Opinion : 炎上にもいろいろある (2007/10/22)
 

ハッと気付いたら、Opinion 向きのネタを blog で使ってしまっていた (これこれ) ので、別のネタで。

タイトルで「炎上」と書いたけれど、blog や掲示板の炎上じゃなくて、何か開発プロジェクトの類が炎上する、という類の話。IT 業界ではしばしば聞かれる話だけれど、兵器開発でもお約束のように発生するイベント。

でもって、炎上するとそのプロジェクトを叩く人はゾロゾロ出てくるし、会計監査当局はあれこれと問題点を指摘して「こんなプロジェクトは止めちまえ」というし、それに乗っかる議員 (特に野党の議員) が出てくるのはお約束というか、ひとつの様式美みたいなもの。「某国のプロジェクトは炎上しているが、我が国のプロジェクトは炎上していない」と自慢する人が出てくるのも、またひとつの様式美。

ただ、炎上といってもいろいろあるので、単に「炎上した」というだけで叩く、あるいは止めさせるのもどうかと。


どこの業界にも共通する話だと思うけれど、開発プロジェクトの類が炎上するには、理由がいろいろある。

  1. 当初の目論見・見積もりが甘すぎた
  2. プロジェクト管理がザルだった
  3. 炎上するほどチャレンジングなことをしていない
  4. etc, etc

既存の技術で手堅くまとめればリスク要因は減らせるから、炎上する可能性も減らせる。ただしその分だけ、画期的な新製品や新兵器が出てくる可能性は減る。チャレンジングなことをやって、かつ失敗せずに大成功を収めたのなら立派だけれど、何も冒険をしないで炎上しなかったのをそれと同一視するのも、いかがなものかと。

ただし、ものすごい革新を求めず、手堅く成果を得たいという趣旨のプロジェクトが存在することを否定するつもりはないので、念のため。そういう行き方はもちろん「アリ」だけれど、手堅い成果と大革新を両立させるのが難しいのは確か。

逆に、炎上しても、あるいは当初に完成させたブツが酷評されても、それでも「これが必要なんだ、いつかきっとモノにする」といって石にかじりつくように開発・改良を進めて、やがて大成功を収めた事例もある。いってみれば、故・本田宗一郎氏がいうところの、「10 人中 2 人しか賛成しないような新製品こそ、開発するに値する」というやつ。

身近な例だと Windows。今でこそ独占だ何だといわれるぐらいに普及したけれども、1985 年に登場した Windows 1.0、あるいはその次の Windows 2.0 の時代に、ここまで成功すると予想していた人がどれだけいただろう。旧バージョンの遺灰と、それを使っていた人柱ユーザーのおかげで今の成功があるんだということをあまり指摘されないのは、正直いって不本意。

似たような例として挙げたいのが、(いきなり話は飛ぶけれども) AIM-120 AMRAAM。ちょうど自分が学生だった頃に AIM-120 の開発が最盛期を迎えていて、トラブル続発、スケジュール遅延、開発費高騰の三連コンボ。各方面から叩かれまくっている最中で、果たして AIM-120 ってモノになるんだろうか、と心配になってしまった。

ところが、それでも軍とメーカーが諦めなかったおかげで AIM-120 は完成して、いざ戦場に出てみたら "必殺野郎" (slammer) と呼ばれるほどの大成功。冷静に考えてみれば、開発過程でさんざ炎上してトラブルと膿を出しまくったからこそ、しょっぱなから戦場で成功を収めることができたのだ、ともいえる。

ぶっちゃけ、開発過程で炎上してトラブルがガンガン出る方が、ブツが完成して世に出てからトラブルがガンガン出るよりもいい。最近、米軍の装備調達担当者が「新兵器の開発に際しては、もっと厳しいテストをやるべきだ」といいだしているのも、同じような考えがあるからだと思う。今だってそんなに甘いテストをしているわけではないにしろ、厳しくやって開発過程で膿を出し切れるなら、その方がいいのは確か。

といっても誤解しないでいただきたいのは、いきなり最初から高いハードルを課すことはしないのが普通だということ。ミサイルの開発なんか典型例だけれど、最初は個別のコンポーネントについて個別に動作をテストして、次にそれらを組み合わせてテストして、それも条件が易しいところから段々と難しいところに引き上げていく。最近の事例だと、MD も同じ。

だから、たとえば「試射失敗」というニュースが流れたときに、どの段階の、どういった目標を掲げた試験で失敗したのかを併せて考慮しないと、とんだ認識ミスをやらかす可能性が高いはず。成功した場合でも失敗した場合でも、初期段階の基本的な動作試験なのか、最終段階で実戦レベルの運用評価をやったのかで、意味が違ってくる。

MD 反対派の人がしばしば、「標的から誘導信号を出していたそうじゃないか、それなら当たって当然だ」みたいなことをいうけれども、最終段階の運用試験ならともかく、開発過程で少しずつハードルを上げていく段階では、コンポーネントやソフトウェアが能書き通りに機能することを確認する手段として、標的から誘導信号を出すことも必要かもしれない。そういった事情を無視して「誘導信号を出していた」という話だけを一人歩きさせても、後で墓穴を掘るだけだから止めた方がいいと思う。

特に最近では、兵器でもその他のモノでもソフトウェアで駆動する場合が多いから、ソフトウェアの出来・不出来が大きく影響する。いいかえれば、ソフトウェアのバージョンアップで問題を解決したり、性能を引き上げたりできる場合もある。そういう作業は段階を追って進められるものだから、最初のモノだけ見て判断するのは早計、ということになりやすい。


とはいっても、実際には「見通しが大甘だった」とか「管理がザル過ぎた」とかいう理由、あるいはそれらの複合的な理由で炎上するプロジェクトもある。それでも、成果物が必要なら何としてでも完成させるんだ、と当事者が頑張らなければならないこともあるので、そこの見極めが大事だし、それはすごく難しい。

あまり指摘されないけども、実は Microsoft は成功と同じくらい (あるいはそれ以上に ?) 失敗している会社で、ずっこけて消えていった製品も掃いて捨てるほどある。それでも、遺灰が後で役立ったケースもあるにはあるけれど…
ただ、この会社が怖いのは、成功させると決めたら石にかじりついてでも止めない一方で、見切りを付けたらあっという間に切り捨てること。すると、プロジェクトチームはいきなり解散、開発メンバーは慌てて次のポジション探し、なんてことになる。

どちらに転ぶにしても、「現時点でプロジェクトが炎上している」という話だけをつまみ出して出来・不出来を判断するのは、ちょっと危険じゃないかなあ、なんてことを考えてみた次第。現時点で "燃えている" ("萌えている" ではない :-) プロジェクトが、後で大輪の花を咲かせるかもしれないのだから。

Contents
HOME
Works
Diary
PC Diary
Defence News
Opinion
Ski
About


| 記事一覧に戻る |