Opinion : 冷戦後の宴の軌道修正 (2008/10/27)
 

米空軍の Michael Donely 長官が、アメリカ本土の核関連戦力を統括するメジャー コマンド・Global Strike Command の創設を発表した。マスコミ報道では「核関連の不祥事を受けた体制立て直し」といった感じの受け止められ方をしている様子。

確かに、「間違って本物の核兵器を積んで飛んじゃった事件」とか「間違って核弾頭の部品を輸出しちゃった事件」とか「ICBM 基地の当直が居眠りしちゃった事件」とかいった具合に、いろいろと不祥事が起きていたのは事実。それの責任をとらせる形で、Michael Wynne 空軍長官と Michael Moseley 空軍参謀総長のクビまで飛んだ。

ただし JDW (2008/10/22) によると、Michael Wynne 元空軍長官は「核関連の不祥事が、更迭の直接的な原因になったわけではない」と発言しているそうだけれど、それはそれとして。


不祥事が発生したときに、単に「たるんどる」といって吊し上げるだけなら簡単だけれども、話はもうちょっと複雑。

その核関連の不祥事に関する調査報告によると、米空軍において核兵器を取り扱う部門が "主流派" から外れていることが、弛緩の原因になったのではないかという指摘がなされている。

事実、冷戦期に核抑止力の主役を務めた SAC (Strategic Air Command) は 1992 年の組織改編で廃止となり、TAC (Tactical Air Command) と合併して ACC (Air Combat Command) になった。冷戦崩壊で全面核戦争の危機は遠のいたと認識されているし、2000 年以降は GWOT (Global War on Terror) が前面に押し出されて、脚光を浴びるのは陸軍や海兵隊の地上部隊、それと特殊作戦部隊。となると、それを支援する戦術戦闘機が空軍の主役になるし、以前は核ミサイルや核爆弾を積んでアラート体制に就いていた爆撃機も、地上部隊支援のために JDAM を積んで駆り出されることになる。

こうなると、当然ながら核兵器関連のプライオリティは下がる。プライオリティが下がった非主流派の分野には予算や人材もまわりにくくなるし、使えるリソース・時間・予算には限りがあるのだから、結果として核兵器に関連する訓練の頻度も減らされる。そうした事情が、核兵器の取り扱いに関する弛緩の原因になったのではないか、というわけ。そして、それに対する "揺り戻し" の現れが、Global Strike Command の創設ということ。
(ref : 'Bent Spear' betrays USAF neglect of nuclear mission - JDW 2008/2/20)

他の分野でも、以前ほどには「低烈度紛争」だの「不正規戦」だの「MOOTW (Molitary Operation Other Than War)」だのといった言葉が聞かれなくなり、大規模正規戦も大事にしないとダメじゃないの ? という声が出てきている様子。何も空軍に限ったことではなくて、陸軍でも、砲兵隊や戦車隊までが徒歩でイラクの市街地をパトロールしている状況だから、それに対して危機感を持つ声があがっても不思議はない。

こういった話をシンプルにまとめると、「周囲の状況の変化によって、ベクトルの揺り戻しが生じた」ということ。ある方向から別の方向にパッと舵を切り直して正解をスパッと見つけ出す、というのは現実問題として難しい相談で、極端な方向に行きすぎて引き戻したり、失敗や不具合が露見して軌道修正を余儀なくされたり、といったことを繰り返すのが世の中の常。米軍の軌道修正もそのひとつというわけ。


これは何も、米軍の話だけではないと思う。サブプライムローンの破綻に関連する金融危機に絡んで「市場原理主義は終わった」とかいう類の論調が聞かれる。それは確かにそうだけれども、じゃあ従来とはまるっきり正反対の方向に舵を切り直して、国家統制・計画経済でもって共産主義体制にしようと考えている人は、(少なくとも日本や欧米の為政者には) いないと思われる。

グローバル化云々にしても同じことで、いまさらすべてご破算にして、鎖国、ないしは限定的な範囲だけで完結するブロック経済 (っていう言葉の使い方で合ってるだろうか… ?) に戻そうといっても、それは無理というもの。

現実的な落としどころはおそらく、以前よりも政府の介入や規制を強めた形での資本主義的経済運営。規制や介入を強めることで、暴走して極端な大クラッシュが発生しないようにするということで、まさに行きすぎに対する軌道修正。ただし将来、また揺り戻しが発生して「少し規制を緩和しようか」という話が出てくるやも知れぬ。

以前に書いた、ロシアと欧米の対立にしても同じこと。
グルジア紛争の直後、欧州諸国とロシアの対立が激化して大変だー、とマスコミで煽っていたけれども、いまさら 1980 年代前半のような冷戦構造に戻したところで、ロシアにとっては却って不利。協力するべきところは協力する、ただし主張すべきところは主張する。そうやって、なめられないように足場を固めつつ、これ以上の NATO の東方拡大は阻止する、というのが無難な落としどころ。

つまり、ソ聯崩壊から続いてきた動きに対する揺り戻しとして、以前よりもロシアが発言力とプレゼンスを強めつつあるということ。

だいたい、グルジア紛争に絡んでマスコミが "対立" を煽っていたのはホンの 2 ヶ月ばかり前の話なのに、今ではもうそんな話はすっかり忘れ去られて、金融危機の話で埋め尽くされている。えてして、そんなものである。(そんな調子だから「マスゴミ」と呼ばれるのじゃ :-p)


手近なところで 2 件ばかり引き合いに出したけれども、要約すると、これからしばらくは冷戦崩壊から続いてきた "宴" の時期が終わって、さまざまな分野で軌道修正する動きが続くことになるのでは、と感じた次第。

その他の分野でも、似たようなものではないだろうか。ある方向に向かってイケイケドンドンで突っ走ってみたけれども、やっぱり具合が悪いということになって早めに軌道修正したり、ブレーキが効かなくてクラッシュしてから引き返したりする。新しいテクノロジーが登場して、以前なら非現実的だったことが現実的になったための軌道修正、というのもある。

とはいえ、いきなり正反対の方向に舵を切り直すことは多くない。あっちにぶつかったりこっちから後戻りしたりしながら、軌道修正を繰り返しつつ最適解を求める。一直線ではなくて、ウネウネした動きになる。ただし、後から長期的に見ると、結果としてかなり変化したねぇ、ということはあるかも知れないけれど。

そのことが分かっていないと、ある極論が破綻したときに反対方向の極論にひっかかって、トンでもない判断ミスをしでかす、なんてことになるんじゃないだろうか。結局のところ、行き着くところは中庸ということが大半だと思うけれど。

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