Opinion : 変身するのがお好き ? (2008/10/13)
 

先日、ロシア海軍の演習で弾道ミサイルの試射を実施した。それに関する報道の中に、ブッ飛んだものがあって、こんなことを書いてあったそうだ。

今回、発射されたミサイル「シネワ」は、最終段階で弾頭が分離して巡航ミサイルになるため、弾道計算で運用される MD システムでは対応できないともいわれる。

ちなみに、ネタ元は産経新聞。何考えてるんだかなあ。

そういえば、「テポドン祭り」の時にも「テポドンは発射後に巡航ミサイルに変身する」と与太を飛ばしていた人がいたっけか。弾道計算だけで要撃するのなら、何のために MD 用の迎撃ミサイルがレーダーや赤外線シーカーを備えているのかと問い詰めたいところ。


話を整理するために、まず「巡航ミサイル」と「弾道ミサイル」の定義について。

平たくいえば、V1 号は「巡航ミサイル」、V2 号は「弾道ミサイル」。と、それだけでは不親切だから、もうちょっと丁寧に書くと、「飛行機と同様にして飛ぶ有翼の飛翔体 = 巡航ミサイル」、「弾道飛行を行うロケット推進の飛翔体 = 弾道ミサイル」ということになる。推進手段や速度の問題ではなくて、飛翔形態の問題。

次に、「要撃が難しい経空脅威って何よ」という話。ものすごく単純にまとめると、「速い・機敏」「見つけにくい」といったあたりだろうか。

まず「速い・機敏」。スピードが速いと、要撃する側は時間的余裕がなくなるし、迎撃に使用する砲熕兵器やミサイルにとっては、迅速かつ精確な飛翔が求められて、その分だけ制御が難しくなる。相手が敏捷性に優れていて回避機動をとると、さらに要撃が難しくなる。一直線に飛んでくれる方が楽。

次に「見つけにくい」。BGM-109 Tomahawk は、速度を犠牲にして、代わりに地形に紛れて低空を飛翔することで探知を避けている。AGM-129 ACM や AGM-158 JASSM は、ステルス性を持たせることで探知を避けている。探知されにくくなると、要撃する側にとっては相手が近くまで来てから慌てることになるので、これまた時間的余裕がなくなる。
あと、飛翔体そのもののサイズを小さくするのも、見つけにくくする方法のひとつ。うまくいけば、ターゲットに突入するまで見つからずに済むかも知れない。

では、どうして弾道ミサイルが「迎撃困難な究極兵器」と見なされてきたかといえば、スピードが速く、発射から着弾までの時間が短い。しかも大気圏外からマッハ 10 とか 20 とかいうスピードで突っ込んでくる上に、再突入体を分離するタイプではサイズの小型化にもなるので、ますます要撃が難しくなる。一般に、戦域レベルの弾道弾よりも ICBM の方が迎撃困難とされるのは、速度が速くなる上に再突入体だけが突っ込んでくるから。

それと比べると、巡航ミサイルの速度は一桁遅い。BGM-109 は亜音速だし、超音速のミサイルでもせいぜいマッハ 3 かそこら。アメリカの RATTLRS (Revolutionaly Approach to Time critical Long Range Strike) や FALCON (Force Application and Launch from the CONUS) に代表されるように、スクラムジェットエンジンを利用して極超音速飛行を行うミサイルを開発する構想も出てきているものの、まだデモンストレーターを開発している段階だし、実現したところで、まだ弾道ミサイルよりはるかに遅い。

これらは、急を要するターゲット (time critical target) が出現したときに、相手が逃げたり隠れたりする前に遠方から迅速に攻撃するために、極超音速性能を求めたもの。結果として SAM による要撃も難しくなるだろうけれど、それは二義的なお話。


といった話を念頭に置くと、「弾道ミサイルが終末段階 (それ以外のフェーズでも同じだけれど) で巡航ミサイルにバケラッタするので迎撃困難」という話のイカれっぷりがよく分かるというもの。せっかく、超高速で弾道飛行する究極兵器として発射したものを、わざわざスピードが遅い巡航ミサイルに変身させたところで、(回避機動をとったとしても) 却って要撃されやすくなるだけ。それなら MaRV (Maneuverable Reentry Vehicle) 化して、終末段階で回避機動を入れる方が理に適っている。

しかも、終末段階で巡航ミサイルに変身するなんていったら、巡航ミサイルとして成立し得る速度域まで急減速して、かつ有翼機として飛翔するためにコースも変換しないといけない。

小型の再突入体を巡航ミサイルに変身させようとすれば、そのため必要な「ブレーキ」「主翼」「エンジン」「燃料」を、いったいどこに収容しておくのかと訊いてみたい。普通の再突入体に、そんな余分なスペースはない。では、大型の弾道ミサイルをそのまま急減速させて針路変換・巡航ミサイルに変身させようとすればどうなるかというと、弾体が G に耐えられないで壊れそうだ。

ついでに書いておくと、弾道ミサイル並みの速度性能を発揮して機動性にも優れた極々超音速巡航ミサイルを実現できたとしても、そんなスピードで大気中を飛翔させたら、空力加熱でトンでもないことになってしまう。そもそも、そんなものが飛んでいった日には、SM-3 の赤外線シーカーにとっては絶好の的だと思うけれど (ただし、ソフトウェアの書き換えは要るかも)。

それに、巡航ミサイルの警戒・探知については、地上設置の防空レーダー網に加えて、さらに念を入れて JLENS (Joint Land Attack Cruise Missile Defense Elevated Netted Sensor) か何かを飛ばしておけばよいのだから、殊更に警戒するのが大変というわけでもない。


子供向けの TV 番組では「変身ヒーローもの」が定番だし、ギリシア神話でも神々が持つべき能力のひとつに「変身」があったぐらいで、なるほど変身というのは人類のロマンをかき立てる存在ではあるだろう。でも、何でもかんでも変身させればいいってものではありませんってば。

産経新聞としては、「ロシアの軍事力が増強されている、ロシアの軍事技術が進んでいる、対抗措置を講じなければならない」という意味で書いた煽り記事なのかも知れない。あと、まるっきり正反対の視点から、「MD なんて意味ない」と主張するのに都合のいい論拠を求めている人も、この手の話にダボハゼのように食いつきそうだ。なんという呉越同舟。

追記。
後から入った情報によると、ソースになってと思われる外信の時点ですでに、「弾頭が改造版巡航ミサイルに変わる」という記述があった模様。したがって産経が独断で突っ走ったわけではなかったのだが、せめてソースを鵜呑みにしないでちゃんと検証してくれれば…

でも、元記事がデタラメの塊みたいなものなのだから、どちらの論者にとっても有害無益。とっとと訂正記事を出した方がいいと思うけれど。

ついでに、巡航ミサイルつながりでひとつ。
先日、北朝鮮が黄海で、SS-N-2 Styx (これだって有翼巡航ミサイルの親類みたいなものだ) を撃っていた。ノドン・テポドンみたいな弾道ミサイルならともかく、低速で射程も短い対艦ミサイルの試射なんて、いってみれば場末の花火大会みたいなもの。完全にスルーしてもいいぐらい。あちらにとっては、構って欲しくて撃っている側面もあるわけだから。

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