Opinion : 手段としての alternative と、目的としての alternative (2009/4/13)
 

米軍の装備調達に関連する用語で、AoA というのがある。といっても Angle of Attack (迎角) のことではなくて、Analysis of Alternatives の略。何か装備調達を始める際に、どういった選択肢が考えられるか、あるいは現在進行中のプログラムに取って代われるような選択肢があるか、といった検討を行う作業のこと。

といっても、特に後者の場合、必ず代替選択肢が優位になるもんでもなくて、AoA の結果として「現行のプログラムをそのまま推進」となることもある。選択肢といっても、単に有象無象がたくさん揃っていればいいというものではなくて、現実的な選択肢でないと困る。

つまり、alternative が常に正しいと決めてかかるのは問題だろう、ということ。物事を反対側の視点から検討してみるのは、論旨などの穴を塞ぐ意味で、重要な作業ではあるけれど。

これ、そんな大上段に振りかぶらなくても、多くの人が無意識のうちにやっていることだと思う。たとえば、何かモノを買おうというときに、価格やスペックなどを考慮に入れて候補を選び、その中から「これにしようか」と優先選択肢を決める。その時点で、「でも、こっちの比較対象だと、こういう利点があるかも ?」なんていう具合に点検した経験がある方は、けっこう多いのでは ? AoA って、まさにそういうこと。


なんてことを考えたのは、自分の中で「そういえば、オーマイニュースが終了するというニュースがあったなあ」→「オーマイニュースって、確か alternative media っていわれてたよなあ」という話の流れがあったから。

他にもいろいろ原因はあるにしても、特に日本の場合、「市民記者」って言葉を前面に出した時点で、オーマイニュースは終了していたと思う。他所の国ではどうだか知らないけれども、この国で「市民」といえば、「国家権力 = 強大で悪、市民 = 弱者で正しい」という単純二元論に落とし込まれてしまいがち。となれば、こんな看板を掲げた日には、記者の層に偏りが生じるのは避けられない。事実、そうなってしまったわけだし。

つまり、オーマイニュース (日本版) の場合、はなから「既存マスコミに対する alternative」「今の権力に対する alternative」という色がつくのは不可避だったろう、ということ。そこで「権力は常に悪」「主流派は間違い」「市民は弱者で alternative だから正しい」という形に変質すれば、もうシチャンカチャンになるのは明白。

そういえば、4/4 に飯岡の J/FPS-5 が絡んだ誤報騒ぎというのがあって、さっそくダボハゼのように食らいついた人が何人もいた様子。はなから「日本政府による弾道ミサイル防衛への備え」にイチャモンをつけようと身構えていたところに、絶好の釣り針が降りてきたようなものだから、ハッスルするのも無理はないけれど。

それがさらに悪い形で出てしまったのが、すでにあちこちで話題になっているらしい、「北朝鮮が有人飛翔体を発射したらどうするんだ」というやつ。私は「有人飛翔体」と聞いて、真っ先に「桜花」みたいなのを想像してしまったけれど、それはともかく。

冷静に考えると、現時点で「北朝鮮の有人宇宙飛行」は想定する必要がないし (小さな衛星ひとつ軌道に投入できないのに !)、領空範囲外の上空を飛び去る分には、今回と同様に無視すれば OK。
断りもなく領空に突っ込んでくるのであれば、飛行機だろうがヘリコプターだろうがミサイルだろうが、あるいは有人だろうが無人だろうが同じことで、領空侵犯としてしかるべき措置をとればよろし。そういえば、無人ではない他国の偵察機を公海上で撃墜した国が、どこかにありましたな ?

多分、今回のテポドン祭りのせいで「やっぱり MD って必要じゃないの ?」という世論が主流になるだろうと見て、なんとかしてそれを食い止めなければ ! という焦りが、かような論法を生み出したのだと思う。つまりこれ、まず alternative な立場からモノをいわなければ、という本末転倒のなせる技ではないかと。御本人は「うまいこと考えた !」と御満悦なのかも知れないけれど。

いいかえれば、物事を反対側の見方からも点検しようという、alternative を手段とする動きには見えない。なにせ、予測可能な将来に渡っても実現の可能性は皆無といってよい「北朝鮮の有人宇宙飛行」に関して「将来にどうなるかは分かりません」なんて言い訳しているぐらいだから。(私の blog でも、荒唐無稽なことをいうなと突っ込まれたら、将来についてはどうだ、と言い訳した人がいた)

海賊対策として軍艦を派遣するのに反対する人にも、似たものを感じる。とにかく「まずは反対しなければ」→「反対論に説得力を持たせるために、何か使えるネタはないか」という思考過程を経たのでもなければ、「漁民が」とか「不法投棄が」とか「靴投げが」とかいう話はひねり出されないと思う。

なにしろ、この件が話題になるまで、日本で「ソマリアの漁業が圧迫されている」とか「ソマリア近海で不法投棄が問題になっている」とかいう話、ろくに出てきていなかった。それが海賊対策の是非論と絡めて急に湧いて出てきたのは、初めに反対論ありきで、後付けで使えそうなネタをひねり出したからでは ?

alternative な立場から検討して穴を塞ぐ、というならともかく、まず初めに alternative ありき、alternative だから常に正しい、という思考停止では役に立たない。まずはそういう考え方から脱却しないと、却って支持を減らしてしまうだろうし、それは本当に alternative なモノの見方が必要なときに役立たずになる。現状は、自分で自分の首を絞めているだけ。


そういえば。

不景気のニュースを受けて外食産業の利用が落ち込んでいるそうで、それに対して値下げで需要喚起、というニュースがあった。消費者の立場からすれば、結構なニュースに見える。でも、反対側から物事を眺めてみると、何か削らないと値段は下げられないわけで、それが人件費だったら ? なんてことが気になった自分は、ひねくれてるんだろうか。

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