Opinion : 軍事を学ぶ際にやらない方がいいこと (2009/6/29)
 

なんだか先週の記事が好評だったみたいなので (当社比)、続編をひとつ。

ただ、「やってはいけない」と断言してしまうのもどうかと思ったので、「やらない方がいい」とトーンダウンさせてみた次第。後の方で「"いちぜろ" 思考はダメ」って書いてるのに、ここで「いけない」って書くと矛盾があると思ったし。


まず、やらない方がいいなと思うのは「単純善悪二元論」とか、「"いちぜろ" 思考」の類。

そりゃ、人命・さまざまな資産・自然を破壊するのだから、戦争なんてしないで済むのなら、その方がいい。ただ、そこで倫理的な話を前面に押し出してしまうと、そこで話が止まってしまう。そもそも、誰が「善」で誰が「悪」なのか、簡単に決められないことも多いわけだし。

それに、過去の人類史の中では、戦争をなくそうといろいろ試行錯誤しては、その度に裏切られてきた実態がある。それらはたいてい、「過去にこういう原因で戦争になったから、その原因を除けば良いのではないか」といって手を打ってみたら、別のところから違う種類の原因が発生して裏切られた、というパターン。

つまり、単純に何かひとつ「戦争の原因」というものがあって、それを除き去れば世界に愛と平和の千年王国がやってくるかというと、断じてそんなことにはならない。それは過去の歴史が証明済み。このことは、「新訂第 4 版 安全保障学入門」を読んでみて、改めて認識した。

だから、善悪二元論とか "いちぜろ" 思考でもって、「○○はダメだから除くべし」とやっても、それは新たなモメ事の種を撒くだけで、解決にならない。よって、この手の考え方は避けて通らないと、軍事に関連するさまざまな物事を、冷静に考察できなくなってしまう。


もうひとつ。それが「過剰なまでの思い入れ」。相手が国でも装備でも個人でも同じ。実のところ、これは「いうは易く、行うはなんとやら」の典型なのだけれど。

じゃあ、何をもって「過剰」と「過剰でない」の線引きをするかというと、定量的に計測するのは難しいのだけれど。多分、国でも装備でも個人でも、思い入れが激しくなって「アイドルはう○こをしない」的な状況にまで至ってしまうと、危険信号かなあと。

なぜかというと、その域に達するとネガティブな情報を自動的に頭の中から排除する、一種の精神的遮断機が作動してしまうから。先週にも書いたように、当初に流布されていたのとは違う話が後から出てきて大逆転、ということがチョイチョイ発生するのが、この業界。だから、気に入らない情報 (これ重要) を自動的にガセネタ扱いして排除してしまうのは、ちと危険じゃないかなあと思った次第。

これ、逆もまた真なりで、「○○を良くいいたくない」という逆方向の精神的遮断機が作動すると、その「○○」に関するポジティブな話を片っ端から排除して、ネガティブな話だけをかき集めることもありそう。さらに重症になると、それを 2ch でコピペして回る (え

多分、陰謀論にハマる人のモノの考え方も、この手のロジックに近いんじゃないかと思う。雪斎先生によれば「陰謀論とは脳内麻薬」だそうだけれど、まったく同感。前述した善悪二元論とも通じる話で、「俺様が考えた、戦争の原因になっている悪の黒幕」を決めて、それに関する話は何でもかんでもこれ陰謀、という考え方にはまりこむと、あらゆる事象を陰謀のせいにしないと気が済まなくなる。

すると、特定の事象に関するニュースが大量に流されるのは「都合が悪いニュースを隠蔽するための政府の陰謀」という話になり、著名人が亡くなると「C○A の陰謀で毒を盛られたのだ」という話になり、誰かが司直の手にかかると「国策捜査の陰謀」という話になってしまう。

陰謀にこじつけようと思ったら、それこそもう、何でもかんでも陰謀にできてしまう。たとえば、「北朝鮮の弾道ミサイル発射は、日本に MD システムを買わせるためのアメリカの自作自演」とか。これを読んで「そんなアホな」と思っているうちは健全。「ひょっとしたらあり得るかも ?」と思ったら危険信号かも。
もっとムチャクチャになると、「電話で「もしもし」というのは、JIS キーボードだと英字が「MDMD」になるので、これは MD の必要性を無意識のうちに刷り込むための陰謀である」とか。(自分で考えててアホらしくなった)

なにしろ陰謀論というのは安直に逃げを打つには最高だから、いったん手を染めると抜けられない。習慣化して、断とうとしても禁断症状を起こす。陰謀論的な思考から抜けようと思ったら、とてつもない努力が要る。


現実問題としては、この手の話は自分もまだまだ発展途上なので、自戒を含めて書いてみた次第。何事にも動じず、冷静に、淡々と接することができれば理想的なのだけれど、もともと好きで首を突っ込んだ世界のことだけに、なかなか実行できないのは辛いところ。

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