Opinion : 続・中国が空母を造るんだって ? (2009/5/11)
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先日、「RecordChina」で「中国がロシアから正式なライセンスを取得せずに、Su-33 (Su-27 シリーズの艦載機型) の改良型を生産する計画を進めている。ウクライナから入手した機体を解析しているところだ」なんてことを報じていた由。
ただ、この記事はいささか胡散臭いところもある。というのも、こんないい加減なことを書いているから。
中国は Su-27 の技術を用いて生産した J-11 戦闘機を「自主開発」と主張、パキスタンなどに売却したため、ロシアは Su-33 の売却交渉をストップしていた。
それは最後の話を除いて、まるで違う。Su-27SK のライセンス生産版が J-11。それに独自のアビオニクスを付け足して、「独自開発」と称してロシアを激怒させたのが J-11B。そして中国がパキスタンに輸出したのは J-11 シリーズじゃなくて FC-1/JF-17。
こんな大間違いをやっている記事では、どこまで信用できるかどうか、ちと疑問。ひょっとすると、当事者が第三者のフリをして意図的に流した観測気球という可能性だって考えられる。特にウクライナ云々のくだりが。
以前、「中国が空母を作るんだって ?」で「空母保有に熱意を示してリソースをつぎ込んでくれることの効果」に言及した。その考えは今でも変わっていない。なにも、戦争や軍事力の競争というのは、正面装備の数だけでやるもんじゃないのだから。
ちょうどタイミングがいいことに (こら)、海上自衛隊では本格的な平甲板型ヘリコプター護衛艦「ひゅうが」が就役したばかり。実現の可能性、戦力としての有用性はさておいて、「これを足がかりにして F-35B でも積んで、本格的な V/STOL 空母を」と気勢を上げる人もいる。それに煽られて、中国で「空母を欲しがる世論」が盛り上がるかもしれないが、それは中の人にとっては痛し痒し。
なにしろ、空母というデカブツを建造するだけで大仕事だし、そこに載せる艦載機を用意して、乗組員や搭乗員を継続的に養成するための体制やインフラを作って、さらに護衛艦を揃えて運用のためのノウハウを蓄積して、ということになると、大変な人手と資金と物資が必要になるはず。他の分野に影響が出ないわけがない。
実際、人民解放軍の部内でも同様の考えがあって、それ故に空母保有に反対する声が… という話も出ている模様。でも、一般の国民のレベルでは空母が欲しくて欲しくて仕方ない傾向が見られるようだし、解放軍にしても、本気で空母建造を推進する声の方が強いと思わせる傍証がある。
なにしろ、ずいぶん前から空母の廃品やら未成品やらをあれこれと名目をつけて買い込み、動かないはずのものを動けるようにしようとしている状況。ロシアに Su-33 が欲しいと申し入れて交渉しているのも事実。こうしたさまざまな状況証拠は、本気で空母取得に向けて進んでいることを示している、といわずして何というかと。
あと、米海軍では空母の艦長にパイロット出身者を就けているけれども、中国でもそれを真似して、パイロット出身者の中から人材を選抜して水上戦闘艦の艦長を経験させる、なんてことをやっている。9 名を選抜して「パイロット出身の艦長を育成する課程」に送り込んだのは 1987 年の話だというから、その頃から先を見越して人材育成をやっていたわけで、どの口で「空母なんて要らない」といいますか、というのが正直なところ。
ただ、個人的にはこの話、ちと形から入りすぎているようにも思える。もちろん、パイロット出身者の方が航空戦を正しく理解している、という理屈には理があるけれども、太平洋戦争の頃には、パイロット出身でなくても空母航空戦をちゃんと指揮した提督だっていたわけで。
ついでに書いておくと、「あっちの国が持ってるから、自分のところも同じものが欲しい」といって高価な新装備を導入して成功した事例、どれぐらいあるだろう。ちょっと気になる。
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だからといって、空母… というより空母戦闘群というシステムが金食い虫という事実は変わらない。しかも、いくら立派な空母ができても、岸壁の女王では意味がないのだし。
現実問題として、空母を作ることができたとしても、艦載機はどうするつもりだろう。あと、カタパルトと着艦拘束装置も。ロシアの兵器輸出において、中国が占める比率はどんどん下がってきている昨今、以前と違って「中国に買ってもらわないと、ロシアの兵器産業が立ちゆかない」という状況でもなくなってきている。さらに例の知的所有権問題もあるから、ロシア側がピリピリしているのは確か。
そこで、Su-33 の輸入を諦めて冒頭記事のようにリスク承知でパクるか、あるいは J-10 あたりをベースに自主開発 (どこまでが本当に自主なのかはともかく) なんてことになると、また新たなリソース食いの原因ができてしまいそうだ。
以前のように中国経済がイケイケドンドンで、諸外国が「巨大市場の魅力」にひかれて中国に色目を使ってくれる状況ならともかく、最近では少々風向きが変わってきている傾向もある。果たして、従来の「勝利の方程式」のままで突っ走り、リソースをブラックホールにドンドコつぎ込む羽目になっても耐えられるかどうか。しかも、海軍の他の部門、あるいは他の軍種とリソースの奪い合いをやりながら (←ランド パワー国の宿命。韓国海軍にも似た傾向があるかも)。
そうなったときに (または、そうなりかけたときに) 「これではまずい」ということになって、軌道修正するきっかけにつながる可能性もある。これには、帝国海軍における八八艦隊という前例もある (ただし、ワシントン条約やロンドン条約の国内的処理が太平洋戦争につながる一因になった、ともいえそうではあるけれど)。
もっとも、個別の装備体系に関する軌道修正と、外洋に押し出そうとする国家戦略、あるいは近隣の島嶼を手中に収めようとする国家戦略の軌道修正がストレートにリンクするかどうかというと、それはまた別の問題。結局のところ、党がどういう形で自国の生存を図っていくかというのが根本問題。
つまり、ハードウェアが存在するから「脅威」なのではなくて、背後にある国家戦略、それを具現化するための運用法やドクトリン、それを取り巻く C4ISR のシステム、戦力化の度合、といったところが問題。そして、空母云々よりも、そちらの方が気になる。
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