Opinion : アドバーサリーとエネミー (2007/9/24)
 

米海軍に「アドバーサリー飛行隊 adversary squadron」と呼ばれる飛行隊がある。日本語では「仮想敵部隊」と訳されることが多いが、つまりは戦場で相まみえる可能性が高いと考えられる相手を模擬して、より実戦的な訓練を行えるようにするもの。

米空軍にも同様の部隊があるが、同じ米軍なのに用語が違っていて、空軍では「アグレッサー飛行隊 aggressor squadron」という。航空自衛隊にも、同様の組織として飛行教導隊があって、これの部隊名称を英語では、やはり Aggressor と表記している。空自は基本的に "米空軍規格" だから、当然か。

他にいいようがないから adversary を仮想敵と訳しているけれど、業界用語としては「対抗部隊」という言い方もあって、こっちの方が実情に近いかもしれない。実際、米陸軍では OPFOR (Opposing Force または Opposition Force) と呼んでいる。

なんにしても、この手の部隊はあくまで仮想敵で、本物の敵ではない。そういう意味では、「対抗部隊」あるいは「OPFOR」は、なかなか的確な表現だと思う。みんなこの表現にすればいいのにと思うけれど、軍種ごとのカルチャーの違いというものもあるから仕方ないか。


ともあれ、アドバーサリーは対抗役であって、本物の敵 enemy ではない。この区別は曖昧になりがちだけれど、実は重要だと思う。そんなことを考えたのは、blog の炎上や、パソ通時代から連綿として存在する「議論のフレームアップ」においても、このアドバーサリーとエネミーの違いが関わってくるんじゃないかなあ、と思ったから。

たとえば、(どう逆立ちしてもあり得ないけれど) 私が blog で「東京都は無防備都市宣言すべきだ」と書いたとする。多分、炎上してコメントがワーッと殺到する。ただ、炎上とかコメントスクラムとかいってひとくくりにされているけれども、実はそこには「アドバーサリー」なコメントと「エネミー」なコメントがあるんじゃないの、ということ。

つまり、「ジュネーブ議定書の解釈が間違ってる。東京都のような自治体が、しかも平時に無防備宣言する行為は成り立たない」というコメント。これは見解を異にする人からの、アドバーサリーに分類されるコメント。それに対して「この馬鹿、氏ね、売国奴」とか「このハゲ」なんて調子のことを書いたり、コピペ荒らしをやったりするのは、エネミーに分類されるコメント。
ただ、相手の間違いを指摘するのでも、罵倒口調、小馬鹿にしたような口調になるケースはあるから、これはどちらに分類するか微妙。

アドバーサリーに分類されるコメントであれば、こちらがその気になれば、議論する余地が十分にある。でも、エネミーに分類されるコメントにはそうした余地はない。だから、この両者の違いを見極めることが重要なのかもしれないなあと。アドバーサリーだったら普通に応対する、エネミーだったらスルーする、というのが無難なところだろうか。

ところが世の中には、その区別を付けられない人がいて、自分の意見に異論を唱える人がいると、ひとくくりにエネミーだと思ってしまう場合がある。そして、単なる事実の指摘に対してすら「誹謗中傷」とかいう類の言葉を安易に使ってしまう。

そうしたパターンでは往々にして、blog 主が自ら本来のテーマから脱線して「議論のやり方」について自説を開陳してみたり、「どうして名無しさんのコメントは許せないのか」と延々と書き続けてみたり。そして、マナーがどうとか、相手の態度がどうとか、ちゃんと身元を明かせとかいう話になって、しまいにはコメント強制削除に走り、それがまた次なる炎上のきっかけを作り、という事態につながってしまう。

blog の炎上が話題になるけれども、単に炎上といってひとくくりにはできないので、中には本当に気の毒なタイプの炎上もあれば、自業自得としか思えない炎上もある。そして後者の場合は往々にして、異論をひとまとめにしてエネミー扱いしているんじゃないかなあ、それが原因で火に油を注いでるんじゃないかなあ、なんてことを考えてみた次第。
(もちろん、個別の事例ごとにいろいろと、もっと細かい事情の違いがあるんじゃないの、というアドバーサリーとしての指摘はあるだろうけれど)


アドバーサリーとエネミーの違いは、なにも blog のコメント欄に限った話ではなくて、たとえば国と国との関係でも同じこと。

最近、アメリカや NATO とロシアの間で、例の MD エレメント配備問題なんかをきっかけとして対立が発生しているけれども、じゃあ、かつての冷戦時代みたいに NATO とロシアがエネミーな関係になっているかというと、そこまでエスカレートはしていない。アドバーサリーになっている部分はあるにしても。

確かに、ロシアの Tu-95 が北大西洋に現れたり、太平洋で演習中の米艦隊の近所までやってきたりしているけれども、一触即発で今すぐにも花火が上がるような状況じゃない。米空母の真上に突っ込んで爆撃航過をやった、というわけではないのだから。

なにしろ Tu-95 がスクランブルをかけられている一方では、モスクワで開催した MAKS 2007 航空ショーで米空軍の F-15 がデモフライトをやっている。ボーイングは自社の旅客機で使用するチタン製部品を確保するために、ロシアのチタンメーカー・VSMPO-Avisma と連携している。本当に米露両国が一触即発の緊張関係にあったら、まずこんなことにはならない。

例の巨大 FAE「すべての爆弾の父」にしても、「MD 配備を進める西側に対する牽制」とかいうピンぼけな報道があったけれど、そりゃ違うと思う。MD への牽制なら、デコイをてんこ盛りにした最新の ICBM を試射してみせる方が、よほど効果的というもの。例の FAE はむしろ、「我が国はこんなに強いモノを持ってるんだぞ」という国内向けのアピールがメインじゃないだろうか。つまり、アドバーサリーではあっても、エネミーではない。

本当のエネミーっていうのは、もっと露骨に恫喝したり侵犯行為をやったり、フネをぶつけたり、外交的圧力をかけたり、自国民を焚きつけて相手国の国旗を燃やさせたり大使館を襲わせたり、etc,etc、といった類のもの。そこのところの見極めを間違えるのはマズいよね、と思うのだった。

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