Opinion : 長持ちの理由 (2008/2/18)
 

制御不能になった偵察衛星を、イージス BMD の SM-3 で叩き落とす、というニュースを聞いてビックリした。最初に「撃墜する」と聞いたときには、ASM-135A ASAT でも使うのかと思ったから。

現実問題として、それは無理。使える発射母機や有資格パイロットがいないだろうし、ミサイルだって残っているかどうか。残っていたとしても、AGM-69 からかっぱらってきたロケット・モーターが、ちゃんと機能するかどうか怪しい。


そりゃ確かに、宇宙空間から降ってくるものを叩き落とすのは BMD と同じだし、「的」はそれなりに大きいから、理屈の上では実現可能に見える。でも、1970 年代に次世代艦隊防空システムとしてイージス・システムを構想した当事者が、イージス BMD、さらには衛星の要撃といったところまで "大化け" するとは思っていなかったはず。

冷戦終結後、「もはや艦隊防空のためのシステムなんて不要ではないか」といって、A 新聞の T 氏が海自のイージス護衛艦導入を批判する論陣を張ったことがあったと記憶している。ところが、発想の転換により BMD に活路を見いだし、さらに衛星要撃なんて用途まで登場するに及んで、イージス艦不要論は消し飛んでしまった感がある。
(それでも不要論を唱える人は、何があってもなんだかんだと理由をでっち上げるものだから、措いとく)

とはいえ、最初のイージス・システムのアーキテクチャが正しい方向に向いていて、将来に向けた発展のポテンシャルを備えていたからこそ、こうやっていろいろな応用ができたのは間違いない。高性能のフェーズド・アレイ・レーダーと指揮管制装置、さらに VLS を組み合わせた、当初のアーキテクチャを考案した人の勝利、ということなんだと思う。SAM の発達やコンピュータの性能向上も、それを受け入れる土台があればこそ。

もっとも、イージス・システムのコンセプト策定時点で「将来的には、弾道ミサイル防衛や衛星撃墜にも発展させるつもりだ」なんて大風呂敷を広げていたら、おそらくは議会で袋叩きに遭って GAO の怖いおじさんに批判的なレポートを書かれて、虻蜂取らずになっていただろうけれど。

冷戦終結後の不要論といえば、低烈度紛争が主体になったことで「戦車不要論」というのも出てきて、実際、カナダみたいに Leopard C1 戦車を放逐して Stryker MGS に変えるといいだした国もあった。ところがイラク・アフガニスタンの戦訓で大逆転。結局は Leopard 2 戦車の購入に転換してしまった。

アメリカでも、M1 戦車に市街戦対応改修 (TUSK) を加えて、いわば「移動要塞」みたいな使い方をする方向だし、フランスの Leclerc にも似たような話があったはず。かつては「戦車は市街戦には不向き」なんていわれていたけれど、装甲・火力・センサー能力が買われて、こんなことになってしまった。ただし、戦車だけを市街地に突入させるのは具合が良くないから、それは運用で補うと。

イージスの話でも戦車の話でも、「しっかりした土台と汎用性、発展の余地を備えて、かつ妥当な維持費で済む優れたプラットフォームがあれば、過去には想像もしていなかったような用途を見出して発展できる」という話にまとめられるのかな、と考えてみた。

裏返せば、何か特定の分野で突出して優れた性能を発揮できても、時代の変化に対応していくだけの柔軟性や発展性を欠いていたり、維持費が高すぎたりすると、早すぎる引退に追い込まれるということ。
いい例が B-58 爆撃機。後から登場した B-58 がとっとと引退して、旧い B-52 が 2040 年まで運用を続けるなんて、1960 年代の SAC 関係者は想像もしていなかったんじゃなかろうか。それは結局、「汎用性」と「発展の余地」と「維持費」のバランスの問題が原因。

いきなり話は飛ぶけれども、581/583 系寝台電車にも似たところがあるかも知れない。高度成長期に昼行・夜行兼用で高い運用効率を発揮させる、という目的に特化して作られた車輌だから、その面では優れた威力を発揮してくれた。
でも、時代の変化によって接客設備が対応しきれなくなり、新幹線網の拡大で昼行・夜行兼用が可能な区間が減り、結果として「つぶしが効かない」車輌になってしまった。その結末が近郊型電車への魔改造。でも、これだって近郊型としては無理がある内容なわけで。


でも、ここまで書いてきた内容はすべて、「長持ちさせる」という前提の話。最初から期間限定にしてしまえば、当初に想定した用途に最適化した内容にすることでコストを抑える、という考え方もあり。典型例が 209 系かなと。

ただ、209 系の場合には限界設計を突き詰めすぎた (?) せいか、ここのところ、どうも傷みが激しい車輌が見受けられる。でも、その教訓を受けて E231 系や E233 系が出来たわけだから、これらの後継車輌はより良いバランスを備えているのではないかと想像するのだけれど、どうか。

と思ったら、F-16 みたいに当初のコンセプトとは似ても似つかぬ機体に化けた例もあった。最初は軽量・シンプルな格闘戦専用戦闘機のハズだったのに、周辺状況に押されて戦闘爆撃機に変質。しかも「余計なものを詰めないように機体を小さくした」(開発者談)もんだから、追加する装備が機内に収まらなくなって、ポッドを幾つも吊したり、コンフォーマル燃料タンクが張り出したり。
でも、それをやったから F-16 が生き残ってきたのも事実。今度は JAS39 Gripen が同じ道を歩みつつある悪寒。

さて、これも機内に装備がギッシリの F-35 は大丈夫だろうか。ステルス機だから外形は迂闊にいじれない。ソフトウェアの書き換えで済む話ならいいけれども、きっと、装備の追加や交換が必要な場面が出てくると思うのだけれど。


なんにしても、「長持ちさせるか、見切って短期間限定にするか」というところから始まり、それに合わせてコンセプトやアーキテクチャを決めて、さらにブツが完成した後も周辺の状況変化に対応していかなければならない。場合によっては、当初の想定と正反対のことになってしまうかも知れない。物作りというのは面白く、しかも難しいものだなあ、なんてことを考えた次第。

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