Opinion : アップグレード改修の損得勘定 (2008/8/11)
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軍事問題、というか兵器の世界に関心を持つと、よく遭遇するのが「アップグレード改修して使い続けるのが得か、新しい装備にリプレースするのが得か」という議論。
陸自の 74 式戦車に関して「アップグレードして使い続ければいいのに、なんだって TK-X を新規開発してるんだ」と批判する人、その一方では「F-15 の改修費用を財務省に要求している防衛省は怪しからん、Typhoon の新品を買ったって同じぐらいの値段だろう」と批判する人。
さらにイスラエル好きが混じると「魔改造」とかいう呪文を唱え始めて、もうわけわかめ。
実のところ、あらゆるケースで「アップグレードの方が得」とも「リプレースの方が得」ともいいきれる訳がない。そんなもん、ケース・バイ・ケースに決まってます、以上。
というだけでは不親切なので、もうちょっとまじめに書くと。
アップグレード改修した方が得、となるのは、基本的には「ドンガラはまだまだ使えるのに、アンコだけ陳腐化した (または、保守に手間や経費がかかる)」で、かつ「リーズナブルな経費でアップグレードできること」という条件に当てはまる場合と考えられる。特に最近では電子機器やコンピュータ、ネットワーク関連の性能向上が速いので、ドンガラと比べるとアンコの陳腐化が速くなった。
たとえば F-15 は、Su-27 や Su-30 が出てくると辛くなってくる可能性があるとはいえ、まだまだ多くの場面で一流品として通用する機体。ただ、1970-1980 年代のテクノロジーで開発したレーダーや電子戦装置、コンピュータはいい加減に古くなってきているから、それをすげ替えれば良い、という判断は成立する。
AFV の世界でも、ドンガラはそのまま使って、電子機器や、場合によってはエンジンを載せ替えて使い続けるケースが多い。M1 戦車なんかまだ可愛いもので、イギリスの FV432 なんか、本当にドンガラ以外は総取っ替えに近い状況になっている。
ここで新しい装備にリプレースするとなれば、支援インフラも訓練体系もみんな仕切り直し、運用のノウハウも学習し直し、手持ちのスペアパーツはゴミになる、ということで、機体や車両の値段以外の経費がいろいろかかってくる。そこまで含めて損得勘定の計算をしないといけないので、アップグレード改修の経費と新品の単価だけ比較して議論するなんて、意味なし。わかった ? > 誰とはなく
ただし、もともとの設計に余裕がないとか、ドンガラの部分が陳腐化してきているということになれば、たとえまだ寿命が残っていたとしても、アップグレード改修は高くつく。それなら新しい装備にする方が費用対効果が高い、と判断するケースも出てくるはず。
日本の例でいえば、F-15J はまだまだ使えるし通用するけれども、F-4EJ は交代させないといけない、という類の話。F-4EJ を魔改造して AAM-4 と AESA レーダーと曳航式デコイを載せる、なんてことになれば好き者は喜ぶかもしれないけれど、率直にいって税金の無駄。
あと、適当な代替製品がないために仕方なく、アップグレードに次ぐアップグレードをやっているケースもある。その典型例が、B-52。予算さえちゃんと確保できていれば、RB211 か CF6 あたりにリエンジンして 4 発化する話だって実現したかもしれないけれど、今の米空軍の予算事情だと無理そう。
自作 PC を扱っている人なら、この辺の損得勘定は理解しやすいと思う。うちの主力 PC なんか典型例だけれども、ドンガラ、つまりケース以外はすべてのパーツが入れ替わっていて、もはや当初とは別物。無印 M1 戦車を改修して M1A2 SEP V2 仕様にしたような状態。
でも、同じ ATX フォームファクタのままで、電源ユニットも物理的に交換可能だったからこそ、こういうことができる。マザーボードのフォームファクタがガラッと変わるとか、電源を換装しなければならないけれども物理的に交換不可能、とかいう話になれば、ケースごと交換していたはず。
この手の話における判断基準って、戦闘機や爆撃機や AFV や艦艇をアップグレードするかリプレースするか、の判断にも通じるものがあると思うけれど、どうだろう。
そういえば、鉄道車輌の世界ではアンコを流用してドンガラだけ使い回すケースが過去に散見されたけれど、これはアンコより先にドンガラが傷んで寿命になるから。今後は、こういうケースはほとんど出てこないと思う。
理想をいえば、アップグレードして長く使い続けられるものを最初に作れ、という話になる。でも、それはそれで将来余裕を当初に抱え込まなければならないから、余分におカネがかかる。あと、最初に予想した進化の余地、あるいは進化の方向が正しければいいけれども、予想が外れると悲惨なことになるのも事実で、難しいところ。
ともあれ、アップグレードするにもリプレースするにもそれなりの理由ってものがあるので、all or nothing の罠にハマって「アップグレードしないなんてダメ」とか「アップグレードするなんてダメ」とかいった具合に単純二分するのは、どんなもんだろうかと思った次第。
でも、特にアップグレード至上主義者の場合、理由は何でもよくて、要は「新しい装備を調達するのが気に入らない」というだけだったりするのかも知れない。イチャモンつける理由があれば何でもいいと。
逆に、冒頭で書いた「F-15 の改修費用を財務省に要求している防衛省は怪しからん、Typhoon の新品を買ったって同じぐらいの値段だろう」と批判している人にしても根っこは同じで、要は防衛省が予算を要求しているのが気に入らないだけ、じゃないかと。
もしも防衛省が「新品を調達する予算」を要求していれば、この手の人は正反対のこと、つまり「既存の F-15 をアップグレードして使い続けるべきだ」なんて主張をしていそうだ。
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