Opinion : 海賊が裸足だから何 ? (2009/2/9)
 

なんでこのネタにこだわるのか、といわれると説明に困るけれども、今週もソマリアの海賊ネタで。なにせ毎日新聞の金子秀敏編集委員が "やってくれた" ものだから、対抗上 (?)、こちらとしても何か書いてみたくなった。


で、問題の記事が これ 。全文をそのまま引用するとアレなので、「なんだこりゃ」というところをいくつか引用すると。

「ソマリアの海賊は重武装なので巡視船では歯が立たない、だから護衛艦を出す」という議論を見受ける。この論理はおかしい。「重武装」というと、金銭目当ての強盗集団が、あたかもテロ戦争のゲリラ軍のように映る。

ナタや出刃包丁 (アフリカに出刃包丁があるのかどうかは知らないけど) ならともかく、各国反政府ゲリラ組織が御愛用の AK-47 や RPG を持ち出してきている時点で、十分にゲリラ部隊並みの重武装だと思いますが ? 現に、後の方で引用している中国船の話でも、「AK-47 を持った海賊が乗り込んできた」と書いているのだし。
それに、イラクやアフガニスタンで見つかる武装勢力の武器集積所では、AK-47 と RPG が主役ですが ?

海賊は警察力で取り締まる対象である。一方、ゲリラ軍は軍事力で掃討する交戦相手だ。護衛艦は海上警備行動という警察行動に行くのであって、対テロ戦争に出陣するのではない。

実は同じ毎日新聞の 別の記事 で、こんなくだりがある。

相手が反政府勢力など「国に準ずる組織」だった場合は「武力行使」とみなされ、憲法違反となる恐れもあります。

はて、金子編集委員の主張では「海賊 = 金銭目当ての強盗集団」なのだから、反政府組織みたいな「国に準ずる組織」を相手にする事態を想定する理由はないのでは。国に準ずる武装闘争組織といえば、それはもうテロ戦争のゲリラ部隊という方が相応しい。同じ会社の中で「海賊はゲリラ部隊じゃない」という主張と、「海賊の中にゲリラ部隊がいたら」という矛盾した仮定が同居しているのはどうかと。

その後の、中国船乗っ取りの話に至っては、もはや意味不明。「海賊は裸足だったので、火炎瓶を投げられたときに靴を要求したのだ」なんて書いておきながら、その次の段落では「陸上には海賊の豪邸がある」なんて書いている。豪邸を建てるほどの海賊が、靴を買うカネがない、なんてこともなかろうに。

それとも、「海賊は裸足だから軽武装で、ゲリラ組織ではない」という主張なんだろうか。でも、裸足で AK-47 を持っているのと、靴を履いてナタを持っているのと比較したら、常識的に考えて、前者の方が怖いと思うけれど。AK-47 の方がリーチが長いし、威力も大きい。

それに (やむにやまれぬ話とはいえ) 商船が火炎瓶で武装する事態を成功事例として称揚するような記事を書いている時点で、どうかと思う。自衛隊を出すよりも、商船が武装して自衛する方がいいとでもいうのだろうか ? それなら、仮装巡洋艦か何かを用意して派遣するのがいいのだろうか (Blackwater USA じゃあるまいし)。

結局のところ、この記事でまともな部分は「海賊問題の本質は海上ではなく陸上にある」という一節だけ。なるほど確かにその通りで、ソマリアにまともな政府を作って、それがまともに機能して自国の治安維持や経済を回していければ、海賊問題を解決する糸口ができる。そこのところだけは正しい。

ところが、その後で「国際社会の外交の力でソマリア問題が解決しなければ」と抽象論に走るもんだから、これでもうドッチラケ。外交の力で解決というけれど、具体的に誰が誰に対して何をどうしろと ? まさに INS (いったい何をするものか)。

私は前に「テロ対策には資金と支持と聖域を潰すことだ」と書いたけれども、そういう、なにかしら具体性のある話を書いていただきたい。国際社会の外交の力とやらを振りかざすだけで問題が解決するなら、アフリカにおける紛争なんて、とっくにみんなカタがついている。

まったく、水戸黄門の印籠じゃあるまいし。あれだって、徳川家の御紋を持つ関係者の権威が行き渡っているからこそ機能するのであって、そういう前提条件がなければ意味がない。それと同じで、「外交の力」を相手が尊重しなければ、外交努力というものは役に立たない。

具体的な案が出てこなくて「外交の力で」としか書けない上に、自分が書いた記事が支離滅裂になっている時点で、編集委員としてどうだろうと思う。毎日新聞社の前途が心配だ。


要するに、この記事を書いた金子編集委員は、「海自の護衛艦を出す」という政府の方針に異を唱えたくて、あるいは単に政府・与党批判の記事を書きたくて、適当に使えそうな話を継ぎ接ぎして記事を書いただけなのかもしれない (あくまで推測)。そういう点では、先週に書いた「自警団説」の話に通じるものがある。

その、海自派遣反対派が担ぐ「自警団説」にも、これはこれで相当な無理がある。そもそも現実問題として、「諸外国による違法漁業」「廃棄物の海洋投棄」という事実があるのか、事実ならどういった問題が生じているのか、それに対して海賊 (自称・自警団) が直接行動に出た事例がどれだけあるのか、仮にそうした事実があるとして、件数は一般的な海賊事件と比べてどうなのか、といった話が聞こえてこないのだから。

護衛艦の派遣に反対、というだけならタダ。でも、現に公海上で海洋利用の自由が脅かされていて、多くの国がその影響を被っているという事実がある。それに対して、あるのかないのかよく分からない話を振りかざしたり、対案以前の次元で思考停止したりといった状況では、反対派は自分で自分の足を引っ張っているだけなのでは。

それともあれだ。ソマリアに日本国憲法・第 9 条を輸出すれば海賊問題が解決する、とでもいうのだろうか。やれるものならやってみていただきたい。

Contents
HOME
Works
Diary
PC Diary
Defence News
Opinion
Ski
About


| 記事一覧に戻る |