは宇宙空間に配備することを禁じている。これは「宇宙の軍事利用」を非常に狭義に解釈したものといえるし、今回のような衛星破壊兵器も軍用衛星も該当しない。


つまりは、「軍事利用」という言葉の定義をものすごく曖昧にしたまま、各国が「俺様解釈」で「うちは宇宙を軍事利用していない、おたくはやっている」と非難合戦を展開しつつライバル国を牽制しているのが実情。

といったところで素朴な疑問。「宇宙の軍事利用禁止」って、何のために必要なんだろうか ? 宇宙の軍事利用を禁止したからといって、地上での戦争発生を抑止できるとも思えない。それに、禁止しようとしても難しい話だらけなのは、これまでに書いてきた通り。

突き詰めると、「宇宙の軍事利用を認める or 認めない」という議論の仕方では、永遠に収拾がつかない。だから、容認するにしても反対するにしても、まずは「軍事利用」の範囲を明確化した上で論じることが必要。
ただし、先に挙げたような事情があるから、通信衛星などもひっくるめた、包括的な「宇宙の軍事利用禁止」は現実的に見て不可能。なにしろ、軍事衛星だけではなく、民間向けの衛星まで片っ端から対象に含まれてしまい、さまざまな分野で支障が生じる。

となると、実情に合った落としどころとしては、「破片を撒き散らして周囲に迷惑を振りまく事態を防ぐために、他国の衛星を物理的に破壊する手段は禁止する」というような、特に悪影響が大きい項目に限定した具体的な形にするのが現実的ではないかと思える。もっとも、あまり個別案件に細かく立ち入った定義にすると、それに対する抜け穴を探そうとする奴が出てくるのは、この業界のお約束ではあるけれど。

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