Opinion : 防衛産業陰謀論者の無理・無茶・無謀 (2008/4/21)
 

先日、アメリカの業界団体・AAI のプレスリリースがあったのを受けて、「ほらみろ、自分がいっていた通りだったじゃないか」ということで blog にエントリを上げた。そしたら、それが「週刊オブイェクト」に飛び火して、それを受けて「はてなブックマーク」が大賑わいと、なにやら面白いことになってしまった。

発端になった拙稿「防衛産業って戦争でボロ儲けできるの ?」はそもそも、「アメリカの (防衛関連産業 | 軍産複合体) が、自らの利益を追求するために戦争を起こさせている」という陰謀論に対するカウンターオピニオンとして「現在では、そんな発想は成り立たない」という考えの下に書いた。あえて「アメリカの防衛産業」とは書かなかったけれども、なに、間違ってもロシアや中国の防衛産業が所謂反戦派による陰謀論の標的になることはないから無問題 :-)

というわけで、以下の内容もそれと同じ路線で続けることにして。ただ、いろいろ書いてみたらどえらく長くなってしまったので、小見出しを立てることにする。


話の前提

その後にライブしたフォローアップ記事も含めて、一連の記事で自分がいいたかったことは、突き詰めるとこういうことになる。

  • 昨今の戦争は長引かない場合が多い上に、(ボロ負けしない限りは) 正面装備の減耗は問題にならないぐらい少ない
  • だから、戦争だからといって正面装備の増産などやらない。やる必要がない
  • したがって、戦争が起きたとしても、正面装備の製造を担当しているメーカーにとっての利益にはならない
  • しかも現実には、特に大手ではモノを作るよりもシステム インテグレーションの方が事業主体になってきているという、産業構造そのものの変化もある
  • それ故、兵器メーカーが自らの利益のために戦争を起こさせるという主張は根拠が薄い
  • 実のところ、戦争によって多額の支出があるのは O&M (Operation and Maintenance) 経費や、後はせいぜい射耗した弾薬の補充分ぐらい

実際、AIA がまとめたレポートでも、「O&M 経費ばかりが嵩んでいて、装備調達費や研究開発費に回ってこない」と述べている。別件だが、最近「戦傷を負った兵士に対する医療費が嵩んでいる」として、これを対テロ戦争の経費に上乗せして計算したところ、ホワイトハウスから反論されたエコノミストもいた。仮にこの説を受け入れたとしても、医療費は兵器メーカーの懐には行かない。

実のところ、冷戦時代のように何か適当な「脅威」が存在する状況下で、それに対抗するための研究開発・装備調達におカネを使ってもらう方が、より確実な収入を見込める。1980 年代の「レーガン軍拡」で業界が潤った事実もあるし、本物の戦争を煽るよりも確実性は桁違いに高い。「モノよりシステム構築業務」という業界大手のトレンドにも符合する。そうでなければ以前に書いたように、湾岸産油国みたいなお金持ち国家に「大人買い」してもらい、本体に加えてその後のサポート業務まで請け負って長期的に稼ぐとか。

そもそも「戦争が起きたから、関連する仕事をしている会社が受注を増やした」が直ちに、「関連する仕事をしている会社が、受注を増やすために戦争が起きる事態を望み、状況をそういう方向に動かしているに違いない」という妄想につながる時点で話が飛躍している。これは、状況証拠があるから、それすなわち物証である、といっているようなもの。「A 氏がある道を通った後で、その道で B 氏の遺体が発見された。だから A 氏が B 氏を殺したのは間違いない」といっているに等しい。

いい加減にもう、錆び付いた「防衛産業陰謀論」「戦争公共事業論」にしがみつくのはやめた方がいい。拘泥し続けて「あれがダメなら今度はこちらで」とモグラ叩きみたいに珍説を繰り出し続けても、下で書いているようにモグラ叩き的に反論されて恥の上塗りになるだけだから。

そんな暇があったら、以下に示した 3 冊の本を、穴が空くほど熟読するようお薦めしたい。その方が、よほど「ため」になること請け合い。
   

ここまでで、普段と同じぐらいの分量を使ってしまった。ここから先が、今回の記事を投入するきっかけになったモグラ叩きゲーム。


「実は PMF が」説の間違い

AIA のレポートみたいな話が出てくれば、「防衛産業/軍産複合体陰謀論者」が面白かろうはずがなく、「はてブ」なんかを見ていると、もう必死になって反論している様子。その中でもありがちなのが、こういう主張。

「なるほど、正面装備を作っているメーカーは儲からないかもしれない。でも、兵站業務などを請け負っている会社は儲かっているのでは」
「戦闘が長期化して O&M 経費が嵩んでいる現状は、むしろ兵站業務を請け負う会社にとっては有利なのでは」

多分、これは KBR (Kellogg, Brown and Root Services) の不正請求事件や、同社と現副大統領の関わりに関する話が記憶のどこかにあって、「これだ !」と食いついたのだと思われる。実際、何かというと二言目には判で押したように「Halliburton、Halliburton」と連呼する人がたくさんいる。(だから Hallibutron じゃなくて KBR だってば。それに、前にどこかで書いたと思うけど、Halliburton は KBR 株を放出してしまったので、今では両社は無関係だ)

では、正面装備の製造を担当しているメーカーと張り合えるほどに、そして国家的に影響力を発揮できるほどに、この手の PMF (Private Military Firm) の事業規模って大きいんだろうか。ということで、DefenseNews.com が毎年まとめている「Top100」を調べてみた。

これは、防衛関連の売上 (Defense Revenue) の多い順に上位 100 社をリストにしたもの。リストに載っている 100 社のうち、アメリカ企業として載っているのは 41 社。実際には、EADS (蘭)、Thales (仏)、BAE Systems (英) といったヨーロッパの大手メーカーもアメリカでそれなりに大きい規模の商売をしているけれども、温情により (おい) 除外しておく。

この 41 社のうち、いわゆる PMF として知られた企業で顔を出している会社は… と調べてみたら、載っていたのはなんと KBR のみ。昨年に Baghdad で乱射事件を起こして名を売った Blackwater USA は出てきていない。

ともあれ、Top100 によれば KBR が記録した 2006 年の防衛関連売上は 64 億ドル。Top100 に載っている米国企業 41 社の防衛関連売上合計は 2,087 億 2,500 万ドルだから、そのうち KBR が占める比率は 3%、絶対額はともかく、業界全体における影響力という見地からすれば、意外なくらい小さい。それに、単体の企業として比較したところで、KBR の防衛関連売上を Lockheed Martin・Boeing・Northrop Grumman・Raytheon・General Dynamics といったメジャーどころと比べれば、1/3〜1/5 ぐらいでしかない。

念のために KBR の 2007 年度 Annual Report を確認してみたけれども、売上 (Revenue) 87 億 4,500 万ドル (民需関連も含む。ちなみに 2006 年の Top100 によると、同社の民需比率は 1/3 程度) に対して、所得 (Net Income) は 3 億 200 万ドル、率にして約 3.45% というところ。ボロ儲けというには、ちと寂しい比率。
そんなわけで、「正面装備のメーカーが駄目でも兵站系 PMF なら」という期待に添えるような数字は出てこなかったのだった。

実は民需を含む KBR の売上推移はこんな調子で、2004 年以降は連続下落している (2007 年版の同社 Annual Report より)。

  • 2003 年 : 82 億 4,400 万ドル (ちなみにこの年は赤字決算)
  • 2004 年 : 111 億 7,300 万ドル (ちなみにこの年は赤字決算)
  • 2005 年 : 92 億 9,100 万ドル
  • 2006 年 : 88 億 500 万ドル
  • 2007 年 : 87 億 4,500 万ドル
念のために DefenseNews.com の Top100 で防衛関連の売上を見てみると、2004 年の 80 億ドルが 2005 年には 75 億 5,200 万ドル、2006 年は先に挙げたように 64 億ドルと、こちらも下落している。米軍の仕事にしても、LOGCAP IV 以降は同社の独占体制が崩れて 3 社競合になったから、さらに減る可能性がある。

たいてい、こうやって数字を突きつけると「都合が悪いから、本当の数字は隠してるんだ」と反論してくるのがお約束だったりするんだけど、それなら隠しているという証拠を出すように。それができなければ単なる妄想だ。
あと、KBR の名誉 (?) のために書いておくと、以前にハリケーン (例のカトリーナだ) による被災の復旧工事を米海軍から受注したりもしていたので、それが終わった分だけ売上に響いた可能性はある。


ちょっと解説

このように、いわゆる PMF の商売の規模は、いわゆる兵器メーカーと比べれば小さい。そして、売上の絶対規模が小さければ、絶対的な儲けの規模も小さい。利益が売上より多くなる訳がないのだから。

軍の支出レベルでは装備調達費より O&M 費の方が多いのに、上で書いた KBR みたいな話になるのはなんで、と思われるのも無理はない。でも、なにも O&M 費は兵站系 PMF だけに支払われているわけではないのだから、不思議でも何でもない。行き先が違うだけ。

たとえば燃料代。米空軍は 2005 年に 42 億ドルの燃料代を使っている。最近は石油が高いから、もう KBR の防衛関連売上を超えているかもしれない。海軍や陸軍や海兵隊の分をプラスすれば、もっと増える。さらに、戦地手当などの加俸だって O&M 経費の一部だ。そのほか、人やモノを運ぶ経費、通信経費、戦傷者にかかる医療経費、そしてもちろん弾薬などの消耗品と、戦時にかかる運用・作戦経費の類は多種多様。

これについてもちょっと嫌味を書くならば、石油価格が上がれば燃料代が嵩むのだから、O&M 経費も増える。だったらわざわざ、石油価格上昇の原因になりそうな中東で戦争を起こすのは、国家としての儲けという観点からすれば理に適っていない。石油価格が上がるとアメリカ経済に響くのは過去の例からいって明白だし、米空軍では石油価格高騰対策として代替燃料の研究を進めている状況だったりするのだ。

それに、精密誘導兵器が増えたおかげで爆弾・ミサイルの消費は減っている。増えたのは銃弾の消費ぐらいだけれども、銃弾の単価っていくらよ。それに、何かというと鬼の首でも取ったかのように名前を出される KBR は銃弾メーカーではない。米軍の銃弾をどこで作っているか即答できる人が、何人いるだろう ?

こう書くと今度は、「どっちにしても、軍の仕事を受けている "どこかの会社" に落ちるカネが増えているのは事実じゃないか」と反論してくる人がいる。いやちょっと待て、最初に「軍産複合体が」とか「KBR が」とかいってたのは誰だ ? それだったら最初から、「軍産複合体が」とか「KBR が」とかいう主張をする意味はないじゃないの。


「予測が外れただけ」説の間違い

うちの blog のコメント欄でもあった主張で、「AIA の主張は、当初の見込みが外れて OIF が長期化した結果によるもの。当初の見込み通りならこういう結果にはならなかったはず。だから、AIA の件を引き合いに出すのは間違い」というのがある。もっともらしく聞こえるけれども、実はこれ、子細に検討するとムチャクチャだと分かる。

「戦争が長期化して装備の損耗が多発すれば、それの修理・補充で需要が見込める。だから戦争をけしかけた」と仮定 :
しかし、最終的に戦争をするかどうか決めるのは政治家と議会。そこに「我々の業界に利得をもたらすために、長期的に泥沼化する負け戦の戦争を仕掛けてください」と焚きつけるなんて無理がありすぎる。(注 : 長期的に泥沼化する勝ち戦という選択肢は、可能性はあっても現代では政治的に許容できない。また、負け戦と分かっていて戦争させるシナリオで政治家を納得させるのは不可能。誰だって戦争は勝つつもりで始めるものだ)

実際には長期化・泥沼化すると予測しておいて、「短期に大勝利でケリがつく戦争だから仕掛けてください」とダマカシて焚きつけたと仮定 :
そうなれば、「それじゃ装備の調達は増えないから、利益にならないだろう。つまり業界の利益のために戦争を起こさせる必然性はない」と思われるのは明白。短期の勝ち戦で装備の損耗なんてロクに発生しないのはサルでも分かるし、湾岸戦争という前例もある。これは、正直に「短期にケリがつく」と予想していた場合でも同様。

↑の予測の部分まで正直にぶちまけたと仮定 :
先に書いたように、それを真に受けて戦争を起こさせる政治家はまずいない。ただでさえ、「戦争を始めた政治家」というレッテルを貼られればイメージに響くし、しまいには陰謀論のネタにされて後世まで名が残ってしまう可能性すらあるというのに。そんなリスクを負いたがる政治家がいるだろうか ?

「『短期決戦でカタがつきますから』と騙して戦争させれば、実際には新手の脅威がいろいろ顕在化して長期化・泥沼化、結果として商売ネタができて儲かるだろう」と、そこまで考えて政治家を焚きつけて戦争を起こさせたと仮定 :
なるほど、OEF/OIF で IED など新手の脅威が顕在化したのは事実だし、それに対抗するための研究開発や装備調達に資金が投じられているのも事実。しかし、そこまで事前に見込むシナリオは仮定の要素が多すぎて、企業の経営戦略としては、あまりにも不確実性が高い。業界関係者が実はアルカイダ関係者で、一方で戦争を仕掛けさせて、他方でそれに対して新手の脅威 (= めしのたね) を提供させる、いわば自作自演の構図になっているというのでもなければ、こんなシナリオはあり得ないと断言していい。

短期決戦だけれども多大な損耗が出て、業界に利益をもたらすと考えて戦争を焚きつけたと仮定 :
湾岸戦争以後、極めて少ない犠牲でパーフェクト ゲームができるという常識ができてしまったことを忘れている。ソマリアで 19 名の米軍兵士が死亡した際に大騒ぎになったのを忘れたのだろうか ?

つまり、業界が「短期でカタがつく」と考えて戦争させたと考えようが、「長期戦になって泥沼化する」と考えて戦争させたと考えようが、現代では話に無理が出てくるのは同じことで、そもそも陰謀論が成り立たない。「長期戦になるけど泥沼化しません」なんておめでたい戦争の仕方、あっただろうか ? ていうか、言葉に矛盾がある。

これは、陰謀論者がいうような「KBR が現副大統領を焚きつけて、自社に商売のタネをもたらすために戦争させたのだ」という考え方にも、同様に適用できる。短期決戦でカタをつけてとっとと凱旋帰国するのでは、大して仕事のネタにならない。長期化・泥沼化するつもりで焚きつけたのだとすれば上に同じ。


「戦争は公共事業」説の間違い

ちなみに、「戦争は景気回復につながる公共事業である論者」の言い分についていえば、かつてはそれなりの妥当性があった。第一次世界大戦から第二次世界大戦までは。

この頃には、GDP に占める防衛関連支出の比率が今とは比べものにならないくらい高かったし、戦争遂行のために国家のあらゆるリソースを投入する結果になったから、結果として防衛関連支出の影響力は大きく、公共事業に近い効果を発揮した。これは認める。だから戦後になって、反動と後始末のために不景気に見舞われたりもした。

ただしそれは遠い過去の話なんであって、2001 年以降に増えたといっても対 GDP 費で 4-5% 程度でしかない現在のアメリカの防衛関連支出が、国家経済に対して死活的に大きな影響をもたらすとは考えにくい (これは以前にも書いた)。この辺の話は、先日に読んだ「戦争の経済学」(ポール・ポースト著, 山形浩生訳) に書いてあった話とも符合する。

実は、これだけ対 GDP 比が低水準になったアメリカですら、まだ率としては多い方であり、イギリス・フランスはもうちょっと少なく、その他の NATO 加盟国なら 2% 前後のラインまで下がる。国家経済に大きく影響しそうなレベルの防衛関連支出をやっているのは、メジャーどころでは北朝鮮ぐらいのもんだ。

欧米先進諸国では、戦争を始めたとしても「国家総力戦」になっていない点に、この論の落とし穴がある。平時と同様の "business as usual" で、その横で一緒に戦争「も」しているというのが現状。それでは戦争のための支出の影響力も知れている。むしろ、戦争が消費者マインドを冷やして景気の足を引っ張りかねない。

そして、欧米先進諸国では国家経済に占める戦争経済の比率が低くなっている以上、その業界の利益だけを考えて、他の業界に不利益をもたらすような政策 (戦争) をとるのは、政治家にとっては政治生命を危うくする行為でしかない。ましてアメリカの政治家なら、何かというと陰謀論のネタにされるのだから、なおのこと。中国がどこかで戦争を仕掛けたり紛争に関わったりしても、誰も「NORINCO が儲けるための陰謀だ」とかいうことはいわないから、それならまた話は違うけれども。

というわけで、この説を唱えるのは 70 年遅い。タイムマシンで国家総力戦の時代に行ってやってもらいたい。


もしも、特定の企業ないしはその他の集団 (別の国家も含む) の利益のために国家が戦争に巻き込まれる可能性があるとすると、それは政情不安定で規模が小さく、経済が発展していない発展途上国の話だ。特に、誰もが欲しがるような天然資源を豊富に産出する国であれば、そうなる可能性は高くなる。アフリカで発生する紛争には、そうした事例が少なからずあるだろう。

ただ、陰謀論者がそうした戦争に取り組むことは基本的になくて、彼等は「アメリカが起こした戦争」にしか目が行かない。ところが、欧米、あるいは日本みたいな近代民主国家では、特定の企業というか、いわゆるひとつの闇の勢力 (笑) のために国家の命運が左右されると主張するには、ちと状況が複雑すぎると思う。なんにしても。理詰め & 数字で反論しても、「隠されている」「闇の〜」「陰の〜」で済ませてしまうことができるのだから、陰謀論者ってのはお気楽な商売だと思う。

ついでだから、「闇の勢力 (笑)」というのを流行らせてみたいと思うのだけれど、いかが ? (おい)

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