Opinion : change, change の連呼に関する違和感 (2009/1/26)
|
アメリカ合衆国の大統領が交代した。就任式の話題について取り上げたブロガーはたくさんいたと思うし、ニュースも関連する話題で持ちきりだった様子。それは別にかまわないんだけれど、Barack Obama 大統領が大統領選の過程で注目されるようになった頃から、なにかというと "change" を連呼する人が増えてやしないだろうか。
早い話、"change" が流行語になったから、それを取り上げるのがトレンディ (笑) であるというのがひとつ。それから、この言葉の流行に乗じて、世の中が自分の好み通りに変わってほしい、という願望をむき出しにしたというのがひとつ。そんなところ ?
猫も杓子も "Change" を連呼している感があるけれど、そういうのって、ちょっと浅薄に見えないのかなあと。
確かに、アメリカ合衆国の大統領は強大な権力を持つ存在だけれども、何でもかんでも大統領の一存で、大統領の好きなように決められる訳じゃない。世の中には、大統領が「嫌だ」といったのに議会が押し切って予算をつけてしまい、それで建造された原子力空母、なんてものもある。
その議会にしても、あるいは大統領にしても、有権者による投票で選ばれることに変わりはないのだから、個人的なモノの考え方とは別に、自分を後押ししてくれるであろう有権者の態度も考慮に入れる必要がある。アメリカの議員の、有権者に対する気の使い方と来たら、もう日本の比じゃないと思う。
そんな状況だから、特にアメリカの議会における各議員の、地元に対する利益誘導ぶりなんて相当なモノ。たとえ、周囲で "buy American" の声が強くても、アラバマ州選出の議員は「KC-X には (Airbus A330-200 をベースにしてアラバマ州の工場で製造する予定の) KC-30 を !」と主張する。ここまで露骨だと、却って清々しい (注 : もちろん皮肉ね)。
そんな調子だから、大統領が替わっただけで、いきなり何もかもひっくり返る訳じゃない。そもそも、常々書いているように、たいていの変化は漸進的に起きるものだし、逆に革命的な変化はその後の揺り戻しが怖い。
そういう考えをする立場から "change" の合唱を見ると、すごく怖い。Barack Obama 新大統領が "change" といったから、何でもかんでもとにかく "change" だ、という感じの付和雷同を感じるから。現に、こんな事例もある。大相撲の話だ。
朝青龍「昨日、遅くまでテレビで (就任式典を) 見てたよ。すごいな。期待すること ? 同じ地球人として『世界経済の暴落を何とかしてほしい』とみんな思っているだろ。それと同じ。経済がよくならないと、平和にならないからな。
記者「横綱も『CHANGE』という感じですか ?」
朝青龍「どういう意味だ。フン。お前が変われよ」
ソース : http://www.nikkansports.com/sports/sumo/news/p-sp-tp3-20090122-452505.html
朝青龍関についてはいろいろと毀誉褒貶があるようだから、それと "change" の大合唱をリンクさせて、件の記者は「"change" の時代だから、横綱も (メディアが望む方向に) "change" すべきだ」といいたかったんだろうか。だとしたら、それってただの便乗というか、こじつけっていわない ?
この調子だと、「"change" の時代だから」と枕詞につければ、何にでも変化を求めることができてしまいそうだ。まるで「政権交代」が枕詞の、どこかの野党みたいじゃないの。なんか、親が子供を叱るのに「Obama 大統領が "change" っていってるんだから、あんたも "change" しないと駄目でしょ」なんていってる光景、案外とありそうな気が…
つまりは、「Barack Obama 大統領が "change" といったから、1 月 20 日は "change" 記念日」(字余り) ってこと ? (マテ)
そうやって、何にでも手当たり次第に変化すべきだと求める願望、というより妄想が膨らんでいくと、後でその反動が怖い。「"change" を掲げる大統領が出てきたから事態が良くなると思ったのに、どうして良くならないの」とかなんとかいって、勝手にぶち切れる人が出てきそうだから。
現に、すでに新大統領にハシゴを外された人が出てきている。例の「イスラエルの自衛権を支持する」発言のせいで。
なるほど、確かに Barack Obama 大統領は「就任から 16 ヶ月以内に在イラク米軍を撤収させる」と公約した。現実問題、アメリカにとってのイラクは「国の評判と人員と資金とリソースを飲み込むブラックホール」と化しているから、イラク政府には早いところ、自力で自国ので治安を維持できるようになってもらって、米軍は撤収する方がいいに決まっている。
でも、それとワンセットで「イラクからは撤収する、その分の戦力を振り向けてアフガニスタン派遣部隊を増派する」って、選挙期間中から発言してなかった ? イランの核問題についても、厳しい態度を示してなかった ? 米軍の装備調達プログラムを見直す話にしても、ただ単に減らすだけだなんていった ? 実は、無駄を省くとともに (政策に合わせて) 優先順位を見直すって話じゃないの ?
だから、新大統領の選挙期間中からの言動をちゃんと追いかけていれば、「Barack Obama 大統領は平和の使者である。George Bush 前大統領とは大違い」なんていう類の勘違いは出てくるはずがない。そういう勘違いがなければ、イスラエル支持発言でハシゴを外された思いをすることもないはず。でしょ ?
もはや流行語と化した "change" の一言に、個人的に過大な期待と願望と妄想をめいっぱい詰め込むのは、それをやった人の自業自得。だけど、その責任を他者になすりつけないでいただきたいものだと思う。可愛さ余って憎さ 100 倍、これまでは Obama 大統領のことを持ち上げていた人が、手のひらを返すようにコキ下ろし始める光景が目に浮かぶようなんだけれど。
|