Opinion : 切り札投入のタイミングと情報収集の話 (2009/6/1)
 

トランプでも将棋でもチェスでも何でもそうだけれど、「切り札」とか「決定的な一手」みたいなものは、さまざまな分野にある。問題は、それを投入するタイミング。

自分がいいカードを持っていても、ここぞという場面で投入して威力を発揮させないと、役に立たない死蔵品になってしまう。かといって拙速に投入すると、後で本当に切り札が必要な場面になったときに、打つ手がなくなって困ってしまう。


多分、企業や店舗などにおける設備投資・人材投資の類も同じだと思う。製品の売り上げが好調だからってんで、ドカンと投資して設備を増強したら、売上が下降線に転じて大荷物、なんていうのはよくある話。逆に、投資を渋ったせいで需要に対応できず、商機を逃がしてダメージ甚大、なんていうこともある。

いずれにしても、後になって結論が確定してから「あのとき、ああしておけば良かった」と後知恵でモノをいうのは簡単だけれど、それは後からだからいえる話で、ゲームが進行しているときに正しい判断をしろといっても難しい話。

どうしても、この問題を解決したかったらタイムマシンが要るな… と思った。タイムマシンで未来に先回りして「最適なタイミング」を知り、過去に舞い戻ってそのタイミングで切り札を投入すれば、完璧に思える。

けれど、よくよく考えると、これも問題がありそう。先回りして打ち手を変えるということは将来の出来事に "干渉" しているわけだから、結果としてその後の事態の経過が変わってしまい、先回りした未来とは違う結果になるんじゃないか。となると、干渉と先回りの無限ループになりはしないか。と思ったけれど、自分はこの手の話の専門家ではないので、しかとは分からない。

結局のところ、現実的な落としどころとしては「過去の歴史や同種の事例について学んで、最適なタイミングを判断する眼力を養う」ことと、「切り札を投入する際に、それが失敗してもリカバリーできるような代替手段を用意しておくこと」ということになるのだろうなと。なんだか面白味のない結論だけれど、私のところでは毎度のこと。

もっとも、どちらも簡単そうで簡単じゃない。それに、人間は往々にして願望あるいは希望的観測という名のフィルターを通して物事を見てしまうから、そこで眼が曇って判断力が低下するのはよくある話。ときには、「ダメだと分かっていても、この手を打つしかなかった」なんてこともあるだろうし。それを後知恵であれこれ論評するのは簡単だけれど、後知恵は所詮、後知恵。

といったところで、昨今の北朝鮮の挙動を見てみると、「切り札の大安売り」の感がある。テポドンのカードが不発に終わったから次の手を打たざるを得ない、というのは分かるけれど、核実験をやらかして、いささか意味不明な短射程ミサイルの発射をやらかして、宣戦布告ともとられかねないレトリックを繰り出している。さらには、弾道ミサイルの発射準備とかいう話まで出てくる始末。

対外的に物事を都合良く運ぶためであれ、対内的に政権の基盤固めを行うためであれ、これだけつぎ込んで物事が思い通りに運ばなかったら、もう手持ちのカードはスッカラカン、なんてことになりかねない。そこでやけっぱちになってくれると、周囲が迷惑する。

もっとも、周囲の国は「北朝鮮を抑え込もうとしている」けれど、「北朝鮮を滅ぼして韓国と統一させよう」とは考えていない可能性が非常に高いわけで、それは当の北朝鮮も承知しているのでは、というのが個人的な見方。個人的にも、それが (北朝鮮の人民にとってはともかく) もっとも無難な線だと思うし。いいかえれば、そういう状況に安住して、ギリギリのところを突いて暴れているともいう。


タイミングの話とは違うけれども、自分が「切り札」だと思っていたら、実はそれは切り札でもなんでもなかった、というのもありがちな話。ポーカーでフルハウスを持っていたので強気で勝負に出たら、相手がストレートフラッシュを出してきた、なんてことになったらシャレにならない。

同じように、外交の世界で「そんなこといってると戦争になるぞ」とか「うちの軍隊の方が強いぞ」とかいう類の脅迫的言辞をかましたときに、相手がそれを真に受けてくれればいいけれども、真に受けてくれないと意味がなくなる。見え透いた例だと、核兵器と運搬手段が揃わないうちに「日本が焦土になる」なんていってみても、「フフン」と笑われて終了してしまう。

だからといって、誰かさんが主張しているような「日本人の犠牲が少ないうちは、北朝鮮の核兵器も弾道ミサイルも対応策を講じるべきではない」なんて寝言は、論外のそのまた外だけれど。

多分、これもタイミングの話と同じで「過去の経験」や「リカバリー手段 (または次の打ち手)」が必要なのだろうけれど、さらに情報収集が重要になるはず。相手の状況、相手が隠そうとしている手持ち札の内容が分かっていれば、自分の状況と突き合わせて相対評価が可能になるから、切り札が切り札として機能するかどうかも判断しやすくなるだろうし。

だから、過去のデータ分析や現在の情報収集のために、国家に情報機関は必須。あと、それがちゃんと仕事をするだけでなく、イエスマンになって上の人間が喜ぶ情報だけ流すような事態を回避できないと、国がつぶれる。どこまで実現できるかどうかはともかく、そういう認識があるかどうかだけでも、案外と差がつくのではないかなあと思った次第。

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