Opinion : 政治的輸出商品 (2009/1/5)
 

新年早々、あまり「めでたくない」話題ではあるけれど。

結局、航空自衛隊の F-X 候補から F-22A が脱落することになるらしい。F-22A については、議会が「輸出すんな」という法律を作ったのだから、それをどうにかできるのは議会だけ。

別に民主党政権ができるからとか、新政権の国務長官が「あの人」だからとかいうこととは関係なく、アメリカの議員に「日本に F-22A を輸出した方が得ですよ〜」と納得させられなかった時点で、F-22A の目はなかったということ。


そりゃ、F-22A が手に入るなら、それに越したことはない。ただ、完成機輸出すら法律で明確に輸出が禁じられているというのに、さらに「FMS (Foreign Military Sales) による完成機輸入では稼働率を維持できないから、ライセンス生産すべき」なんて主張する人がいる。いいたいことは分かるけれども、そもそもブツが手に入るかどうかという話をしているのに、「ライセンス生産ってレベルじゃねぇぞ」というのが正直なところ。

現実的に考えて、「自国の技術的優位が脅かされないように」といって輸出を禁じているのに、いきなり「ライセンス生産させろ」と要求して、通ると思う ? こっち側の都合だけじゃなくて、相手の言い分を考慮に入れた上で、どうすれば納得させられるか考えなければ。

もちろん、数が限られている中で制空権を維持するには、周辺諸国を越えられる戦闘機が要る、という理屈は分かる。でも、戦闘機に限らず兵器というのはすこぶる政治的な商品なのだから、「これだけの性能のモノが要る」とか「これだけの価格でないと買えない」とかいう話だけでなく、政治的な立場から眺めることも必要。場合によっては、そっちの方が優先することすらある。

輸出する側からすれば、兵器輸出によって自国と相手国との関係、あるいは相手国とその周辺諸国とのパワーバランスをコントロールできるわけだから、買い手市場になっている一部の事例を除けば、生殺与奪の権は売る側に握られている。ぶっちゃけ、F-22A についていえば、日本でもイスラエルでもオーストラリアでも「頭を下げて売っていただく」立場。ライセンス生産がどうとか、あれこれ要求できる立場じゃあない。

だから、もしも東西冷戦が今も続いていて、その最前線に日本が置かれているという状況なら、また風向きは違っただろうと思う。

そもそもアメリカの兵器輸出というのは、他国と比べると「売ってやる」という性質が強い。まず、議会が「ダメ」といえば輸出できない。議会の関門を通過しても、相手国ごとに設定したランクによっては、上乗せ価格で売ってくる (NATO 諸国、ならびにそれに準じる諸国がいちばん割安で、関係が遠くなると上乗せ価格が上がる)。これは技術的な問題じゃなくて、どちらかというと政治の問題。

F-22A の対日輸出については「Lockheed Martin の仕事を確保するためにも、対外輸出で数を増やすことが必要で、だから日本に輸出するべき」という主張もある。ただ、それはあくまで内政問題であって、議会でこの主張が通用しそうなのは、テキサス州・ジョージア州・ワシントン州・コネティカット州選出の議員ぐらい。国内の雇用確保と自国の優位性維持を天秤にかけて、それでも輸出した方が得だと思わせるには、ちと説得力が足りない。

こんな調子だから、なにも F-X の件に限らず、兵器輸出に関連するニュースを眺めるときには常に、政治的な見地も必要だと思う。あと、それなりの産業がある国では自国企業を生産に参画させろと要求するのが常だから、経済、あるいは産業基盤の維持・発展とかいう見地からモノを見ることも必要。現に、特にヨーロッパの国や企業はオフセットを盛大にばらまいて受注を獲得する事例が目立つ。

ネット上で自分が見聞した事例などに限られるけれども、「F-X は F-22A、それもライセンス生産でなければ」と主張する人で、政治的見地、産業基盤的見地から「も」眺めている人は、あまり多くなかったという印象がある。それでは、どうやって米議会を納得させるかという話が出てきにくいのも、無理はなさそう。


実のところ、政治が絡むという点では買い手の立場が強い場合も同様。つまり、装備品をどこから買うかによって、国と国との関係 (正確には優先順位か) すら変わる可能性がある。最近の分かりやすい例では、いきなり供給元をロシアにシフトしたベネズエラ、NATO 諸国のウェポン システムへの切り替えを進めている東欧諸国などがある。

そういう意味では、ロシアの比重が以前よりも下がり、イスラエルが食い込んできているインドの動向、とりわけ MMRCA (Medium Multi-Role Combat Aircraft) は要チェック。過去の実績からすれば MiG-35 が本命だろうけれど、果たしてどうだろう ?

最近、インドはアメリカとの距離を詰めているので、MMRCA がアメリカ機になる可能性は、それなりにあると踏んでいる。でも、パキスタンも同系列の機体を持っているという理由で、F-16IN の可能性は低そう。それで、対米関係重視なら F/A-18E/F、対抗馬としては技術移転に制約がない Rafale (産業基盤の見地からすれば F/A-18E/F よりも有利)、と予想した。果たしてこの予測、当たるかどうか。

しかし、産業基盤の見地からすると、空自の F-X は技術開示やライセンス生産に前向きらしい Typhoon がフロントランナー、ということになってしまう。もっとも、空中給油がプローブ/ドローグ方式しか使えないとか、AAM-4 が物理的に載らないんじゃないかとか、いろいろ気になるところは多いのだけれど。

ともあれ、調達が決まっても戦力化までには時間がかかるのだから、そうむやみに先送りはできませんよと。あと、機種が何になるかという話とは関係なく、TAC の FI・FS 部隊ぐらいはすべて、掩体運用にすべきだと思うのだけどなあ。全部がダメなら、せめて西空・中空だけでも。(←しつこい)

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