Opinion : ガセネタが出回る理由 (2008/4/14)
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何も軍事の世界に限ったことではないけれども、ガセネタが出回ることがある。ある時点でガセネタだと思われていたことが、後になってみたら本当だったと判明したり、それとは正反対に、ある時点で本当だと思われていたことが、実はガセネタだったりもする。
だから、ある時点で「これが真実だ、他の情報はガセネタだ」と自信満々で断言すると、後になってどんでん返しを食らうことが間々ある。となると、単にガセネタをガセネタといって切り捨てれば済むのかどうか。ということで、思うところをつらつらと書いてみた次第。
そもそも、ガセネタが出回るといっても、単にガセネタといってひとくくりにすることはできない。理由はいろいろあるから、それによって対応が違ってくると思う。
パターン 1 : 情報不足に起因する推測ミス
情報が乏しい、あるいは信頼できそうな情報が乏しいせいで推測に頼る部分が多くなり、後になってガセネタと判明するケース。秘密主義の国が登場させた新兵器が対象になったときに、よくあるパターン。
もちろん、推測するにしても過去の経験や一般常識を基にするわけだけれど、場合によっては、その「過去の経験」や「一般常識」を覆すような発想が出てくるから油断がならない。この場合、単にガセネタといって切り捨てるのは気の毒な部分もある。
パターン 2 : 誤解・誤訳
これもありがちなパターン。ただしここでは、あくまで「うっかりミス」に該当するものということで。
以前に blog でネタにした「テクノバーン大誤報」が典型例。
旅客機と戦闘機を組み合わせて UAV の実験をした、と聞いて「常識的に考えて、大きい旅客機から小さい戦闘機を操縦したんだろう」となってしまい、誤報につながったのだと思われる。実は、旅客機の機内に UAV をシミュレートする機材を搭載して、随伴する戦闘機から遠隔操縦したわけだけれど。
外国語が絡むと、ちょっとした言葉のニュアンスを読み損ねたり、専門用語が分からないせいで解釈を間違えたり、というのはありがち。一般紙などの軍事関連記事では、この手のドジはチョイチョイ見られる。メジャーなところでは、階級の「Captain」に関する翻訳ミスとか。
パターン 3 : 誘導発言に尾鰭が付いた
ここから先はややこしくなってくる。
新兵器の受注を巡って競争している当事者が、自分の立場を有利なものにしようとして発言した内容がそのまま、あるいは尾鰭が付いて出回ってしまい、結果としてガセネタになるケースがある。
パキスタン向け JF-17 に装備する RD-93 エンジンについて、ロシア・中国・パキスタンなどの関係者がそれぞれ「輸出はできない」「輸出はできる」と相矛盾する発言が飛び出して混乱させられたのは、このパターン。
何も兵器取引の話でなくても、自社の立場を有利にしようとしてトップが舌戦を繰り広げるのは、よくある話。その過程でガセネタが入り込むこともある。このパターンで始末が悪いのは、なまじ当事者、ないしはそれに近いところの人間が発言するだけに、いかにも本物のように聞こえること。
どこの業界でもそうだけれど、会社のトップが自社製品に都合がいい、あるいは競合製品に都合が悪い発言をするのは、もう当然の話。それを第三者の予測なんかと同列に扱うのは、なんぼなんでも無理があると思う。
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パターン 4 : 意図的に紛らわしい情報を流した
わざと逆情報をつかませようとしてガセネタを流すもので、「パターン 3」の派生型。ただし、最初から勘違いさせることを企図している分だけ始末が悪い。
典型例は、20 年ばかり前に初めて出回った F-117A の公表写真。その写真を真に受けて、主翼の後退角が少ない図面があちこちで出回ってしまい、いざ現物が出てきたら「orz」となった。これはもう、最初から誤解させる狙いがあって、意図的にどうとでも取れる角度の写真を出したとしか思えない。米空軍の作戦勝ち。
これと「パターン 3」の複合型バリエーションで、国際社会から何かの理由で責められていて、かつ、独裁的な体制になっている国が、「国産の新兵器」に関する情報を次々に流して、自国の軍事力の凄さを誇示することで圧力を跳ね返そうとするパターンがある。具体的にどことはいわないけれど、当サイトにお越しになっている方なら、具体例は簡単に思いつくのでは。
パターン 5 : 思いこみの産物
「911 陰謀論」が典型例。ある結論にしがみつく人が、その結論にとって都合の悪い話を否定するために、意図的にガセネタを流したり、陰謀論に走ったりするパターン。
理詰めで考えれば排除できる場合にはまだいいとしても、いかにも「もっともらしい」ネタを流されると、コロリとひっかかる人が出てくる。「911 陰謀論」なんか、国会議員までひっかけている。
パターン 6 : 認めようにも認めることができなかった
新兵器の開発、あるいはその他の装備調達に関する、スケジュール遅延やコスト上昇に関わる話が典型例。こうした話題がメディアですっぱ抜かれたときに、その場で「ハイそうです」と認めるわけにいかず、とりあえず否定。後になって「実は遅れてました」「実はコストが跳ね上がってました」と認めるパターン。
各種のすっぱ抜き記事に対する企業の対応でもよく見られるパターンだけれど、すっぱ抜かれた時点で認めてしまうと、それは公式に認めてしまうということだから、公式に対応しなければならない。それができなくて、とりあえず否定せざるを得ない。すると、その時点ではすっぱ抜き記事はガセネタ扱いされるけれども、後で話が 180 度ひっくり返る。
このパターンと、すっぱ抜かれた内容を肯定的に見たい人、あるいは否定的に見たい人が結びつくと、往々にして喧嘩の原因になりそう。
このように、ガセネタが出回るといっても理由はいろいろあるわけだから、ガセネタと思われるもの、あるいはガセネタと確定しているものについても、単にガセネタといってひとくくりに切り捨てるのは危険、といえそうだ。後になって「新事実」が出てきて、そのせいで話が全部ひっくり返ることだってあり得るのだから。
これだから情報というのは難しいとも、逆に面白いともいえる。
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