Opinion : グッドライフで戦争不要 ? (2008/8/25)
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10 日ばかり前に、すごい寝言に接してしまった。
領有権を巡る21世紀の解決スタイル
特に「口あんぐり」だったのが、この一節。
人間は民族紛争、宗教戦争を繰り返しているが、根本では「幸せになりたい」「グッドライフを得たい」ということが共通の目的である。
(中略)
紛争の原因とされる民族や宗教は言い訳のようなものにすぎない。グッドライフが手に入る状況が目の前に来れば、誰でも紛争などやめてしまう。
前段はともかく、最後の一節はノーテンキ過ぎやしないかと。
件の記事にとりあえず突っ込むとすると、「(少なくとも国家の単位では) グッドライフを手に入れている国でも、実際には戦争や領土紛争を起こしてますが何か」というところだろうか。
そういえば、先日のグルジアでの紛争について「アメリカが陰で糸を引いたのだ」とか「アメリカがグルジアを焚きつけたのだ」とか言う陰謀論を吹いている人がいるそうだけれども、そのアメリカは経済統計で見る限り、世界でもっとも豊かな国といっていい存在。グッドライフを謳歌している、あるいはグッドライフに近いところにいるはずの国が、一方ではあらゆる戦争の原因みたいに言われているのが現実。
そういえば、経済が絶賛急成長中 (ということになっている) 中国が、一方ではあちこちで資源欲しさの砲艦外交 & 領土拡張を目指したり、力ずくで分離独立派を弾圧したり、台湾相手に武力行使をちらつかせたりしているのだって、説明がつかなくなってしまう。
え、アメリカの国内は格差問題が酷くて、グッドライフとは程遠いって ? いや、そんなことを言い出したら、世界のどこの国にだって格差はありますから。だから上の方では「国家の単位では」って但し書きをつけた。ミクロ的なことをいいだしたらキリがないから。
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それに、グッドライフを手に入れようとして戦争、あるいは内戦を起こした事例なんて、それこそ掃いて捨てるほどあるんじゃないの、と突っ込んでみたい。「隣国からの借金を踏み倒そうとした」とか「自国にない天然資源を産出するエリアを手に入れようとした」とか「天然資源の分け前が少ないといって政府に反旗を翻した」とか。
政府に対する国内の不満を逸らすために戦争をおっぱじめた、なんていうのも、少なくとも為政者の立場からすれば「グッドライフのための戦争」といえる。
そういった事例を無視して、「グッドライフが手に入る状況になれば、紛争なんて止めてしまう」と断じるのは、仮に領土問題に限定した話だとしても、ちと乱暴に過ぎるというもの。ときどき、そういう風に見える事例もあるかもしれないけれども、それは決して「グッドライフ」だけが理由ではないはず。
じゃあ、領土紛争でも何でも、どうすれば戦争以外の方法を選択するのかといえば、基本的には「戦争が割に合わないと判断した場合には、戦争は起きない」。もちろん例外はあるけれども、多くのパターンはこれじゃないかと。
「割に合わない」には、いろいろある。たとえば、「敵対勢力が味方の勢力と比べて強すぎる」「戦争に必要な装備・物資の支援が得られそうにない」「強力なリーダーがいない」といった具合に。
たとえば、内戦が発生するケース。
「我が国の政治には問題がある」となったときに、誰も彼もが反政府武装闘争に走る訳じゃない。いわゆる西側先進諸国では、そんな考え方は超マイノリティだし、国民的な支持もない。レジームチェンジしたければ、選挙での勝利を通じて実現しようとするのが常識になっている。
ところが、ところ変われば品変わる。場所によっては「我が国の政治には問題がある」となると反政府武装闘争に走るケースもある。民主的な選挙が成り立たないから力に訴えるしかない、しかも装備・物資を支援してくれるスポンサーがいる、あるいは話し合いなんてかったるい、といった理由で。そういう紛争が終結するのは、「どちらかがボコられて完敗した」「人・モノ・カネといったリソースを使い果たして戦争できなくなった」といったところ。
ただし、ときには「割に合わないと分かっていても、やけっぱちで戦争を始める」事例もあるから要注意。あと、最初は割に合うはずだったのが、第三者が介入してきたせいで計算が狂って泥沼化、なんて事例もある。結局のところ、「○○だから戦争になる」「△△だから戦争にならない」と単純二分できるものじゃない。
特に領土紛争なんていうのは、損得勘定抜きで「意地」とか「メンツ」とか「国内政治事情」とかいったものを動機として発生する場合もあるのだから、グッドライフだけに原因・解決を求めるのは無理じゃないのかなあ ?
だから正確にいえば、「グッドライフを手に入れる手段として、戦争とその他の選択肢を天秤にかけて、その他の選択肢の方が有力になる、あるいはその他の選択肢を用いざるを得ない」場合に、戦争回避につながるということだと思うのだけれど、どうだろう。そして、そういう「戦争が割に合わない」状況を作るのが、戦争/紛争の抑止ということ。
いつもいっているように、国家同士、あるいは国内勢力同士の関係・状況なんて場合によりけりなのだから、ある国・ある地域で用いているメソッドが、別の国・地域にそのまま適用できるはずもなく。自国が置かれている状況の中で、利害の対立があるのは誰で、それぞれの陣営が持っている手札は何で、その中でどういう状況を作り出せば戦争のコストを高めて抑止できるか、を考えるのが筋じゃないかと。
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