Opinion : 松下電器はパソコン兵器の回収を、だって !?・その後 (2008/3/10)
 

最初は別のネタで書いていたのだけれど、どうも切れ味がよくなかったので、ネタ変更。

2 年近く前に、「松下電器はパソコン兵器の回収を !」というギャグネタみたいな話があり、それを受けて「松下電器はパソコン兵器の回収を、だって !?」を書いた。自分でいうのも何だけれど、かなりウケた。

そもそも、なんで件の記事を書いたかというと。
「戦うコンピュータ」を出した際に、Toughbook の画像提供などの形で御厄介になった松下電器さんに、その「戦うコンピュータ」でトンチンカンな解釈をされたが故の抗議活動で迷惑をかける結果になってしまいそうで、それがどうにも心苦しかったから。

そして 2 年近く経過した昨今、こんなニュースが。

特に、Engadget Japanese の記事にあった「しつこいようですが軍隊そのほかを含む業務用・法人向け製品です」の一節には大笑い。

杉原 "タフブック" 浩司氏は

松下電器は、死亡事故を引き起こす石油暖房機の回収作業に勝るとも劣らないエネルギーをかけて、戦場で使用され現在もなお虐殺に加担している自社製パソコン兵器「タフブック」を回収すべきです。
松下電器に対して「米軍に何台納入しているのか ?」を問いかけ、「戦争加担をやめてタフブックの回収を !」などの声を届けることを呼びかけたいと思います」
なんていって煽ったけれども、完璧な不発弾に終わった様子。上の呼びかけが真に受けられて功を奏したのなら、とっくに Toughbook は discon になっていただろうし、UMPC 型 Toughbook が世に出ることもなかっただろうから。

つまり、上記の呼びかけはまったくの徒労だったというわけ。


ちょっと嫌味を書くと。
UMPC の話が出てきた当初、日本国内では「VAIO Type U に比べれば全然駄目だ」といってこき下ろす論調ばかりが目立った。確かに、最初に出てきた製品がどうにもパッとしなかったのは事実だけれど。

ところが、それから数年が経過してみたら、VAIO Type U は後が続かず、その一方ではあちこちのメーカーが UMPC を送り出すようになってきたのだから、世の中というのは分からないもの。もちろん、その背景には Intel が小型 PC 向けの省電力型 CPU/チップセットを開発したとか、デバイスの技術的進歩や価格低下があったとかいう事情があるわけだけれど。

なんにしても、携帯できて、それでいて十分に使い物になる小型コンピュータがあれば、さまざまな発展の可能性が生まれるのは事実。UMPC に比べればガタイが大きい一般的なノート PC にしても、ソフトウェアとしかるべき周辺機器を用意すれば、各種無人ヴィークルの管制や動画データの受信端末を初めとして、広い分野で利用されている。しかも汎用のハードや OS が動作する製品なら、ソフトウェアや周辺機器の開発を容易に、かつ安価にできる (実はこれが大きい)。

ましてや、さらに小型化した UMPC ならなおのこと。これに目をつける軍人がいても不思議はない。特に昨今では軍隊の情報化が進んでいる上に個人用装備の重量は増すばかりだから、UMPC は二重の意味で利用価値がある。そう遠くないうちに、UMPC の軍事利用事例が出てくるのではなかろうか。

防衛省の技本がいうところの「ガンダム」(おい) にしても、UMPC みたいな小型コンピュータのテクノロジーがあれば、ぐっと実現性が高まるし、コストも下げられるかも知れない。昨年の発表会で見た現物ではインターフェイスに USB を使っていたぐらいだから、民間で出回っている汎用製品をドンドン活用することになる可能性はおおいに考えられそうだし。

ただ、個人的には UMPC には食指が動かない。理由は簡単で、あのちっちゃなキーボードでは原稿が書けないから。でも、これはかなり特殊な要求だから、これだけで「UMPC なんて使えねー」と結論づけるのは大間違い。

そういった形で市場があれば、需要に対応できるような製品を開発して送り出すメーカーが現れるのは当然の話。企業というのは、(もちろん無制限ではなく、程度問題ではあるのだけれど) やって利益があることならやる、利益にならないなら止める、というのが基本にあるわけだし。

え、「武器輸出三原則」はどうしたって ? しかし、以前にも書いたように、コンピュータはソフトウェアと周辺機器次第でいろいろな用途に化ける機械。だから、それに対して「軍用品」とか「民生品」とかいう区別を設けること自体がナンセンス。Toughbook みたいな「頑丈 PC」の用途が軍用に限定されるわけではなく、工事現場でも工場でも使える。

いいかえれば、コンピュータや自動車みたいな汎用性のある製品については、売った後の使われ方までメーカーが責任を負えないってこと。ユーザーの手に渡った PC が、物書きの道具になろうが軍隊の情報システム端末になろうがイージス艦の艦橋に据え付けられようが (本当に使っているのだ)、はたまたエロ画像の作成やダウンロードに使われようが、それはもはやメーカーの責任範囲外の話。

「パソコン兵器の回収を !」という呼びかけが、ブロゴスフィアで物笑いのタネになった最大の理由は、おそらくはこの点にある。

これは Windows や Linux みたいな OS にもいえること。左巻きの人で、「マイクロソフトは怪しからん、Windows を使うのは止めて Linux にしよう」なんて主張しているトンチンカンな人がいるようだけれど、Linux だって軍用コンピュータでガンガン使われている。さてどうする ?

そんな調子だから、たまたま Toughbook の頑丈さに目をつけて軍用にした人がいたからといって、そのことで松下電器を責めるのは筋違いもいいところ。杉原氏はそこのところが全然分かってない。

同じことはピックアップ トラックや四輪駆動車にもいえる。アフリカや中東では機関銃を載せて「テクニカル」に化けて暴れているし、ヨルダンではランドクルーザーのシャシーだけかっぱらって、装甲車体を架装した軍用車を開発してしまったメーカーすらある。

でも、そんな売った先のことまでトヨタや日産は責任を持てない。(本当にそんな呼びかけがあったかどうか知らないけれど)「ランクル兵器の回収を !」なんていわれたところで困惑するだけ。先日、米空軍資材軍団 (AFMC) が Cell プロセッサ目当てに PS3 を 300 台調達するなんてニュースがあったけれども、これだって同じこと。「プレステ兵器の回収を !」なんて呼びかけたら、またお笑いになる。


個別事例を挙げ始めるとキリがないので、これぐらいにして。

この「タフブック騒動」を要約すると、「軍事に関連するものを何でも手当たり次第に否定すれば世の中に平和がやって来る、という勘違い」といったあたりに落ち着くのではなかろうか。ちょっときつい言い方をすれば、それは実効性を伴わない「私は平和のために頑張っている !」という自己満足のためのオカズに過ぎないってこと。

UMPC 版 Toughbook の登場を機に「タフブック騒動」を振り返ってみると、あれは、いまどきの平和運動が内包する体質的・構造的な問題を露見させた象徴的事件だったのだろうなあ、と思った。煽ってみたけれども不発に終わったのだから、ちょっとは反省して戦術を変えるのが筋だと思うけれど、実際にはそのことについて当事者が全然理解していない様子なのが、なんともはや。

これでは世界に平和がやってくるわけがない。

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