Opinion : そもそも "欠陥商品" って何 ? (2009/7/13)
 

国防予算の増額に反対する人などが多用する常套句のひとつに「○○は欠陥兵器だ」というのがある。つまり「欠陥兵器にカネを出すな」という論法。でも、この手の人に「欠陥がなければドンドン調達していいのか」と反問すれば、あれやこれやと違う理屈を付けて反対し続けるんじゃないの、と思える。

別に兵器に限らなくとも、「○○は欠陥商品だ」「欠陥商品を放置しているメーカーは怪しからん」という類の批判は、チョイチョイ眼にする。そんなこんなで、この「欠陥商品」という言葉について、考えてみようかなと思った次第。


いきなり開き直りっぽいことを書くと、何の欠点も不具合も弱点も抱えていない商品や企業やその他の組織が、いったいどれだけあるよ、というのが正直なところ。前にも同じフレーズをどこかで書いたような記憶があるけれど、「完全無欠」という枕詞を付けていいのはロックンローラーだけだ (え

たとえば戦闘機でも軍艦でもミサイルでも戦車でも、相反するさまざまな要求事項を突き合わせて、トレード スタディをやって、どこでバランスをとればいいか、と検討を重ねる。その上で決めた落としどころに合わせてモノを作るから、当然ながら、高いプライオリティを与えられる項目もあれば、その逆もある。

たとえば F-117A なら、レーダー反射を低減することを最優先目標に掲げたから、その他の項目のプライオリティが落ちた。したがって、超音速飛行はできないし、搭載できる兵装に限りがあるし、そもそも逆探知を避けるためにレーダーを積んでいないし、レーダー電波吸収材などの整備に手間がかかる問題も抱えている。それでも、レーダーに映りにくいことの利点が大きいと判断したから、他のことに眼をつぶったわけで。

その F-117A を指して「レーダーも、長射程の空対空ミサイルも搭載できないのに戦闘機を名乗るなんて、欠陥商品だ」というのは、話が分かっていない人がやることだといえる。
分かり易い例で F-117A を引き合いに出したけれども、他の製品でも事情は同じ。それに、特に工業製品には「初期故障」がつきものだけれど、それは運用と熟成を重ねるにつれて抑え込めるのが普通。

あと、特に最近はコンピュータ制御で動くものが多いから、ソフトウェア (と、そのソフトウェアを書く前提になるアルゴリズム) の熟成が進んでいない状態だと、いろいろ不具合が出てくる。F-22A だって、テストにテストを重ねたはずだったのに、ハワイから西に向かって飛行して日付変更線を超えた途端に、いきなりバグが出て「ブラックアウト」する騒ぎになった。イージス戦闘システムだって、最初はいろいろあった。

でも、ソフトウェアで制御されるということは、裏を返せばソフトウェアの改善によって問題をつぶしたり、新機能を追加できたりするということ。ルータやデジカメを使っている人にはおなじみの話だし、AESA レーダーや電子光学センサーの類でも事情は同じ。現に、AESA レーダーのソフトウェアに手を加えれば、ジャミングやデータリンクまで実現できるんじゃないか、なんて話が出てきている。

そして、どんな製品にも長所と短所はあるものであり、長所を伸ばし、短所を突かれないような形で使いこなすことも求められる。そのことを分かっていないで、長所ばかり要求してモノを作らせると、えてして破綻する。

たとえば、戦闘機が搭載する射撃管制レーダーのレンジが短めだというならば、Link 16 のターミナルを搭載して、AWACS 機や AEW 機、あるいは地上のレーダー施設からデータをもらえるようにしてフォローする」という考えだってある (一例ですよ、一例)。
そもそも、レーダーのレンジがむやみに長いと ESM や RWR で逆探知されるリスクも増えるし、射撃管制レーダーに求められる高い分解能 (= 高い周波数帯) と長いレンジを両立させるのって大変だろうし…

これはあくまで一例だけれども、不具合や弱点に対して (もちろん許容されるレベルとそうでないレベルはあるにしても) 運用の工夫によって対処することは必要。それと併せて、その不具合や弱点を改善できないかどうか工夫することも必要。そういう話をすっ飛ばして、不具合が出た話に飛びついて「○○は欠陥品だ」とばかりあげつらう人は、ものづくりという行為を分かってないんじゃないかと思う。

おもいっきり極端なことをいうと、「スーパークルーズが可能で AAM を 10 発搭載できて、戦闘行動半径は 4,000km、もちろんステルス機で AESA レーダーを搭載して、ソフトウェアにバグがひとつもなくて、既存の精密誘導兵器をすべて搭載できて、ネットワーク中心戦にも対応できて、整備に要する時間は F-15 の半分で、機体の単価は 30 億円、そんな戦闘機を 120 日間で開発してね」なんていったって不可能。

実のところ、「企業の闇の話」みたいなネタも同じかも知れない。

だいたい、人件費が高い日本でモノを作っていると「企業努力で値下げしろ」といい、人件費の面で柔軟性を確保しようと思って非正規社員を増やすと「派遣切りは怪しからん、格差社会だ」といい、正社員を増やすために給与を抑制すると「景気後退の原因を作っている」といい、製造拠点を海外に移すと「産業の空洞化だ」といい、利益を出すと「企業は税負担が足りない、応分の負担をしろ」といい、赤字になると「経営者の責任だ、努力が足りない」といい、じゃあいったい、どうしろっちゅーねん。

どれかひとつだけを取ることができないから、間でどうバランスをとるか、という話になるんじゃなくって ?


そんなこんなで、不具合の露見を即・欠陥商品呼ばわりに結びつけるのは、いささか拙速に過ぎるというか、問題があるんじゃないか、と考える次第。修復可能な不具合ならまだ良いのであって、それをいちいち欠陥商品呼ばわりしていたら、世の中に出回っているモノは大概が欠陥商品になってしまう。問題を直すために基本設計から全面的にやり直して、fix したときにはすっかり別物になってました、というレベルであれば、それはもう「欠陥商品」といっていいと思うけれど。

多分、「○○は欠陥商品だ」という話を声高に叫ぶ人が出てきたときには、その人の平素の考え方や立ち位置をチェックして、補正をかけることが必要なんじゃないかと思う。往々にして、批判すること自体が目的で、手段は何でもよかった、という場合があると思うから。

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