Opinion : "欧州好き" に関する考察 (2007/5/14)
 

「おうしゅうずき」と入れて変換したら、真っ先に「押収好き」と変換するのって、どうよ > うちの ATOK2005

閑話休題。
聞くところによると、「自動車評論家が褒めるクルマは売れない」というジンクスがあるらしい。そうなると、自動車評論家の存在価値って何なのよ、と思うけれど、その自動車評論家はおしなべて欧州車が好きなように見える。

だから、トヨタあたりが何か新型車を出すと、往々にして「欧州の水準に追いついてきてはいるが、まだ○○ (←ここには適当な欧州車の車名が入る) に比べると△△の部分が駄目」みたいな文脈で締める場合が多い、という印象がある。統計を取ってみた訳じゃないし、日本メーカーでも日産・ホンダ・スバルあたりだと、また対応が違うかも知れないけれど。

政治・外交の世界でも、「アメリカは怪しからん、それに比べると欧州はなんたらかんたら」という文脈で語る人が、よくいる。その挙げ句に、「ヨーロッパは軍事費を減らして軍縮に向かっています」と発言した、社民党の辻元某氏みたいなのが現れる。ところが、ホンマかいなと思って SIPRI のデータベースで調べてみたら、軍事費を増やしている国がゾロゾロ現れて大笑い、なんてことも。
(何も調べないで願望で語ったのか、ドル建ての数字を見て騙されたか、そのいずれかだろう。多分)


たいてい、こういう「欧州びいき」の論調は、日本やアメリカを批判する際にセットで出てくる。ありがちなのは「ヨーロッパは歴史と伝統に裏打ちされた文化がなんたらかたら、それに対してアメリカはほげほげ」とかいう類の、「大人のヨーロッパ vs 新参者でお子ちゃまのアメリカ」的な文脈の場合が多い。

この手の論調だけ聞いていると、ヨーロッパはものすごく文明が発達していて文化的で、大人の国で、それと比べると日本やアメリカはいかにダメダメか。という印象ばかりが植え付けられそうになるけれども、果たしてそんなに単純に割り切れるものだろうか。
確かに、欧米の間に食い物のうまい・まずいというギャップはありそうだけれど、アメリカにもうまい料理はある。というか、これは日本人の舌が基準の話だから、御当地の人がどう考えているかは、また別の問題。

イギリスでは「確かにイギリスの料理はまずい。しかし、うちの料理は一番うまい」と考えていて、それなら文句の付けようがない。という話を、確か玉村豊男氏が書いておられた。これはうならされる話で、ある意味 "大人の解決" といえるかもしれない。

それに、ヨーロッパの歴史が、そんな殊更にアメリカと対比して批判のネタにするほど清廉潔白かというと、それも怪しい。常々書いているように、どこの国にも黒歴史の一つや二つ (もっと多い ?) はあるもので、それは世界のどこでも同じこと。そして、歴史が長い方がむしろ、黒歴史をこしらえる可能性は高いというもの。

手っ取り早い例を引き合いに出すと、中東やアフリカの国境線というのはその大半が、欧州列強が植民地にした時代の境界線をそのまま引きずったもの。だから現地の地理的・民族的な境界を無視して適当に国境線を引いてしまい、「はい、独立国家だからみんなで団結しましょう」ったって、そりゃ難しい。かくして、内戦だの民族紛争だのが多発する。実質的に三分割状態でもめているイラクもそのひとつ。
ちっとは自分で尻を拭けよ、ということなのか、コンゴ民主共和国に EUFOR が出動したり、コートジボワールにフランス軍が出動したりもしているけれど。

それに、中世のヨーロッパを見ていると、ヨーロッパがそんなに黒歴史と無縁だとは思えない。もっとも、そのことの反省が後の改善につながれば、まだ救いがあるとはいえるけれど。


突き詰めると、ヨーロッパびいきというのは絶対的な問題ではなくて、日本、あるいはアメリカの悪口をいいたいがために、対抗勢力としてヨーロッパを引き合いに出すケースが多いのかなあと、そんなことを考えている。

そういえば、ヨーロッパでユーロを導入したときに、何かとお騒がせな某テレビ局の某ニュース (?) 番組で、わざわざメインキャスターを現地に送り込んで中継していたけれど、これも「アメリカに対抗する勢力ができて嬉しい」ということだったのかも知れない。でも、通貨統合だけで対抗勢力としてまとまるかというと、それはまた別の問題。国も民族も文化も違う状況は変わらないし、エアバスのリストラ問題でドイツとフランスが角突き合わせているように、域内での利害対立はなくならない。

以前にも書いたように、国境を消しただけでは国家間の利害対立が国内の利害対立に付け替えられるだけだから、いわゆる欧州統合にしても、この原理からは逃げられない。だから、「アメリカに対抗する勢力としての統一ヨーロッパ」に過剰な期待をするのは、いかがなものかと。(もっとも、アメリカだって州同士で利害対立が発生するわけだけれど)

つまりは、スネークマン・ショーのコントじゃないけれども、どこの国、あるいはエリアにも「いいこともある、悪いこともある」ということなんであって、殊更にヨーロッパだけが偉いわけでも、逆に劣っているわけでもないんじゃないのかなあと。

何かの分野でヨーロッパに秀でたものがあれば、それを評価すればいい。別の分野でロシアに秀でたものがあれば、それを評価すればいい。別の分野で日本、中国、あるいは韓国で (ry
そういう「是々非々」の考え方で行けばいいのであって、たとえば「アメリカ嫌いを主張・補強するための飛び道具」として、いちいちヨーロッパを引き合いに出すのって、どうなんだろうと。

なんか、日本国内におけるさまざまな論調、特に政治・外交・文化がらみの話題を見ていると、「ヨーロッパ偉い、アメリカ偉くない」的な言い分が目立っているように思えたので、ちょっと逆らってみた。

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