Opinion : 求む・小さな高級車 (2009/6/8)
 

「平和がどうとかいってるけれど、早い話が「"日本は平和国家" という看板」あるいは「平和を愛している私」にとっての拠り所を失いたくないだけだろうがっ、とキレそうになってしまったけれど、その話はとりあえず措いておいて。

先日、我が愛車が二度目の 12 ヶ月定期点検の時期を迎えたので、ディーラーに持ち込んで点検してもらった。そのついでに、新型のレガシィをしげしげと眺めてみたけれど、なんともまあ、大きく、ムキムキマッチョになってしまったなあ。というのが第一印象。

これに限らず、日本の道路事情を無視してクルマばかりが肥大化していって、どうするんだろう。と思ってしまった。かつて、トヨタのプログレが「住民の平均所得が高めで、かつ道路が狭隘」な街で人気を博していたそうだけれど、単なる小型車ではなくて、小さめだけれども丁寧に、かつコストをかけて作られた高級車というのは、ひとつの高付加価値路線としてアリだと思うのだけれど。

現実問題、ちょっと裏道に入ると「ぶつけないかなあ」と思うぐらい道が狭隘、というのはよくある話だし、ダンジョン化した世田谷方面なんかに行くと、5 ナンバーいっぱい程度のサイズを持つ我が BP5E でも、神経を使ってしまう。もっと大きいクルマが増えてきている昨今、みんなどうしているのやら。


レガシィの場合、先代は後ろのドアが小さめで、大柄な人が乗り降りに苦労していた、なんて話があったらしい。現物を改めて眺めてみると、それは理解できる。
とはいえ、1〜3 代目まで 5 ナンバーのサイズを頑なに守ってきたのに、いきなり、ずいぶんと違う方向にベクトルを振ったものだし、ちょっと反対方向に振れすぎたんじゃないかと。ディーラーの人は「グローバル化しまして…」と話していたけれど、一歩間違えば「日本市場を見捨てた」とも受け取られかねない諸刃の剣。

といっても、マーケットが求めるものを作らないと商売が成り立たないのは、他の業界も自動車業界も同じ。そして自動車がもっともよく売れるアメリカで、大きめのサイズの方が人気が出やすい傾向があるのは事実。だから、アメリカ市場で人気が出たばっかりに、どんどん肥大化してしまったクルマは幾つもある。もっとも分かりやすい例がホンダ・アコードだと思う。

もっとも、開発から量産化までに何年もかかる自動車の世界では、開発当初に定めたコンセプトが、モノが世に出る頃には周辺状況が変わってしまったせいでずれを生じて… というのはありそうな話で、そこが難しいところ。

ドンガラのサイズと燃費は正比例しないけれども、大きくなれば、その分だけ製造・輸送・運用の過程でエネルギー消費が増える傾向はあると思う。となれば、まずは「グリーン ニューディール」なんてことをいいだしたアメリカで、big と plenty を重んじる価値観を変えて、従来より小さめだけれどもテクノロジーと付加価値が詰まったクルマがナウい (←死語)、という方向に引っ張ってくれるのが、クルマの肥大化に歯止めをかける早道なのかも。

そういえば、ちょうど GM がハマーを中国企業に売る話が決まったけれども、これだって「オフロードを走るわけでもないのに、ファッションで巨大なオフロード車もどきを走らせることの無駄」から訣別する象徴だと考えれば、そう悪い話ではないと思ってみたり。むやみにデカくて押し出しがいいクルマを有り難がる発想は、中国に投げてしまえ、シッ、シッ、とか (ぉ

実際、トヨタのプリウスは大きくもなければ高級装備の塊でもないけれど、セレブ御用達のクルマ、ある種のステータス (というよりインテリっぽさか) を感じさせるクルマ、というイメージがあったりする様子。もっとも、これは一種のファッションみたいな部分がありそうだけれど、事情はどうあれ、「デカい」「高い」とは違った価値観で評価されているのなら、それはそれでいいことだろうと思った。

あと、冗談半分、本気半分で思ったのは、クルマが小さくなれば占有面積が減るわけだから、クルマの小型化が進めば渋滞が何パーセントかは減るかもしれないかも、と。

なんだかこういうのって、F-15 と F-16 の関係と似た部分があるような気がする。F-16 は「機能を絞って、小さくて安価で機敏な戦闘機」を企図して生まれた機体だけれども、だからといってテクノロジーを出し惜しみしたわけではない。価格がとりたてて高いわけではないけれども、考え方は「小さな高級車」に近い部分があるように思える。

あれ、そういえば F-16 って、ほかならぬアメリカ製の戦闘機だよねえ ?


特にクルマの場合、S15 シルビアみたいな数少ない例外を除いて、新型になる度に少しずつ (あるいはドカンと) サイズアップしていくもの。そうなってしまう事情は分からんでもないけれど、昨今の自動車業界を取り巻く状況からすると、ここら辺でユーザーもメーカーも、違う方向性に頭を切り換えてみてもいいんじゃないかと思った。

なにも「小さくする = 安くする」と決めつける必要はないし、それでは新興国の新興メーカーばかりが有利になってしまう。そうじゃなくて、「従来より小さめだけれども、必要なところには、しっかりおカネがかかっています」という方向に行ってくれれば、メーカーの収益にとっても、ユーザーの意識にとっても、エネルギー消費節減の面からいっても、悪くない話だと思うのだけれど。どんなものだろう。

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