Opinion : 鉄道ならではの魅力的なサービスって ? (2009/3/2)
 

今売りの「鉄道ジャーナル」を読んでいたら、編集後記で「鉄道ブームというけれども、鉄道そのもののサービスが魅力的ではなくなってきているので云々」という趣旨のことを書いてあった。

ふうむ。では、魅力的なサービスって、どんなもののことをいうのだろうか。

というと、鉄道趣味人の間では往々にして「食堂車が」とか「ラウンジなどの "ゆとりのスペース" が」とかいう話が出てくるものだけれど、果たしてそういうものなのかなあと、個人的には疑問に思っている。それだけなら、以前にも似たようなことを書いた気がするので、もうちょっと踏み込んでみたい。


昔みたいに運転時間が 6 時間とか 10 時間とか、長いものでは 24 時間とかいうレベルであれば、途中で何回も食事をとる必要があるし、ずーっと椅子に座ったままでは腰やお尻が痛くなってしまうから、席を立って動き回れることも、あるいは供食設備も重要だったと思う。

でも、当節では昼行列車の大半が 2-3 時間、長くても 4-5 時間程度の所要時間しかない場合が多い。なおかつ、食堂車が必要な時間帯にかかる列車がどれくらいあるだろう。そのために定員を削って食堂車を連結して、そこに人を何人も配置して、投資に見合った効果が得られるもんかなあと。しかも、いったん連結してしまった食堂車は、それ以外の時間帯にも存在し続けるわけだし。

なんだかんだといっても、移動そのものを楽しもうという人よりも、あくまで鉄道とは移動の手段であるという人の方が多数派なのだから、その移動を少しでも快適に、ストレスのないものにすることの方が先決じゃないかと思った。

最近、座席にノート PC 用の電源を設置する車両が増えているけれども、これなんかは車中で仕事をする人間にとってはありがたいもの。ついでに、ちょっと高くて遠いテーブルの位置を、もう少し低く・大きくして手前に寄せられると、PC を膝の上に載せずに済むのでありがたいけれど、座席とテーブルの構造を考えると難しいかな ?

電源は、なにもノート PC を持ち込んでいなくても、携帯電話の充電など、使い道はいろいろある。ポータブルの DVD プレーヤーを持ち込む人だっているかも知れない。座席に液晶 TV をいちいち設置するよりも、ポータブルの DVD プレーヤーを貸し出す方が安上がりだったりして… と思ったけれど、これは貸出品の管理が難しそう。

車中でノート PC を使う立場からすると、揺れないということも重要。東海道新幹線で 300 系と 700 系を乗り比べてみると、これがいかに重要なことか分かると思う。ましてや、トンネルが多い山陽新幹線を 300 系で移動するのは、正直いって嫌。

ハード的な話だけじゃなくて、ソフト的な改善策だってあると思う。たとえば、出張中のビジネスマンと家族連れが同じハコに乗り合わせたら、お互いに気まずいし、互いに気を使ってしまう。特に小さい子供は騒々しくなりやすいものだし、それを完全になくすのは難しい。乳離れできていない子供を連れている場合も同様。

それだったら、切符の売り方に工夫をして客層ごとに分けられないか、なんてことを考えてみた。大人の切符と子供の切符をまとめて買う場合には家族連れの可能性が高いから、そういう利用者は出来るだけ同じハコにまとめるようにするとか。
もっともこの方法、中学生以上だと大人料金になってしまうので通用しないし、客層に合わせて 100% 完璧にハコを分離するのは難しいと思うけれど、分けられる分だけでも分けられれば、何もしないよりいいんじゃないかと。

そういう意味では、「ひかりレールスター」みたいに接客設備を多様化させるのも、けっこう重要だと思う。もっとも、多様化させたらさせたで、その存在を周知徹底させて、窓口で積極的に売っていくようにする工夫も必要になるので、なかなか大変ではあるけれど。個室にしても、サイレンスカーにしても。

あと、鉄道というのは駅に行かないと列車に乗れないものだから、列車の中だけじゃなくて、その前後まで含めてスムーズに移動できるようにしないと魅力が落ちる。

たとえば、バリアフリー化は健常者にとっても助かるものだから、駅の改築などの機会があったら階段や段差をなくす方向にしてもらえると、これも広い意味での快適性向上になる。実際、大荷物を抱えていると階段や段差って面倒なものだから。ということを、スキーをやるようになってからひしひしと実感した (苦笑)。

駅の設備という話になると、通路や施設の配置・案内を分かりやすくするのも重要。昨今では駅ナカ商売が盛んだけれども、これ、店舗が構内に入り込んだ分だけ通路が狭苦しく、分かりにくくなっている場合もあるので、もうちょっと配慮してもらえると嬉しい。困ったことに、増改築を重ねた大規模駅ほど構内がダンジョン化しやすいものだし。昨今の東京駅なんて、相当なカオスだ。

あと、ダイヤに工夫して乗り継ぎをスムーズにするとか、ある程度の需要が見込めるなら積極的に直通運転を図るとか (もっともこれ、ダイヤが乱れると収拾がつかなくなりがちだけれど)、列車とバス・タクシーの連携をスムーズにするとか。工夫次第で改善できることは、まだまだいっぱいあるんじゃないかと思ったけれど、どうだろう。


もちろん、「カシオペア」みたいに移動の過程そのものを売りにしている列車もあって、それはまた話が違う。でも、それは絶対数からしてマイノリティ。所要時間が比較的短く、かつ純然たる移動の手段として使う列車の方が圧倒的に多いという現実もある。それを、手当たり次第に「供食設備の充実」や「車内を歩き回る楽しみ」を求めるのは、ただの懐古趣味なんじゃないかと。

鉄道に限ったことではないけれども、輸送業というのは信頼できる、ストレスのない移動を提供するのが基本であり、ゆとりとか移動の楽しみとかいうものは、その上で必要に応じてアドオンするものではないかと思う。そういったことを踏まえた上で、21 世紀の鉄道に相応しい「鉄道ならではの魅力」や「鉄道ならではのメリット」を打ち出していくべきではないかと。そんなことを考えてしまった次第。

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