Opinion : 誤報と暴走とページビューと (2008/8/18)
 

一部では「軍事の東スポ」との異名をとる、「テクノバーン」というサイトがある。本業は株式関連の情報を流すサイトであるらしいのだが、それとは別にテクノロジー関連のニュース記事を載せていて、特にその中でも軍事関連の記事で午砲、じゃなくて誤報が多いというもっぱらの評判。

過去の誤報の事例を観察してみると、ソースは別に怪しくないのだけれど、外国発の元記事を日本語版の記事にまとめる際に間違いが入り込む、といったケースが多いように見受けられる。昨日、blog に書いた「ロサンゼルス州バークスデール空軍基地」の一件も、その前に blog でネタにした「意味を逆にしてしまった一件」も、このパターン。

海外から面白そうなニュースを拾ってきて紹介しよう、というコンセプトについては、何も問題はない。とどのつまり、内輪に詳しい人がいなくてチェック体制が甘いから、結果として誤訳や誤報を続発させているのだろうなあ、というのが個人的な推測。空母のことを「航母」と書いたあたりに、原因の一端が伺われる… のか ?

もっとも、何もテクノバーンに限らず、大手の新聞・テレビだって似たようなもので、誤解・誤訳、あるいは先入観や社としての方針 (おい) が邪魔をして、結果的に不正確な情報を流してしまうことはある。それはそれとして。


商売として Web サイトを運営している場合、指標になるのはページビュー。つまり、記事をライブした後でどれだけのアクセスを集めたかが、記事の評価や広告集めの際の営業に関わってくる。そういう意味では、新聞・雑誌が部数、テレビが視聴率を尺度にしているのと似ている。

マスコミの Web サイトでも、個人の Web サイトや blog でも、やはりアクセスを集めやすい記事・集めにくい記事というのはある。誰でも多くの場合はアクセスが多い方が嬉しいから、「どうやったらアクセスを集められるだろう」と考えてしまう。それを単純にダメって決めつけるのは無理がある。

ところが、ページビューを稼ぎたい、という願望の度が過ぎると、面白おかしい記事を拾ってくる、あるいはこしらえることに熱心になりすぎて暴走したり、拾ってきたネタに対するチェック体制が甘くなって誤報が伝統芸になってしまったり、といったことが起きる。

テクノバーンの一件にしても、毎日新聞の「WaiWai」の一件にしても、ウケ狙い・面白おかしさの追求・ページビュー稼ぎと、内容の良し悪しに関する判断・正確性に関するチェックのバランスが崩れたところに、問題の一因があったのではないかと思った。もっとも毎日の場合、紙媒体の頃から同じような調子でやっていたようなので、問題の根っこは深い。

あと、両者とも問題が出た後の対応というか、火消しがヘタすぎる。テクノバーンは誤報した記事を丸ごと 404 にしてトンズラーを決め込むし、毎日新聞社は止せばいいのに「法的措置」などのガソリンをぶちまけてしまった。対応さえ間違えなければ、もうちょっとマシな結果になっただろうに。

確かにページビューは重要だけれども、送り手も受け手も、それにベッタリ依存してしまっていいものかどうか。

ニュース系のサイトだとたいてい、「昨日のアクセスランキング」とかいうのを載せているのはお約束。見る側もそれに頼って「アクセスが多い (= 話題になっていると思われる) 記事なら見ておかないと」となってしまえば、アクセスが多い記事ほどますますアクセスを集めて、そうでない記事はますます沈む。「はてブ」みたいなソーシャルブックマークにも似た傾向があって、「注目エントリ」といって紹介されるとアクセスの拡大再生産になる。

なんのことはない、これってベストセラーのランキングに頼って「とりあえず売れている本を買っておく」という本の買い方と似ている。でも、それだけでいいのかなあ ?


新聞・雑誌、あるいはテレビと Web が違うのは、Web はいったんライブした記事がずっと残っていて、(意図的に消さない限りは) 同じ場所で公開され続けるということ。だから、雑誌と違って、同じネタの使い回しが効かない難しさがある。ところがその一方では、当初はあまり注目されていなかったものが、後で何かの拍子に注目を集める場合もある。

これが、パッと送り出したらその場限りといっていい新聞やテレビの瞬間芸的なところと、Web が決定的に違うところ。雑誌の場合、週刊誌なんかは新聞・テレビと同列に扱っていいだろうけれど、趣味性の高い専門誌の類だと、どちらかというと Web に近いかもしれない。

僭越ながら私のサイトの場合、ライブしてから 2 年以上、延々とあちこちで URL がコピペされ続けている記事が「防衛産業って戦争でボロ儲けできるの ?」。これ、ライブした当初は (特に自称反戦派の人から) ボロクソにいわれたものだけれど、結果的に自分がいった通りのことが起きているではないか、という状況になってきている。うーんロングテール (違)

自ら商業用の Web 媒体で記事を書いている立場でこれをいうのもナンだけれど、Web には Web なりの、長期的に結果を見られるような評価の尺度というのが必要ではないかなあ、なんてことを考えている今日この頃。

多分、個別の記事を単位にして見るだけではなく、サイト全体のページビューがどう変動しているか、を見ることが必要なんだと思われる。ただし、時間が経つと記事はどんどん増えていくわけだから、単なる総数ではなくて、記事 1 本あたりの平均ページビューを見るとか。あと、リモートホストで「誰が見に来ているか」をある程度は把握できるから、その情報も活用できそう。

ライブ直後の瞬間最大風速的なページビューの立ち上がりは無論、無視できない。でも、そればかりを気にしていると、また第二・第三の「テクノバーン」や「WaiWai」みたいなのが出現するんじゃなかろうか。

個人のサイト・blog でも、ウケようと思って一線を踏み越えてしまい、公序良俗に反した話を勢いで書いてしまった結果が大炎上、なんて事例はいくつもあるわけで、あまり他人事じゃない。大マスコミも個人も同様に、注目される可能性・炎上する可能性を抱えているのが Web の世界であるわけだし。

ただ、商売でやっているサイトの場合、サイト運営側だけがこれをいってみても始まらないので、おカネを出す側の理解というか見識というか、そっちに頼る部分が大きいのが難しいところ。なんのことはない、テレビで「視聴率 vs 番組の質」のせめぎ合いをやるのと同じか。難しいなあ。

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