Opinion : マクドナルドとホットドッグと KC-X と (2008/8/4)
 

「暑くてかなわん」という理由で真夏の横田に行かなくなって久しいけれども、なぜか横須賀にはよく通っている。昨年 12 月に USS Kitty Hawk (CV-63) 最後の一般公開を見に行った横須賀に、また行ってきた。

今回、フネ見物は海上自衛隊側だけで、米軍側ではアメリカンな食い物大会。私は行かなかったけれど、御一緒した方の中には基地内のマクドナルドに行って「ドリンクが M サイズなのに、こんなにでかい」と大ウケしていた方も。ええかげんに使い古されたネタではあるけれど。

御存じない方のために説明すると、海軍基地ではマクドナルドがバーガー屋として入っていて、本国と同じメニュー (だと思う) をドル建てで売っている。したがって、分量もアメリカ本国基準。
海外に赴任していても本国と同じ生活を維持できるようにする、という考え方については賛否両論あるだろうけれど、我々が海外に行ったときのことを考えれば、気持ちは分かる。


数時間ばかり「フェンスの向こうのアメリカ」で過ごしただけでも、日本とはノリが違うなあというのは感じられる。そもそも備品がいろいろとアメリカンで、たとえばゴミ箱なんか、昔のアメリカ映画に出てくるのと同じような、ブリキのでかい奴だったりする。いや、ゴミ箱の話はともかく。

ドリンクに限らず、何でも食い物の量がやたら多いとか、ホットドッグを頼んだらパンを切ってソーセージを載せただけの状態で出てきて「辛子とケチャップは自分で好きなだけかけろ」といわれるとか (これがまた、ボトルがでかいんだ)、そんな些細なところにも、アメリカ的なカルチャーを感じる。

阿川尚之氏の「アメリカが嫌いですか」という本の中で、「アメリカという国の根底にあるのは、plenty という考え方だ」という話が出てくる。一般的な「豊富」とか「多量」とかいうレベルじゃなくて、「有り余る」ぐらいのノリだというのが阿川氏の解説。

確かに、ドリンクの量も、戦争するときの物資の使い方も、根底には plenty を旨とする考え方があるんだろうなあ、と納得してしまう。MRAP が有用だ、となった途端に 15,000 両も発注をかけてしまうフットワークの軽さと猪突猛進ぶりも、根底には「人命を失うぐらいなら、カネとモノをドンドン使え」という考えがあるのだろうし。

「辛子とケチャップ」の話は、さしずめ "help yourself" の考え方だろうか。一般にはこの言葉、「遠慮しないで好きなように」と訳されるようだけれど、「他人がなんとかしてくれると思わないで、自分のことは自分でちゃんと面倒見ろよ」という意味もありそう。
これをホットドッグの話にこじつけると。ホットドッグの味付けをどうするかは人によって好みがバラバラ、それだったら素材だけ渡して好きなようにさせる。その代わり、結果については自己責任、ということかなと。

MSKK では、誰かが旅行に行ってくると、お土産のお菓子をオフィスの廊下にあるテーブルに置いて "help yourself" とメモを貼り付けるのがお約束だった。いちいち個人の席に配って回ったりしない。とりたい人がとって食べる、でも一人で全部喰うような真似はしない、という暗黙のルール。って、これは上の話とはだいぶ違うか。

ただ、こんな習慣ひとつとっても「自分が馴染んできた社会とは、ちょっと違うルールで動いてるなあ」という感じはした。アメリカの会社で仕事をしたとか、米軍基地にチョイチョイ遊びに行くとかいう生活を通じて、アメリカ的なるものに接する時間が普通より多くなってるのは確かかも。


この辺の話を強引にくっつけると、アメリカという国は plenty を前提にしているんだけれども、それは自分で主張して、声を上げて、行動を起こさないと手に入らないものなのではないかなと思う。それだからこそ、結果の平等より機会の平等を重視する。こういう基本的なエトスは、ビジネスでも外交でも軍事行動でも、何かしら反映されるものなのでは。

そう考えると、KC-X をめぐる Northrop Grumman と Boeing の泥仕合ぶりにも納得がいく。日本的な感覚からすれば、Boeing が何かいう度にものすごい勢いで反論のプレスリリースを出す Northrop Grumman は、「そんなことしたら、却って反感を買って悪い結果につながるんじゃないか」と思える。それに、自分なんかの感覚で見ると、そのプレスリリースが最近では、なんだか「おまえの母ちゃんデベソ」のレベルになってきているように思えるし。

けれども、そもそも彼の国では「黙っていたら何も手に入らない。しっかり主張しないとダメ」という考えが普通なら、Boeing が新聞広告を出したときには必ず反論しておかないとまずい、と Northrop Grumman が考えるのは自然な話。にしても、モノをいうにもやり方ってものがあるだろうと思うけれど…

ひょっとすると、何かにつけてロイヤーという「(阿川尚之氏がいうところの) プロの言い張り屋」が出てくるアメリカの流儀も、背景にはこれと同じ考え方があるんだろうか。なんてことも考えてみた。当たってるか外れてるかは分からないけれど。

なぜか、マクドナルドのドリンクとホットドッグの話が、いつのまにやら KC-X をめぐる泥仕合の話になってしまったけれども。
日常的なところに散見される「お国柄」を通じて相手国のエトスを知っておくことは、その国とどう付き合っていくかを決める上で、あるいはその国の出方・行動パターンを予測する上で、案外と重要だといえるんじゃないかしらん。喧嘩するにしても、仲良くやって行くにしても。

何もアメリカに限らず、他の国でも同じこと。試合よりもイベントそのもの、あるいは観戦行為をエクストリーム スポーツにしてしまった北京五輪だって、中国的なるもの、というか中国共産党政権的なるものの、根本的なエトスが絡んでいそうだし。

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